毎日クラシックナビ主宰
宮嶋 極
毎日クラシックナビのユーザーの皆さま、いつもご購読いただきありがとうございます。皆さまのご支援のおかげで、毎日クラシックナビはたくさんの音楽ファンにお読みいただくサイトに成長させることができました。この場を借りてお礼申し上げます。
今年もレギュラー執筆者である音楽評論家、ジャーナリストの方々にご協力いただき、2025年の年間ベスト10を選出しました。公演の出来に序列をつけることに意味があるのか、とのご意見があることも承知していますが、日頃から取材で数多くの公演を〝定点観測〟している執筆者の皆さんの受け止めをランキングの形式で紹介することは、音楽ファンへの情報提供を行っていく上で一定の意味があるものと考えています。また、演奏者・事業社のサイドにも励みや刺激になることで、クラシック音楽文化の振興に少しでも資することができれば、との思いからも毎年実施しています。
さて、2025年の年間ピカイチ(ベスト)に選出されたのは東京・春・音楽祭の関連企画である「リッカルド・ムーティ イタリア・オペラ アカデミー」で上演されたヴェルディの歌劇「シモン・ボッカネグラ」でした。月例のピカイチ企画でも5人の選者全員がピカイチに挙げたほどの圧巻のステージでした。(もはや別格 ムーティの「シモン・ボッカネグラ」—東京春祭 イタリア・オペラ・アカデミーin東京……9月 | CLASSICNAVI)
選者を増やした年間ベストの投票でも15ポイントを獲得し堂々のピカイチ(ベスト)公演に輝きました。さらに24年の年間ピカイチにも同アカデミーで取り上げた「アッティラ」が選ばれています。
こうした充実の秘密は何か? その答えはアカデミーという企画の趣旨そのものにあると思います。イタリア・オペラ界の大御所であるムーティが若手の指揮者と歌手、そしてオーケストラや合唱に対して、演奏方法はもとより作品解釈やその背景にある精神まで懇切丁寧に指導する。報道陣に公開されているだけでも作品解説会と銘打たれたオケとの初顔合わせも含めると7日にわたって16コマのリハーサルが行われました。若手とはいえプロの音楽家相手にこれほど綿密なリハが行われるのは異例といえるでしょう。こうした過程を通して若き音楽家たちは作品の真髄に迫る演奏をすることが可能となり、聴衆の心を大きく動かすステージに繋がるのだと私は考えます。
これは2位に輝いたジョナサン・ノット指揮、東京交響楽団にも当てはまるのではないでしょうか。このコンビも24年3位、23年2位、22年1位と毎年トップ・クラスの高評価を集めており、その充実ぶりは当サイトの執筆陣が認めるだけでなく、公演のチケットがいつも完売となる人気ぶりからも明らかです。ノットは2014年に東響音楽監督に就任。「モーツァルト 演奏会形式オペラシリーズ」、「リヒャルト・シュトラウス コンサートオペラシリーズ」をはじめ、古典派から現代作品まで幅広いレパートリーに取り組みながら、長年にわたって同オケと綿密な共同作業を行ってきた結果が高評価に繋がったことは間違いないでしょう。交通機関や通信手段の発達で世界は狭くなりました。人気音楽家は短期間で世界中を飛び回るのが日常になっています。その一方で上記のように時間をかけてじっくりと取り組むことも良い演奏、感動を呼ぶステージを作っていく上で重要な要素であることを年間ベストの結果が示しているのだと感じています。
続いて、当サイト執筆陣の中で最も長いキャリアをお持ちの音楽評論家の東条碩夫さんに総合的な視点から講評を寄稿していただきました。
「ベスト10というものの難しさ」——東条碩夫
リッカルド・ムーティ、今回もぶっちぎりの独走での優勝である。まるでV9時代の巨人軍のような、あざやかな常勝ぶりだ。
今回のベスト10を見ると、やはりカタカナが多い。この中に日本のオーケストラが絡んでいるのは7件もあるが、いわゆる重要な「指揮者」という、「主役」が日本人演奏家と言えるのは、「夏の夜の夢」での沖澤のどかと、「ヴォツェック」での大野和士の2人だけである。もう少し日本人音楽家の名が欲しいものだ。そして日本の地方の音楽活動だって、もっとリストに上がっていてもいいのではないか。
だが、これはあくまで、10人の評者たちが、自ら実際に聴いた公演だけの中から選んだものを、更にその数の多いものを集計した結果に過ぎぬものなのだ。
今、全国で行なわれているオペラやコンサートの数は、プロフェッショナルなものだけでも年間、何万という数になるだろう。しかし、1人のジャーナリストが年間に接することのできる数は限られている。私自身が昨年オペラやコンサートに通った回数はほぼ240回だが——世の中には300回に達するジャーナリストも何人かいるし、私も昔はそのくらい通っていた——多くの音楽家たちが必死に演奏したそれらの中で、たったそれだけを聴いてベスト10を選ぶなどということがいかにおこがましいことか、考えるまでもない。ただそれでも、年間にたった80回とか100回件程度(つまり月に7~8回)程度を聴いてベスト10を選ぶのに比べれば、まだ少しは許されるかな、とは思うのだが。
私ども、この「ピカイチ、イチオシ」の選者たちは、実際にたくさんの公演に接してその中から選んでいる。それでも、この結果を以って日本の音楽界の状況全般を裁断できるとは考えていない。願わくはそれを踏まえつつ、上位10件のみならず、各評者がそれぞれ挙げたリストにも目を通していただければ——。(東条碩夫)










