国内最大の音楽フェスティバルとなった東京・春・音楽祭の盛りだくさんの演奏会をはじめ、華やかに彩られた2025年春の音楽界。今回は3月のステージからピカイチを、5月開催予定の公演からイチオシを選者の皆さんに紹介していただきました。
先月のピカイチ
◆◆3月◆◆ 東条碩夫(音楽評論家)選
〈京都市交響楽団 第698回定期演奏会〉
3月15日(土)京都コンサートホール
沖澤のどか(指揮)/金川真弓(ヴァイオリン)/クレア・チェイス(フルート)
藤倉大:ダブル協奏曲―ヴァイオリンとフルートのための(日本初演)/R・シュトラウス:交響詩「英雄の生涯」

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〈アンドラーシュ・シフ&カペラ・アンドレア・バルカ〉
3月26日(水)東京オペラシティ コンサートホール
アンドラーシュ・シフ(指揮、ピアノ)/カペラ・アンドレア・バルカ
モーツァルト:ピアノ協奏曲第23番イ長調、交響曲第40番、「ドン・ジョヴァンニ」序曲、ピアノ協奏曲第20番
(アンコール)バッハ:ピアノ協奏曲第1番ニ短調~第1楽章/モーツァルト:ピアノ協奏曲第24番ハ短調~第2楽章/シューベルト:即興曲Op.142-2/シューマン:「楽しき農夫」
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~沖澤&京響 舌を巻くほどの「英雄の生涯」~
沖澤と、彼女が常任指揮者を務める京響とのコンビは今や絶好調だ。特に「英雄の生涯」は、その流れの良さ、美しさ、オーケストラの完璧な均衡など、舌を巻くほどの驚異的な演奏となった。この勢いで限りなく進んで行って欲しい。一方シフの気宇壮大(きうそうだい)で深みのあるモーツァルトも、来年解散するというカペラ・アンドレア・バルカの強靭な演奏とともに、圧倒的な感動を呼ぶ。大量のアンコールも含めて素晴らしい演奏。
来月のイチオシ
◆◆5月◆◆ 東条碩夫(音楽評論家)選
〈オーケストラ・アンサンブル金沢 第493回定期公演〉
5月24日(土)石川県立音楽堂 コンサートホール
鈴木秀美(指揮)/中江早希(ソプラノ)/谷口洋介(テノール)/氷見健一郎(バス)/コーロ・リベロ・クラシコ
ハイドン:オラトリオ「天地創造」

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〈大阪4オケ2025 大阪・関西万博開催記念〉
5月10日(土)フェスティバルホール(大阪)
①尾高忠明(指揮)大阪フィルハーモニー交響楽団/②鈴木優人(指揮)/関西フィルハーモニー管弦楽団/③山下一史(指揮)/大阪交響楽団/④久石譲(指揮)/日本センチュリー交響楽団
①武満徹:「波の盆」組曲/ブリテン:「ピーター・グライムズ」より「4つの海の間奏曲」
②萩森英明:東京夜想曲/バーンスタイン:「ウェスト・サイド・ストーリー」より「シンフォニック・ダンス」
③外山雄三:管弦楽のためのラプソディ/R・シュトラウス:交響詩「ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら」
④久石譲:Adagio for 2 Harps and Strings/ストラヴィンスキー:バレエ組曲「火の鳥」(1945年版)
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~地方公演から、高水準&意欲的な公演2選~
近年の各都市のオーケストラの活動は意欲的で、また演奏水準も極めて高い。今回は、それらの活動の中から選んでみた。まずオーケストラ・アンサンブル金沢。最近円熟味を増し、かつハイドンの作品を得意とする鈴木秀美を指揮に迎えてどのような「天地創造」を演奏するだろうか。一方「大阪4オケ」は(昨年の「関西6オケ」からまた「4オケに戻った」)は春の名物行事、4つの楽団を一度に聴き比べるという面白さがある。
先月のピカイチ
◆◆3月◆◆ 柴田克彦(音楽ライター)選
〈ベルチャ・クァルテット×エベーヌ弦楽四重奏団〉
3月29日(土) 神奈川県立音楽堂
ウェーベルン:弦楽四重奏のための緩徐楽章(エベーヌQ)/メンデルスゾーン:弦楽八重奏曲/ショスタコーヴィチ:弦楽四重奏曲第3番より第3楽章(ベルチャQ)/エネスク:弦楽八重奏曲

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〈アンドラーシュ・シフ&カペラ・アンドレア・バルカ〉
3月21日(金)ミューザ川崎シンフォニーホール
アンドラーシュ・シフ(指揮、ピアノ)/カペラ・アンドレア・バルカ
J・S・バッハ:ピアノ協奏曲第3、5、7、2、4、1番
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~名人芸2公演 作品の真の姿と理想形をあらわに~
2月の「イチオシ」2公演がトップ2という嬉しい結果になった。ベルチャ&エベーヌQは、世界最高峰カルテットのコラボならではの豊穣なコンサート。2つの八重奏曲では、全員が等しく細やかに演奏するといかなる音楽が出現するかがまざまざと示され、特にエネスク作品は楽曲の真の姿と妙味を初めて認識させられた。シフのバッハは、自然体でいながらコクと味わいのある名人芸。ピアノ演奏によるバッハの理想形を知る思いだった。
来月のイチオシ
◆◆5月◆◆ 柴田克彦(音楽ライター)選
〈新日本フィルハーモニー交響楽団 第663回定期演奏会〉
5月23日(金)サントリーホール/24日(土)すみだトリフォニーホール
ハインツ・ホリガー(指揮・オーボエ)/吉野直子(ハープ)
ルトスワフスキ:オーボエとハープと室内管弦楽のための二重協奏曲/ヴェレシュ:ベラ・バルトークの思い出に捧げる哀歌/ルトスワフスキ:葬送音楽 -バルトークを偲んで-/メンデルスゾーン:序曲「フィンガルの洞窟」/同:交響曲第4番 「イタリア」

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〈東京都交響楽団 第1021回定期演奏会Bシリーズ&都響スペシャル〉
5月16日(金)、17日(土) サントリーホール
クシシュトフ・ウルバンスキ(指揮)/アンナ・ツィブレヴァ(ピアノ)
ペンデレツキ:広島の犠牲者に捧げる哀歌/ショスタコーヴィチ:ピアノ協奏曲第2番/同:交響曲第5番
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~新日本フィル、世界的大家ホリガーのオーボエとともに~
フルシャ&バンベルク響やトーマス・ヘル プロジェクトなど外来勢の注目公演もあるが、ここはあえてゲスト指揮者が光を放つ在京オーケストラ公演を。ホリガー&新日本フィルは、〝世界的人間国宝〟と言うべき大御所音楽家の生演奏に触れるだけでも足を運ぶ価値がある。プログラムも意味深いし、ホリガーのオーボエ独奏を今体験できるのも貴重だ。東響で既成概念を排した快演を聴かせてきたウルバンスキと都響の初共演も興味津々。
先月のピカイチ
◆◆3月◆◆ 池田卓夫(音楽ジャーナリスト)選
〈アンドラーシュ・シフ&カペラ・アンドレア・バルカ〉
3月21日(金)ミューザ川崎シンフォニーホール
アンドラーシュ・シフ(指揮、ピアノ)/カペラ・アンドレア・バルカ
J・S・バッハ:ピアノ協奏曲第3、5、7、2、4、1番

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〈東京春祭ワーグナー・シリーズvol.16「パルジファル」〉
3月30日(日)東京文化会館大ホール
マレク・ヤノフスキ(指揮)/ステュアート・スケルトン(パルジファル)/クリスティアン・ゲルハーヘル(アムフォルタス)/タレク・ナズミ(グルネマンツ)/ターニャ・アリアーネ・バウムガルトナー(クンドリ)他/NHK交響楽団/東京オペラシンガーズ(合唱)
ワーグナー:舞台神聖祝典劇「パルジファル」(演奏会形式)
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~シフと仲間たちの融通無碍(ゆうずうむげ)なアンサンブル~
シフが組織したCABは音楽観の共有が前提、「世代交代してまで続ける気はない」として今回が最後の日本ツアーだった。年季を積んだ仲間たちの融通無碍なアンサンブルと脱力の行き届いたピアノが奏でるJ・S・バッハの協奏曲は「オーガニック」と言うべき自然な音楽に満たされた。快速ヤノフスキの舞台神聖祝典劇はキャストがそろい、N響も大健闘。ヴァイグレ指揮読響の「ヴォツェック」も次点に挙げるべき名演だった。
来月のイチオシ
◆◆5月◆◆ 池田卓夫(音楽ジャーナリスト)選
〈九州交響楽団 第430回定期演奏会 九響オペラ「トスカ」〉
5月22日(木)アクロス福岡シンフォニーホール
熊倉優(指揮)/高野百合絵(トスカ)/宮里直樹(カヴァラドッシ)/今井俊輔(スカルピア)/伊藤貴之(アンジェロッティ)/晴雅彦(堂守)/伊藤達人(スポレッタ)他/九響合唱団/筑紫女学園中学校音楽部
プッチーニ:歌劇「トスカ」(演奏会形式)

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〈宮崎国際音楽祭2025演奏会(4)「ピアニスト チョン・ミョンフン」〉
5月15日(木)メディキット県民文化センター演劇ホール(宮崎)
チョン・ミョンフン(ピアノ)/三浦文彰(ヴァイオリン)/須田祥子(ヴィオラ)/ユンソン(チェロ)/池松宏(コントラバス)
ブラームス:ピアノ三重奏曲第1番/シューベルト:ピアノ五重奏曲「ます」
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~活気づく九州の音楽界~
毎年5月には九州の音楽界が活気づく。鉄板の定番、別府アルゲリッチ音楽祭だけではない。九響定期ではドイツ・ハノーファー歌劇場第2カペルマイスターとして年間30公演を手がける熊倉が日本でもいよいよ、オペラ全曲指揮の力量を問う。今年が第30回の節目に当たる宮崎国際音楽祭ではヴァイオリニスト三浦文彰が音楽監督に就任。特に、ゲスト指揮者のチョン・ミョンフンのピアノと室内楽に興じる一夜が楽しみだ。
先月のピカイチ
◆◆3月◆◆ 毬沙琳(音楽ジャーナリスト)選
〈東京春祭ワーグナー・シリーズvol.16「パルジファル」〉
3月27日(木)東京文化会館大ホール
マレク・ヤノフスキ(指揮)/ステュアート・スケルトン(パルジファル)/クリスティアン・ゲルハーヘル(アムフォルタス)/タレク・ナズミ(グルネマンツ)/ターニャ・アリアーネ・バウムガルトナー(クンドリ)他/NHK交響楽団/東京オペラシンガーズ(合唱)
ワーグナー:舞台神聖祝典劇「パルジファル」(演奏会形式)
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〈ベルチャ・クァルテット×エベーヌ弦楽四重奏団〉
3月28日(金)トッパンホール(現・TOPPANホール)
メンデルスゾーン:弦楽八重奏曲/エネスク:弦楽八重奏曲
(アンコール)フォーレ(ラファエル・メルラン編):レクイエムより〝In Paradisum〟
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~名匠ヤノフスキが春祭ワーグナーで屈指の名演~
ヤノフスキのパルジファルは、壮麗な響きと深い抒情性をこの上なく美しい管弦楽で聴かせ、ゲルハーヘルやナズミ、スケルトンらの劇的な歌唱、ステージと5階客席に配した空間を包み込む合唱など春祭ワーグナー屈指の名演。
ベルチャQとエベーヌQによる八重奏は想像を遥かに超える音に驚愕、それぞれの個性を活かしたメンデルスゾーンとエネスクにおける8人の多彩な表現からアンコールのフォーレまで、まさに一生もの音楽体験。
来月のイチオシ
◆◆5月◆◆ 毬沙琳(音楽ジャーナリスト)選
〈トーマス・ヘル プロジェクト2025〉
①5月26日(月) ②29日(木)TOPPANホール
①トーマス・ヘル(ピアノ)/山根一仁(ヴァイオリン)/谷口知聡(ピアノ)/竹原美歌(パーカッション)/ルードヴィッグ・ニルソン(同)
②トーマス・ヘル(ピアノ)/周防亮介(ヴァイオリン)/水野優也(チェロ)/竹原美歌(パーカッション)/ルードヴィッグ・ニルソン(同)/竹泉晴菜(同)
①リゲティ:ムジカ・リチェルカータ/バルトーク:ヴァイオリン・ソナタ第2番/(同):2台ピアノと打楽器のためのソナタ
②ショスタコーヴィチ:ピアノ三重奏曲第2番/J・S・バッハ:トッカータ ニ長調BWV912/ショスタコーヴィチ(デレヴィアンコ編/室内楽版):交響曲第15番

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〈東京都交響楽団 第1021回定期演奏会Bシリーズ&都響スペシャル〉
5月16日(金)、17日(土) サントリーホール
クシシュトフ・ウルバンスキ(指揮)/アンナ・ツィブレヴァ(ピアノ)
ペンデレツキ:広島の犠牲者に捧げる哀歌/ショスタコーヴィチ:ピアノ協奏曲第2番/同:交響曲第5番
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~没後50年ショスタコーヴィチ 多彩な企画に注目~
TOPPANホールで名演を重ねてきたトーマス・ヘルがリゲティ、バルトーク、バッハ、ショスタコーヴィチに挑む2日間、当ホールゆかりのヴァイオリニスト、山根や周防といった俊英たちとの共演も楽しみだが、室内楽版で聴くショスタコーヴィチの交響曲15番はどんな発見があるだろう。鬼才ウルバンスキと都響の初共演は、エルプフィルとの録音もあるショスタコーヴィチの交響曲第5番、作曲家の記念イヤーを飾る演奏になる予感。
先月のピカイチ
◆◆3月◆◆ 宮嶋 極(音楽ジャーナリスト)
〈東京春祭ワーグナー・シリーズvol.16「パルジファル」〉
3月27日(木)東京文化会館大ホール
マレク・ヤノフスキ(指揮)/ステュアート・スケルトン(パルジファル)/クリスティアン・ゲルハーヘル(アムフォルタス)/タレク・ナズミ(グルネマンツ)/ターニャ・アリアーネ・バウムガルトナー(クンドリ)他/NHK交響楽団/東京オペラシンガーズ(合唱)
ワーグナー:舞台神聖祝典劇「パルジファル」(演奏会形式)
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〈読売日本交響楽団 第646回定期演奏会〉
3月12日(水)サントリーホール
セバスティアン・ヴァイグレ(指揮)/サイモン・キーンリーサイド(ヴォツェク)/ベンヤミン・ブルンス(鼓手長)/伊藤達人(アンドレス)/イェルク・シュナイダー(大尉)/ファルク・シュトルックマン(医者)/アリソン・オークス(マリー)他/新国立劇場合唱団/TOKYO FM 少年合唱団
ベルク:歌劇「ヴォツェク」(演奏会形式)
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~ワーグナーの理想を具現化 ヤノフスキの「パルジファル」~
ピカイチ、次点ともに2月掲載のイチオシ・次点の通りで両者ともに期待に違わぬ高水準の演奏を聴かせてくれた。東京春祭ワーグナー・シリーズ「パルジファル」はヤノフスキとN響によるワーグナーの全曲演奏が今回で8回目となるだけに、指揮者が目指すワーグナーの音楽が理想に近い形で具現化された印象。(詳細はアンコール|速いテンポで堅固に構築~東京春祭 ワーグナー・シリーズ Vol.16 「パルジファル」 | CLASSICNAVI)読響の「ヴォツェック」もヴァイグレの精緻な音楽作りと実力歌手たちによる圧倒的な歌唱で説得力満点の上演となった。
来月のイチオシ
◆◆5月◆◆ 宮嶋 極(音楽ジャーナリスト)
〈バンベルク交響楽団 東京公演〉
①5月26日(月) ②28日(水)サントリーホール
ヤクブ・フルシャ(指揮)/①三浦文彰(ヴァイオリン)/②角野隼斗(ピアノ)
①ワーグナー:歌劇「妖精」序曲/ブルッフ:ヴァイオリン協奏曲第1番/ベートーヴェン:交響曲第7番
②コールリッジ=テイラー:バラード/ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第2番/ブラームス:交響曲第1番

次点
〈NHK交響楽団 第2037回定期公演Bプログラム〉
5月1日(木)、2日(金)サントリーホール
ファビオ・ルイージ(指揮)/諏訪内晶子(ヴァイオリン)/森麻季(ソプラノ)
ベルク:ヴァイオリン協奏曲/マーラー:交響曲第4番
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~7年ぶりバンベルク響による南ドイツの味わい~
南ドイツの名門バンベルク響の7年ぶりの来日。北ドイツのオケとは一味違う温かくふくよかな響きが魅力。ヤクブ・フルシャの指揮でベートーヴェン、ブラームスの王道作品のほか、ワーグナー初期の歌劇「妖精」序曲を取り上げるのも注目。ルイージ指揮N響定期は5月にオランダで開催されるマーラー・フェスティバルで披露する演目のひとつ。ロイヤル・コンセルトヘボウ、ベルリン・フィル、シカゴ響との競演となるだけにその〝前哨戦〟として気力みなぎる演奏が期待される。