作品の真意を解き明かした若獅子ソヒエフとN響匠集団…25年1月

N響の1月定期の定例となりつつあるソヒエフの客演 写真提供:NHK交響楽団
N響の1月定期の定例となりつつあるソヒエフの客演 写真提供:NHK交響楽団

2025年最初の「先月のピカイチ、来月のイチオシ」は1月開催の公演からピカイチを、3月に予定されているステージからイチオシを選者の皆さんに紹介していただきます。

先月のピカイチ

◆◆1月◆◆ 東条碩夫(音楽評論家)選

〈読売日本交響楽団 第644回定期演奏会〉

1月21日(火)サントリーホール

上岡敏之(指揮)/イーヴォ・ポゴレリッチ(ピアノ)

ショパン:ピアノ協奏曲第2番/ショスタコーヴィチ:交響曲第11番「1905年」

ショスタコーヴィチの「1905年」で凄絶な演奏を読響から引き出した上岡敏之 (C)読売日本交響楽団 撮影:藤本崇
ショスタコーヴィチの「1905年」で凄絶な演奏を読響から引き出した上岡敏之 (C)読売日本交響楽団 撮影:藤本崇

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〈新日本フィルハーモニー交響楽団 第660回定期演奏会 サントリーホール・シリーズ〉

1月26日(日)サントリーホール

佐渡裕(指揮)

マーラー:交響曲第9番

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~上岡と佐渡、熟達と陶酔の新境地~

上岡&読響の演奏会では、ショスタコーヴィチの交響曲「1905年」を推す。静寂の「宮殿前広場」の場面から「血の惨劇」に至る流れを一つのクレッシェンドとして構成した熟練の指揮は実に見事だった。佐渡&新日フィルのマーラー「9番」は、彼らがついに達成した白熱の陶酔の世界。スラットキンと都響のラフマニノフも挙げたいところだったが、佐渡と新日フィルの驚くべき新境地を祝して、こちらを次点に推すことにした。

来月のイチオシ

◆◆3月◆◆ 東条碩夫(音楽評論家)選

〈東京春祭ワーグナー・シリーズvol.16「パルジファル」〉

3月27日(木)、30日(日)東京文化会館大ホール

マレク・ヤノフスキ(指揮)/ステュアート・スケルトン(パルジファル)/クリスティアン・ゲルハーヘル(アムフォルタス)/タレク・ナズミ(グルネマンツ)/ターニャ・アリアーネ・バウムガルトナー(クンドリ)他/NHK交響楽団/東京オペラシンガーズ(合唱)

ワーグナー:舞台神聖祝典劇「パルジファル」(演奏会形式)

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〈読売日本交響楽団第646回定期演奏会/第680回名曲シリーズ〉

3月12日(水)、15日(土)サントリーホール

セバスティアン・ヴァイグレ(指揮)/サイモン・キーンリーサイド(ヴォツェック)/イェルク・シュナイダー(大尉)/アリソン・オークス(マリー)他/読売日本交響楽団/新国立劇場合唱団

ベルク:歌劇「ヴォツェック」(演奏会形式)

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~名匠ヤノフスキのワーグナー「パルジファル」再演~

ワーグナー最晩年の名作「パルジファル」は、「東京・春・音楽祭」第2回(2010年)以来の上演。前回の指揮はウルフ・シルマーだったが、同音楽祭としては名匠ヤノフスキの指揮でワーグナーのスタンダード・レパートリー全10作を是非、という願いのもとに再演する由。一方読響は、常任指揮者ヴァイグレとともにこのところ毎年ドイツ・オペラを取り上げ、快演を飛ばしているので、今回は近代オペラ「ヴォツェック」での冴えに期待。

先月のピカイチ

◆◆1月◆◆ 柴田克彦(音楽ライター)選

〈東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団 第375回定期演奏会〉

1月17日(金)東京オペラシティ コンサートホール

高関健(指揮)/奥井紫麻(ピアノ)

サン=サーンス:ピアノ協奏曲第2番/マーラー:交響曲第7番「夜の歌」

常任指揮者 高関健の緻密なアプローチで巧演を次々と繰り出す東京シティ・フィル (C)大窪道治
常任指揮者 高関健の緻密なアプローチで巧演を次々と繰り出す東京シティ・フィル (C)大窪道治

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〈新日本フィルハーモニー交響楽団 第660回定期演奏会 サントリーホール・シリーズ〉

1月26日(日)サントリーホール

佐渡裕(指揮)

マーラー:交響曲第9番

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~マーラーの交響曲公演2選~

12月に挙げた阪田知樹のリストの協奏曲をはじめ他にも好演はあったが、ここはマーラーの交響曲を2つ。高関&東京シティ・フィルは、細部まで拘(こだわ)った清新極まりないアプローチで、最近多いソフィスティケートされた演奏とは異なる7番を聴かせ、この曲の実験性や20世紀音楽としての面白さを明示した。サン=サーンスを弾いた奥井紫麻の素直なピアノも大きな収穫。佐渡&新日本フィルの9番は、予想(?)を上回る渾身の名演だった。

 

来月のイチオシ

◆◆3月◆◆ 柴田克彦(音楽ライター)選

〈ベルチャ・クァルテット×エベーヌ弦楽四重奏団〉

3月28日(金)トッパンホール、他

メンデルスゾーン:弦楽八重奏曲/エネスク:弦楽八重奏曲

2つの世界的な弦楽四重奏団、ベルチャ・クァルテット(左)とエベーヌ弦楽四重奏団が奏でる弦楽八重奏はまたとない機会 (C)Maurice Haas(左) / (C)Julien Mignot
2つの世界的な弦楽四重奏団、ベルチャ・クァルテット(左)とエベーヌ弦楽四重奏団が奏でる弦楽八重奏はまたとない機会 (C)Maurice Haas(左) / (C)Julien Mignot

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〈アンドラーシュ・シフ指揮 カペラ・アンドレア・バルカ〉

3月25日(火)、26日(水)東京オペラシティ コンサートホール、他

アンドラーシュ・シフ(指揮/ピアノ)

(3月25日)J・S・バッハ:ピアノ協奏曲第3、5、7、2、4、1番
(3月26日)モーツァルト:ピアノ協奏曲第20、23番、交響曲第40番、「ドン・ジョヴァンニ」序曲

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~ベルチャ×エベーヌQによる八重奏饗演~

ベルチャ×エベーヌQは、現在世界最高と思(おぼ)しきクァルテットが合体する夢の公演。今回は各々の単独演奏もあるので、個性を比較できるのも妙味だが、彼らが奏でる2つの八重奏曲はまず聴き逃せない。近年耳にする機会が増えてきた両曲の真価・真髄を体験する貴重な機会となること必至だ。シフのカペラ・アンドレア・バルカ公演は、これが最後との情報もあるので、やはり必聴。ここは濃密かつ均衡のとれた〝大人の音楽〟を満喫したい。

先月のピカイチ

◆◆1月◆◆ 池田卓夫(音楽ジャーナリスト)選

「メンデルスゾーン 光のほうに」vol.3「救済—世を照らす祈り」

1月26日(日)住友生命いずみホール

山田和樹(指揮)/小森輝彦(エリヤ)他/日本センチュリー交響楽団/東京混声合唱団

メンデルスゾーン:オラトリオ「エリヤ」

日本センチュリー響「エリヤ」より、指揮者の山田和樹とエリヤを歌った小森輝彦(右(C)樋川智昭
日本センチュリー響「エリヤ」より、指揮者の山田和樹とエリヤを歌った小森輝彦(右(C)樋川智昭

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〈読売日本交響楽団 第644回定期演奏会〉

1月21日(火)サントリーホール

上岡敏之(指揮)/イーヴォ・ポゴレリッチ(ピアノ)

ショパン:ピアノ協奏曲第2番/ショスタコーヴィチ:交響曲第11番「1905年」

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~小森輝彦の絶唱を得た圧倒的な「エリヤ」~

山田和樹といずみホール音楽アドバイザー堀朋平による大阪4楽団競演の作曲家特集第2弾、メンデルスゾーンの中盤2回には山田が理事長と音楽監督を兼ねる東京混声合唱団が参加。関西フィルとの交響曲第2番「讃歌」も良かったが、小森輝彦の絶唱を得た「エリヤ」の成果は圧倒的だった。一方、上岡が読響を指揮したショスタコーヴィチ「交響曲第11番」の恐怖は長く体内で疼きそうだ。

来月のイチオシ

◆◆3月◆◆ 池田卓夫(音楽ジャーナリスト)選

〈東京春祭ワーグナー・シリーズvol.16「パルジファル」〉

3月27日(木)、30日(日)東京文化会館大ホール

マレク・ヤノフスキ(指揮)/ステュアート・スケルトン(パルジファル)/クリスティアン・ゲルハーヘル(アムフォルタス)/タレク・ナズミ(グルネマンツ)/ターニャ・アリアーネ・バウムガルトナー(クンドリ)他/NHK交響楽団/東京オペラシンガーズ(合唱)

ワーグナー:舞台神聖祝典劇「パルジファル」(演奏会形式)

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〈読売日本交響楽団第646回定期演奏会/第680回名曲シリーズ〉

3月12日(水)、15日(土)サントリーホール

セバスティアン・ヴァイグレ(指揮)/サイモン・キーンリーサイド(ヴォツェック)/イェルク・シュナイダー(大尉)/アリソン・オークス(マリー)他/読売日本交響楽団/新国立劇場合唱団

ベルク:歌劇「ヴォツェック」(演奏会形式)

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~適時性も揃ったヤノフスキの「パルジファル」~

今年のイースターは4月20日、聖金曜日は同18日。その直前に「パルジファル」の「聖金曜日の音楽」を聴ける感慨はひとしお。演奏会時点で86歳となるヤノフスキの現在の心境とも合致した音楽を聴けるはずだ。昨年の東京・春・音楽祭の「エレクトラ」(R・シュトラウス)で大きな成果を上げたヴァイグレと読響の名コンビが今回、主催公演で挑む「ヴォツェック」にも期待が募る。

先月のピカイチ

◆◆1月◆◆ 毬沙琳(音楽ジャーナリスト)選

〈NHK交響楽団 第2030回定期演奏会Bプログラム〉

1月30日(木)サントリーホール

トゥガン・ソヒエフ(指揮)/郷古 廉(ヴァイオリン)

ムソルグスキー(リャードフ編):歌劇「ソロチンツィの市」-序曲、「ゴパック」/同:ヴァイオリン協奏曲第2番/ドヴォルザーク:交響曲第8番

(ソリストアンコール)バルトーク:44のヴァイオリン二重奏曲から ※第1ヴァイオリン:郷古/第2ヴァイオリン:長原幸太

長原(中央左)、郷古ら4月からの第1コンサートマスター2人が揃ったBプログラム 写真提供:NHK交響楽団
長原(中央左)、郷古ら4月からの第1コンサートマスター2人が揃ったBプログラム 写真提供:NHK交響楽団

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〈東京都交響楽団 第1014回定期演奏会Bシリーズ〉

1月14日(火)サントリーホール

レナード・スラットキン(指揮)/金川真弓(ヴァイオリン)

シンディ・マクティー:弦楽のためのアダージョ(2002)/ウォルトン:ヴァイオリン協奏曲/ラフマニノフ:交響曲第2番

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~N響新時代を予感させた洗練の極み~

若き獅子のような熱いソヒエフの指揮に、幅広い表現、オーケストラの多彩な音色が光ったN響。研ぎ澄まされた美音と洗練さが郷古、長原2人の第1コンサートマスターによる春からの新時代を予感させる。ソリスト郷古の磨き抜かれたバルトークも圧巻だった。

都響は、80歳にして初顔合わせとなったスラットキンの流麗なタクトで抒情性と濃密な情感を込めたラフマニノフ、金川真弓のソロによるウォルトンで豪華絢爛な音絵巻を披露。

来月のイチオシ

◆◆3月◆◆ 毬沙琳(音楽ジャーナリスト)選

〈東京春祭ワーグナー・シリーズvol.16「パルジファル」〉

3月27日(木)、30日(日)東京文化会館大ホール

マレク・ヤノフスキ(指揮)/ステュアート・スケルトン(パルジファル)/クリスティアン・ゲルハーヘル(アムフォルタス)/タレク・ナズミ(グルネマンツ)/ターニャ・アリアーネ・バウムガルトナー(クンドリ)他/NHK交響楽団/東京オペラシンガーズ(合唱)

ワーグナー:舞台神聖祝典劇「パルジファル」(演奏会形式)

ワーグナー・シリーズの顔として牽引するマレク・ヤノフスキ (C)平舘平/東京・春・音楽祭2024
ワーグナー・シリーズの顔として牽引するマレク・ヤノフスキ (C)平舘平/東京・春・音楽祭2024

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〈ベルチャ・クァルテット×エベーヌ弦楽四重奏団 競演企画〉

3月28日(金)トッパンホール、他

メンデルスゾーン:弦楽八重奏曲/エネスク:弦楽八重奏曲

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~春祭ワーグナーで初披露、ヤノフスキの「パルジファル」~

東京春祭ワーグナー、おなじみのヤノフスキが遂に「パルジファル」に登場する。2017年バイロイト音楽祭でヘンヒェンの体調不良から、ヤノフスキが「リング」の空き日に急遽振った「パルジファル」は、快速ながらライトモティーフが丁寧に奏でられ記憶に残っている。春祭にまた一つ名演が加わるだろう。トッパンでは世界的クァルテットの競演(28日)、チェロの岡本侑也が加入したエベーヌ(26日)、ベルチャ(27日)が聴ける贅沢な3夜企画も。

先月のピカイチ

◆◆1月◆◆ 宮嶋 極(音楽ジャーナリスト)

〈NHK交響楽団 第2028回定期公演Aプログラム〉

1月18日(土)NHKホール

トゥガン・ソヒエフ(指揮)

ショスタコーヴィチ:交響曲第7番「レニングラード」

Aプロではショスタコーヴィチの記念イヤーにふさわしい名演を聴かせたソヒエフ&N響 写真提供:NHK交響楽団
Aプロではショスタコーヴィチの記念イヤーにふさわしい名演を聴かせたソヒエフ&N響 写真提供:NHK交響楽団

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〈フィルハーモニア管弦楽団 来日公演〉

1月22日(水)サントリーホール

サントゥ=マティアス・ロウヴァリ(指揮)/辻井伸行(ピアノ)※辻は1点しんにょう

チャイコフスキー:イタリア奇想曲/同:ピアノ協奏曲第1番/バルトーク:管弦楽のための協奏曲

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~ショスタコーヴィチの〝仕掛け〟を解いたソヒエフ&N響の7番~

毎年1月に来日しN響定期のABC全プロを振るソヒエフは事実上の首席客演指揮者的存在。抜群の相性をベースに紡がれたショスタコーヴィチ7番は、作曲者が作品に潜ませた〝仕掛け〟を解き明かした凄絶な演奏。詳細は速リポの拙稿(トゥガン・ソヒエフ指揮 NHK交響楽団 第2028回定期公演Aプログラム | CLASSICNAVI)をご参照ください。次点は英国の名門オケの実力を存分に発揮したフィルハーモニア管。オケの美点を巧みに引き出すロウヴァリの高い手腕が光った。

来月のイチオシ

◆◆3月◆◆ 宮嶋 極(音楽ジャーナリスト)

〈東京春祭ワーグナー・シリーズvol.16「パルジファル」〉

3月27日(木)、30日(日)東京文化会館大ホール

マレク・ヤノフスキ(指揮)/ステュアート・スケルトン(パルジファル)/クリスティアン・ゲルハーヘル(アムフォルタス)/タレク・ナズミ(グルネマンツ)/ターニャ・アリアーネ・バウムガルトナー(クンドリ)他/NHK交響楽団/東京オペラシンガーズ(合唱)

ワーグナー:舞台神聖祝典劇「パルジファル」(演奏会形式)

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〈読売日本交響楽団第646回定期演奏会/第680回名曲シリーズ〉

3月12日(水)、15日(土)サントリーホール

セバスティアン・ヴァイグレ(指揮)/サイモン・キーンリーサイド(ヴォツェック)/イェルク・シュナイダー(大尉)/アリソン・オークス(マリー)他/読売日本交響楽団/新国立劇場合唱団

ベルク:歌劇「ヴォツェック」(演奏会形式)

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~在京オーケストラのオペラ対決「パルジファル」vs「エレクトラ」~

東京の実力オケによる〝オペラ対決〟に注目。東京春祭の柱のひとつワーグナー・シリーズは今年もヤノフスキの指揮で「パルジファル」を取り上げる。ヤノフスキとN響によるワーグナー作品の全曲演奏は今回で8回目。両者の信頼関係も深まっており、作品の本質に迫る充実の上演が期待される。ヴァイグレと読響によるオペラ上演の素晴らしさは昨年の東京春祭における「エレクトラ」の凄演で実証済み。今回もその再現以上の演奏が聴けそうだ。

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