記録的猛暑の中、各地で夏の音楽祭が開催され、こちらも熱い演奏が繰り広げられている。そうした中、今回は7月のステージからピカイチを、9月開催予定の公演からイチオシを選者の皆さんに紹介していただきました。
先月のピカイチ
◆◆24年7月◆◆ 東条碩夫(音楽評論家)選
〈プラハ放送交響楽団「わが祖国」全曲演奏会〉
7月9日(火)高崎芸術劇場 大劇場
ペトル・ポペルカ(指揮)
スメタナ:連作交響詩「わが祖国」
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〈神奈川フィルハーモニー管弦楽団みなとみらいシリーズ 第397回定期演奏会〉
7月20日(土)横浜みなとみらいホール
井上道義(指揮)/松田華音(ピアノ)/東京混声合唱団
シャブリエ:狂詩曲「スペイン」/ドビュッシー:「夜想曲」/伊福部昭:「リトミカオスティナータ」「日本狂詩曲」
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~熱狂の民族讃歌2つ~
プラハ放送響の新しい芸術監督兼首席指揮者のポペルカには以前から注目していたが、これほど見事な「わが祖国」を聴かせるとは予想していなかった。少し粗削りだが、熱血的な若々しい愛国の讃歌である。一方、井上道義が指揮した伊福部昭の作品も燃え上がる興奮の民族的祝典だ。松田華音も参加した「リトミカオスティナータ」など、これだけ怒涛のようなエネルギーを噴出した伊福部ワールドには、めったに出会ったことがない。
来月のイチオシ
◆◆9月◆◆ 東条碩夫(音楽評論家)選
〈東京・春・音楽祭 リッカルド・ムーティ イタリア・オペラ・アカデミーin東京vol.4〉
9月14日(土)東京音楽大学100周年記念ホール/16日(月・祝)Bunkamuraオーチャードホール
リッカルド・ムーティ(指揮)/イルダール・アブドラザコフ(アッティラ)/フランチェスコ・ランドルフィ(エツィオ)/アンナ・ピロッツィ(オダベッラ)/フランチェスコ・メーリ(フォレスト)他/東京春祭オーケストラ/東京オペラシンガーズ
ヴェルディ:歌劇「アッティラ」 ※演奏会形式
同点
〈東京フィルハーモニー交響楽団 9月定期演奏会〉
9月15日(日)Bunkamuraオーチャードホール/17日(火)サントリーホール/19日(木)東京オペラシティ コンサートホール
チョン・ミョンフン(指揮)/セバスティアン・カターナ(マクベス)/ヴィットリア・イェオ(マクベス夫人)/ステファノ・セッコ(マクダフ)/アルベルト・ペーゼンドルファー(バンクォー)他/新国立劇場合唱団
ヴェルディ:歌劇「マクベス」 ※演奏会形式
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~アッティラ対マクベス——2つのヴェルディ~
フン族の王アッティラと、スコットランドの僭王(せんおう)マクベス。どっちが強い? これは歴史上、どうみてもアッティラ王の方が強そうだが、オペラとしてはマクベスの方が有名だし、しかも前者はムーティの指揮、後者はチョン・ミョンフンの指揮だから、どっちも快演は約束されたようなもの——などという訳の解らぬ理由から、今回は引き分けの同率イチオシにした。この2作は続けて作曲されたオペラでもある。併せ聴いて損はない。
先月のピカイチ
◆◆24年7月◆◆ 柴田克彦(音楽ライター)選
〈プラハ放送交響楽団〉
7月13日(土) 東京オペラシティ コンサートホール
ペトル・ポペルカ(指揮)/佐藤晴真(チェロ)
ドヴォルザーク:チェロ協奏曲/スメタナ:連作交響詩「わが祖国」より「ヴィシェフラド」「シャールカ」「ボヘミアの森と草原から」「ターボル」「ブラニーク」
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〈東京都交響楽団 第1005回定期演奏会Aシリーズ〉
7月24日(水)東京文化会館
アラン・ギルバート(指揮)/池松宏(コントラバス)
マグヌス・リンドべルイ:EXPO/エドゥアルド・トゥビン:コントラバス協奏曲/リムスキー=コルサコフ:交響組曲「シェヘラザード」
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~真価を発揮、プラハ放送響を率いたポペルカ~
指揮者ベニーニが圧倒的な音楽を創造した新国立劇場の「トスカ」をイチオシに……とも思ったが、再演に次ぐ再演ゆえに、次点的な意味で上記2つを挙げた。プラハ放送響は、注目の指揮者ポペルカがドラマティックな構築力を発揮した濃密な公演。この指揮者の今後がますます楽しみになった。アラン&都響は、シンフォニックで雄大な「シェヘラザード」に感嘆。互いの持ち味を最大限に活かせる同コンビの良き相性を再認識させられた。
来月のイチオシ
◆◆9月◆◆ 柴田克彦(音楽ライター)選
〈ロンドン交響楽団 東京公演〉
9月26日(木)、27日(金) サントリーホール 他
アントニオ・パッパーノ(指揮)/ユジャ・ワン(ピアノ)
(26日)ベルリオーズ:序曲「ローマの謝肉祭」/ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第1番/サン=サーンス:交響曲第3番「オルガン付き」
(27日)シマノフスキ:演奏会用序曲/ショパン:ピアノ協奏曲第2番/マーラー:交響曲第1番「巨人」
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〈東京フィルハーモニー交響楽団 9月定期演奏会〉
9月15日(日)Bunkamuraオーチャードホール/17日(火)サントリーホール/19日(木)東京オペラシティ コンサートホール
チョン・ミョンフン(指揮)/セバスティアン・カターナ(マクベス)/ヴィットリア・イェオ(マクベス夫人)/ステファノ・セッコ(マクダフ)/アルベルト・ペーゼンドルファー(バンクォー)他/新国立劇場合唱団
ヴェルディ:歌劇「マクベス」 ※演奏会形式
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~遂に実現、パッパーノ×ロンドン響~
英国ロイヤル・オペラで辣腕を示したパッパーノが、遂に母国のトップ楽団のシェフとして登場。フレキシブルな高機能集団とのコンビネーションが実に楽しみだ。またチョン・ミョンフン&東京フィルのオペラに外れなし。今回も雄弁なドラマが期待される。このほか、ロンドン・フィル、ムーティの「アッティラ」と各々の対抗馬も強力だし、東京シティ・フィルとN響のブルックナー8番初稿対決など、9月は注目の公演が目白押しだ。
先月のピカイチ
◆◆24年7月◆◆ 池田卓夫(音楽ジャーナリスト)選
〈プラハ放送交響楽団「わが祖国」全曲演奏会〉
7月9日(火)高崎芸術劇場 大劇場
ペトル・ポペルカ(指揮)
スメタナ:連作交響詩「わが祖国」
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〈フランチェスコ・トリスターノ コンサート〉
7月3日(水)ヤマハホール
フランチェスコ・トリスターノ(ピアノ・キーボード)
フランチェスキーニ:グラヴィティ/トリスターノ:「ホテル目黒」「エレクトリックミラー」「ネオンシティ」「血の音」「中目黒第三橋」/ベリオ:セクエンツァⅣ/作者不詳:Do la re(15世紀)/トリスターノ:「乃木坂」他
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~若返ったプラハ響の壮大な祖国讃歌~
プラハ放送響の印象はコロナ前と大きく異なり、すっかり若返った。間もなくウィーン交響楽団のシェフにも就くチェコの俊英ポペルカと楽員の熱く壮大な祖国讃歌は圧倒的だった。ただ情熱で押し切るのではなく、コントロールが行き届き、現代のセンスも兼ね備えていた。トリスターノは4種類の鍵盤を操り、中世から今日までの大胆な音の絵巻物を現出させた。
来月のイチオシ
◆◆9月◆◆ 池田卓夫(音楽ジャーナリスト)選
〈東京・春・音楽祭 リッカルド・ムーティ イタリア・オペラ・アカデミーin東京vol.4〉
9月14日(土)東京音楽大学100周年記念ホール/16日(月・祝)Bunkamuraオーチャードホール ※このほか、別日に作品解説やアカデミーの一般聴講も実施
リッカルド・ムーティ(指揮)/イルダール・アブドラザコフ(アッティラ)/フランチェスコ・ランドルフィ(エツィオ)/アンナ・ピロッツィ(オダベッラ)/フランチェスコ・メーリ(フォレスト)他/東京春祭オーケストラ/東京オペラシンガーズ
ヴェルディ:歌劇「アッティラ」 ※演奏会形式
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〈河村尚子 ピアノ・リサイタル デビュー20周年特別プログラム〉
9月30日(月)サントリーホール
J・S・バッハ(ブゾーニ編):シャコンヌ/岸野末利加:「単彩の庭 Ⅸ」(河村尚子委嘱作品)/プロコフィエフ:ピアノ・ソナタ第7番「戦争ソナタ」/ショパン:即興曲第3番/同:ピアノ・ソナタ第3番
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~ムーティ主宰 ウェルディを極める濃厚なアカデミー~
80歳代に至ったムーティが長く究めてきたヴェルディの真髄を日本の若い世代に伝えようと、東京・春・音楽祭で始めたアカデミーが今年は秋に開催、東京音楽大学の代官山と池袋の2キャンパスを中心に一段と濃密な〝授業〟の態勢を整えた。しかも作品はレアな「アッティラ」。学生や一般観客だけでなく、プロもたくさんの示唆を得られるだろう。実力派の河村はついに、サントリー大ホールでの単独リサイタルに臨む。
先月のピカイチ
◆◆24年7月◆◆ 毬沙琳(音楽ジャーナリスト)選
〈東京都交響楽団 第1003回定期演奏会B〉
7月4日(木)サントリーホール
ヤクブ・フルシャ(指揮)/五明佳廉(ヴァイオリン)
ブルッフ:ヴァイオリン協奏曲第1番/ブルックナー:交響曲第4番「ロマンティック」(コーストヴェット:1878/80年)
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〈プラハ放送交響楽団〉
7月11日(木)サントリーホール
ペトル・ポペルカ(指揮)/三浦文彰(ヴァイオリン)
スメタナ:連作交響詩「わが祖国」より「モルダウ」/ドヴォルザーク:ヴァイオリン協奏曲/同:交響曲第9番「新世界より」
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~躍進するチェコの指揮者、フルシャ&ポペルカ~
7年ぶりに都響と共演したフルシャ、独特の透徹した美しい響きは両者ならではのものだ。細やかなニュアンスが絡み合うリズムと旋律から新しい発見をもたらし、音の大伽藍を築いていく流れは格別、めったに聴けない美しくも滋味深いブルックナーの4番だった。注目株の指揮者ポペルカが率いるプラハ放送響は、スメタナ、ドヴォルザークの名曲を抒情性豊かに歌う。奏者の個性を最大限に引き出し躍動感にあふれた「新世界」が圧巻。
来月のイチオシ
◆◆9月◆◆ 毬沙琳(音楽ジャーナリスト)選
〈2024年度 全国共同制作オペラ「ラ・ボエーム」〉
9月21日(土)、23日(月・休)東京芸術劇場コンサートホール他、全国7カ所8公演
井上道義(指揮)/森山開次(演出・振付・美術・衣装)
ルザン・マンタシャン(ミミ)/工藤和真(ロドルフォ)/池内響(マルチェッロ)/イローナ・レヴォルスカヤ(ムゼッタ)、スタニスラフ・ヴォロビョフ(コッリーネ)他/ザ・オペラ・クワイア/世田谷ジュニア合唱団/読売日本交響楽団
プッチーニ:「ラ・ボエーム」(新制作)
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〈NHK交響楽団 第2016回定期演奏会Aプログラム〉
9月14日(土)、15日(日)NHKホール
ファビオ・ルイージ(指揮)
ブルックナー:交響曲第8番(初稿/1887年)
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~井上道義、集大成のオペラは「ラ・ボエーム」~
東京芸術劇場が2009年より取り組んでいる全国共同制作オペラ、「トゥーランドット」以来このシリーズに度々登場してきた井上道義が、自身最後のオペラに選んだのは「ラ・ボエーム」。若き芸術家達の生き様を井上と森山(演出)がどのように描くのか見届けたい。
ブルックナー・イヤーの秋は都響&大野和士が7番、N響&ルイージが8番、日フィル&カーチュン・ウォンが9番といずれも必聴もの、中でも初稿版の8番は貴重な機会だ。
先月のピカイチ
◆◆24年7月◆◆ 宮嶋 極(音楽ジャーナリスト)
〈新国立劇場 プッチーニ「トスカ」再演〉
7月19日(金)新国立劇場オペラパレス
マウリツィオ・ベニーニ(指揮)/アントネッロ・マダウ=ディアツ(演出)/ジョイス・エル=コーリー(トスカ)/テオドール・イリンカイ(カヴァラドッシ)、青山貴(スカルピア)他/新国立劇場合唱団/TOKYO FM少年合唱団/東京フィルハーモニー交響楽団
次点
〈プラハ放送交響楽団〉
7月13日(土) 東京オペラシティ コンサートホール
ペトル・ポペルカ(指揮)/佐藤晴真(チェロ)
ドヴォルザーク:チェロ協奏曲/スメタナ:連作交響詩「わが祖国」より「ヴィシェフラド」「シャールカ」「ボヘミアの森と草原から」「ターボル」「ブラニーク」
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~練り上げられた新国立劇場屈指のプロダクション~
「トスカ」はプレミエから8回目の再演となる人気舞台。取材は4回目の公演とあってステージ全体が練り込まれていた印象。ベニーニの棒の下、歌手、合唱、オケが一体となって「トスカ」の世界を表情豊かに創り上げていた。力強さと繊細さを兼ね備えた指揮が出色。チェコの注目株ポペルカ、「わが祖国」全曲を東京でもやりたかったのか「モルダウ」をアンコールし結局、全曲を演奏。それだけに熱量も大きく聴衆の心を打つものがあった。
来月のイチオシ
◆◆9月◆◆ 宮嶋 極(音楽ジャーナリスト)
〈東京・春・音楽祭 リッカルド・ムーティ イタリア・オペラ・アカデミーvol.4〉
9月3日(火)~16日(月)東京音楽大学100周年記念ホール、他
リッカルド・ムーティ(指揮・指導)/東京春祭オーケストラ、他
ヴェルディ:「アッティラ」 演奏会形式
次点
〈ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団 東京公演〉
9月10日(火)、11日(水)、12日(木)サントリーホール
ロビン・ティチアーティ(指揮)/辻井伸行(ピアノ)
(10日)ベートーヴェン:「エグモント」序曲、ピアノ協奏曲第3番、ピアノ協奏曲第5番「皇帝」/(11日)ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第5番「皇帝」/マーラー:交響曲第5番/(12日)ベートーヴェン:「エグモント」序曲、ピアノ協奏曲第3番、ピアノ協奏曲第3番「英雄」
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~ムーティのアカデミー、トータルで堪能を~
ムーティのアカデミー第4弾。解説会から公演本番までトータルで体験することで、ムーティのヴェルディ作品への尊敬と深い共感が大きな感動を呼び起こしてくれるはずだ。次点は天才指揮者の呼び声も高いティチアーティとロンドン・フィル。前回、同じ組み合わせの来日で好評価を得たが、5年が経過し40歳を超えた天才がどのような進化を遂げているのか注目したい。