「先月のピカイチ 来月のイチオシ」、2023年の実質スタートとなる2月の回は1月に開催されたステージの中からピカイチを、3月に予定されている公演からイチオシを選者の皆さんに紹介していただきます。
先月のピカイチ
◆◆1月◆◆ 東条碩夫(音楽評論家)選
〈読売日本交響楽団 第254回マチネーシリーズ〉
1月7日(土)東京芸術劇場コンサートホール
山田和樹(指揮)/イーヴォ・ポゴレリッチ(ピアノ)
ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第2番/チャイコフスキー:マンフレッド交響曲、他
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〈東京フィルハーモニー交響楽団 第978回サントリー定期シリーズ〉
1月27日(金)サントリーホール
チョン・ミョンフン(指揮)
シューベルト:交響曲第7番「未完成」/ブルックナー:交響曲第7番(ノーヴァク版)
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~白眉 山田和樹&読響の「マンフレッド」交響曲~
山田和樹と読響は、1月には3種のプログラムで演奏会を行い、いずれも卓越した演奏を披露したが、その中でもこの「マンフレッド交響曲」は、白夜的な哀愁美と劇的な起伏に富んだ演奏で、白眉であった。またチョン・ミョンフンと東京フィルの演奏は、特にブルックナーの「7番」の後半2楽章における凄まじいほどの推進性が見事で、この指揮者に対する楽員たちの信頼と尊敬の念を如実に証明するものといえよう。
来月のイチオシ
◆◆3月◆◆ 東条碩夫(音楽評論家)選
〈東京・春・音楽祭 リッカルド・ムーティ指揮 ヴェルディ「仮面舞踏会」〉
3月28日(火)、30日(木)東京文化会館大ホール
リッカルド・ムーティ(指揮)/東京春祭オーケストラ/アゼル・ザダ(リッカルド)/ジョイス・エル=コーリー(アメーリア)/セルバン・ヴァシレ(レナート)他
ヴェルディ:「仮面舞踏会」(演奏会形式)
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〈東京都交響楽団 第970回定期演奏会A/都響スペシャル(3/16)〉
3月15日(水)東京文化会館大ホール/3月16日(木)サントリーホール
大野和士(指揮)/中村恵理(ソプラノ)/藤村実穂子(メゾソプラノ)/新国立劇場合唱団
マーラー:交響曲第2番「復活」
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~東京春祭 ムーティ「仮面舞踏会」に期待~
東京・春・音楽祭で一昨年ムーティが指揮したヴェルディの「マクベス」は、超弩級の物凄い演奏だった。イタリア・オペラの「魔性」とは、こういうものを言うのかと震撼させられたほどである。今年の「仮面舞踏会」は、それほどスペクタクルな音楽ではないが、しかしやはり凄い演奏になるだろう。期待しよう。別に彼の「作品解説」の日(18日)もある。大野和士の指揮する「復活」は、彼の渾身のマーラー・シリーズの一環。
先月のピカイチ
◆◆1月◆◆ 柴田克彦(音楽ライター)選
〈イーヴォ・ポゴレリッチ ピアノ・リサイタル〉
1月13日(金)浜離宮朝日ホール
ショパン:幻想ポロネーズ、幻想曲ヘ短調、舟歌/シューベルト:楽興の時
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〈阪田知樹 ピアノ・リサイタル〉
1月27日(金)東京オペラシティ コンサートホール
J・S・バッハ:(阪田知樹編)アダージョ BWV564、(ブゾーニ編)シャコンヌ/ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第23番「熱情」/ラヴェル:高雅で感傷的なワルツ/ショパン:ピアノ・ソナタ第3番
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~個性が光った2つのピアノ・リサイタル~
高関&シティ・フィルの「英雄の生涯」をはじめ、オーケストラにも好演があったが、ここはいつになく感銘を受けたピアノ・リサイタルを2つ。一体どんなことに……の不安の中で聴いたポゴレリッチは、濃密にして(彼としては)ナチュラルな音楽を奏でた。特に「楽興の時」は「この曲がこれほど深みと味わいのある音楽だったのか!」と感嘆。また阪田知樹は抜群のテクニックと雄弁な表現で、若手トップ級の実力者たることを明示した。
来月のイチオシ
◆◆3月◆◆ 柴田克彦(音楽ライター)選
〈東京・春・音楽祭 リッカルド・ムーティ指揮 ヴェルディ「仮面舞踏会」〉
3月28日(火)、30日(木)東京文化会館大ホール
リッカルド・ムーティ(指揮)/東京春祭オーケストラ/アゼル・ザダ(リッカルド)/ジョイス・エル=コーリー(アメーリア)/セルバン・ヴァシレ(レナート)他
ヴェルディ:「仮面舞踏会」(演奏会形式)
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〈東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団 第359回定期演奏会〉
3月18日(土)東京オペラシティ コンサートホール
高関健(指揮)/佐藤晴真(チェロ)
カバレフスキー:チェロ協奏曲第1番/ショスタコーヴィチ:交響曲第7番「レニングラード」
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~巨匠ムーティのヴェルディは必聴!~
ムーティの「仮面舞踏会」は、2021年東京春祭「マクベス」の圧倒的な凄演(せいえん)から注目度大! イタリア・オペラにかけては並ぶ者なき巨匠のタクトによって、今接し得る最高のヴェルディ演奏が実現するのではないだろうか。それに「マクベス」で驚くべきサウンドを創出したオーケストラの演奏も楽しみだ。再三絶賛してきた高関&シティ・フィルのコンビも、以前第8番で魅せたショスタコーヴィチの大作での精緻・堅牢(けんろう)な名演を期待。
先月のピカイチ
◆◆1月◆◆ 池田卓夫(音楽ジャーナリスト)選
〈イーヴォ・ポゴレリッチ ピアノ・リサイタル〉
1月11日(水)サントリーホール
ショパン:幻想ポロネーズ、ピアノ・ソナタ第3番、幻想曲ヘ短調、子守歌、舟歌
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〈ジュスタン・テイラー(チェンバロ)リサイタル〉
1月10日(火)王子ホール
フランソワ・クープラン:陰気な女、青春、神秘的なバリケードほか/ジャン=フィリップ・ラモー:雌鳥、3連音、新クラヴサン組曲より〝ガヴォットと6つの変奏〟ほか
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~音楽の真奥を突いたポゴレリッチのピアノ~
「お屠蘇(とそ)気分が吹き飛ぶ」とは言い得て妙。ポゴレリッチはまず、ロシア正教のクリスマス当日の7日に東京芸術劇場で山田和樹指揮読響とラフマニノフ「ピアノ協奏曲第2番」を共演。モスクワ音楽院に学び旧ユーゴ内戦を体験した世代のクロアチア人として「プーチンのロシア」のウクライナ侵攻をどのように見ているかまでもがわかるような、ほの暗く深い演奏。打鍵1つ1つの重量がものすごく、音楽の真奥を直撃する。リサイタルはさらに圧巻、「舟唄」や「子守唄」がこれほど痛切に深い音楽だったとは! 前夜のテイラーの清冽(せいれつ)なクラヴサン(チェンバロ)演奏で体調を整えておいて良かった。
来月のイチオシ
◆◆3月◆◆ 池田卓夫(音楽ジャーナリスト)選
〈九州交響楽団 第404回定期演奏会〉
3月15日(水)アクロス福岡シンフォニーホール
ショスタコーヴィチ:ロシアとキルギスの主題による序曲、ジャズ組曲第1番、交響曲第12番「1917年」
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〈新宿文化センター×東京フィルハーモニー交響楽団 ベルリオーズ「レクイエム」〉
3月18日(土)新宿文化センター 大ホール
アンドレア・バッティストーニ(指揮)/宮里直樹(テノール)/新宿文化センター合唱団
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~井上道義 得意のショスタコーヴィチを九響と~
井上は九響と昨年6月9日、「ロシアとキルギスの主題による序曲」「ジャズ組曲」第1番、交響曲第12番「1917年」からなるショスタコーヴィチ特集を予定していたが、自身のコロナ感染で延期。アクロス福岡の改修明けを受け、より音響の良い会場でのリベンジとなった。現役〝カウントダウン〟の中でも注目の一夜。バッティストーニは長く良好な協力関係にある新宿文化センターの市民合唱団と、ベルリオーズに挑む。
先月のピカイチ
◆◆1月◆◆ 毬沙琳(音楽ジャーナリスト)選
〈新国立劇場 ワーグナー:「タンホイザー」〉
1月28日(土)新国立劇場オペラパレス
アレホ・ペレス(指揮)/ハンス=ペーター・レーマン(原演出)/澤田康子(再演演出)/東京交響楽団/新国立劇場合唱団/ステファン・グールド(タンホイザー)/デイヴッド・スタウト(ヴォルフラム)/妻屋秀和(領主ヘルマン)/サビーナ・ツヴィラク(エリーザベト)/エグレ・シドラウスカイテ(ヴェーヌス)他
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〈東京都交響楽団 定期演奏会Aシリーズ〉
1月20日(水)東京文化会館
ヨーン・ストルゴーズ(指揮)/ペッカ・クーシスト(ヴァイオリン)
シベリウス:カレリア序曲/シベリウス:ヴァイオリン協奏曲/マデトヤ:交響曲第2番
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~総合芸術の極みを見せたタンホイザー&北欧の稀有な音楽家を体感~
1月は期待通りの結果となった。「タンホイザー」は過去3度の上演の中で、細やかな表情、動きなど演技の面でも名歌手たちの健闘が光る。アレホ・ペレスの重くならずにワーグナーらしさをしっかり聴かせる采配ぶりがピットの東響から見事な音を引き出し、これぞオペラの醍醐味(だいごみ)と言える名演。都響の貴重な演目、マデトヤの作品はスケール感と郷愁漂う旋律が心に刺さり、クーシストの稀有(けう)なヴァイオリンの音色とスタイルにも魅せられた。
来月のイチオシ
◆◆3月◆◆ 毬沙琳(音楽ジャーナリスト)選
〈東京・春・音楽祭 リッカルド・ムーティ指揮 ヴェルディ「仮面舞踏会」〉
3月28日(火)、30日(木)東京文化会館大ホール
リッカルド・ムーティ(指揮)/東京春祭オーケストラ/アゼル・ザダ(リッカルド)/ジョイス・エル=コーリー(アメーリア)/セルバン・ヴァシレ(レナート)他
ヴェルディ:「仮面舞踏会」(演奏会形式)
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〈読売日本交響楽団 第626回定期演奏会〉
3月9日(木)サントリーホール
鈴木優人(指揮)/アントワーヌ・タメスティ(ヴィオラ)
鈴木優人:読響創立60周年記念委嘱作品(世界初演)/ヴィトマン:ヴィオラ協奏曲(日本初演)/シューベルト:交響曲第5番
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~未来の音楽家達を育てるムーティ、未来の音楽界へ足跡を投じる読響~
毎年春の風物詩とも言える東京・春・音楽祭のムーティによるオペラシリーズでは、上演機会も少ない「仮面舞踏会」を取り上げる。例年ムーティ自身がピアノを弾きながらヴェルディをひも解く作品解説(3/18)と合わせて楽しみな公演だ。多面的な活躍を見せる鈴木優人の世界初演作品や現代音楽を牽引(けんいん)するヴィトマンのコンチェルト日本初演など、未来へ通じる読響の意欲的なプログラミングは、還暦を迎える楽団の記念碑にふさわしい。
先月のピカイチ
◆◆1月◆◆ 宮嶋 極(音楽ジャーナリスト)
〈新国立劇場 ワーグナー:「タンホイザー」〉
1月28日(土)新国立劇場オペラパレス
アレホ・ペレス(指揮)/ハンス=ペーター・レーマン(原演出)/澤田康子(再演演出)/東京交響楽団/新国立劇場合唱団/ステファン・グールド(タンホイザー)/デイヴッド・スタウト(ヴォルフラム)/妻屋秀和(領主ヘルマン)/サビーナ・ツヴィラク(エリーザベト)/エグレ・シドラウスカイテ(ヴェーヌス)他
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〈大阪フィルハーモニー交響楽団 第55回東京定期演奏会〉
1月24日(火)サントリーホール
尾高忠明(指揮)
池辺晋一郎:交響曲第10番「次の時代のために」/ブルックナー:交響曲第7番(ハース版)
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~新国立劇場「タンホイザー」 高い水準で劇場の存在意義示す~
ハンス=ペーター・レーマン演出による「タンホイザー」はプレミエから4度目のお目見えとなるが、完成度は今回が一番高かったように思う。上演の詳細は公演リポート(アンコール:新国立劇場開場から四半世紀 存在意義示した「タンホイザー」再演)をご覧いただきたい。新国立劇場が開場して四半世紀、日常の中でこれほどの水準のオペラが上演され続けるようになったことを見てもこの劇場の存在意義は大きいと思う。次点は尾高忠明指揮、大阪フィルの東京定期。音楽の構造を強固に固め、響きをしっかりと構築した正攻法のブルックナーにこのコンビの充実ぶりを実感することができた。
来月のイチオシ
◆◆3月◆◆ 宮嶋 極(音楽ジャーナリスト)
〈東京・春・音楽祭 リッカルド・ムーティ指揮 ヴェルディ「仮面舞踏会」〉
3月28日(火)、30日(木)東京文化会館大ホール
リッカルド・ムーティ(指揮)/東京春祭オーケストラ/アゼル・ザダ(リッカルド)/ジョイス・エル=コーリー(アメーリア)/セルバン・ヴァシレ(レナート)他
ヴェルディ:「仮面舞踏会」(演奏会形式)
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〈東京・春・音楽祭 リッカルド・ムーティによるヴェルディ「仮面舞踏会」作品解説〉
3月18日(土)東京文化会館大ホール
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~ムーティの至芸に触れる貴重な機会~
3月のイチオシは東京春祭、ムーティ指揮によるヴェルディ「仮面舞踏会」。21年の「マクベス」の圧倒的な名演は今も鮮明に記憶に残っている。彼の棒のもと歌手、合唱、オケが混然一体となって織り成すヴェルディの世界は演奏会形式ながらすさまじいまでのドラマ性をもって聴く者に迫ってくる。今、歌劇場にポストを持たないムーティの至芸に触れられる貴重な機会である。解説会も単なる作品解説に終わることなく彼のオペラに対する愛と信念に基づいた話に毎回心打たれてしまう。