東京・春・音楽祭2026 東京春祭 合唱の芸術シリーズ vol.14 ハイドン「四季」

人、自然、神を愛するハイドンの温かな音楽が輝かしい光を放つ

今年の「東京・春・音楽祭」は「合唱の芸術シリーズ」が2つのプログラムという豪華な内容だ。先月のシェーンベルク「グレの歌」に続き、今回はハイドンの「四季」を聴いた。
指揮のイアン・ペイジは今回が初来日で都響、ソリスト、合唱いずれも初顔合わせとのこと。都響がこの作品を演奏するのも92年以来という色々な意味で貴重な演奏会となった。

今回が初来日で都響、ソリスト、合唱いずれも初顔合わせとなるイアン・ペイジが指揮台に立った(C)平舘平
今回が初来日で都響、ソリスト、合唱いずれも初顔合わせとなるイアン・ペイジが指揮台に立った(C)平舘平

テーマはタイトルの通り四季の自然の移ろいと勤労に励む農民の生活で、登場する農夫(シモン)、その娘(ハンネ)、ハンネの恋人で若い農夫(ルーカス)の3人が風景や心象を歌い継ぐ。春夏秋冬の4部から成るが、聴き手を飽きさせない創意工夫に長けていたハイドンらしく春の種まきにいそしむ歌の伴奏に交響曲「驚愕」の有名なメロディを使ったり、動物や虫の鳴き声の描写から黒雲迫る嵐の恐怖、4本のホルンが高らかに鳴るスピード感あふれる狩の光景、冬の孤独な旅人の心象と、辿り着いた民家で見た心温まる団欒の様子などテンポの良い展開に惹きつけられる。そこに描かれる勤労から得られる喜び、太陽が昇ることへの感謝といった内容に私たちも親近感を覚え共感できるのだろう。

ハイドン「四季」では、四季の自然の移ろいと勤労に励む農民の生活が描かれる (C)池上直哉
ハイドン「四季」では、四季の自然の移ろいと勤労に励む農民の生活が描かれる (C)池上直哉

オーケストラは対抗配置の弦12型(コントラバス5本)で指揮者の正面に通奏低音のチェンバロが置かれた。弦楽器の奏法は古楽的でありながら、全体の響きは豊かで温かい。
イアン・ペイジの指揮は羊や魚が飛び跳ねる光景をオーケストラにアクションで伝えるところからも、厳格に合わせるというより、表現したい心を伝えようとする姿勢が感じられた。

オケは弦12型(コントラバス5本)で、指揮者の正面にチェンバロが置かれた(C)平舘平
オケは弦12型(コントラバス5本)で、指揮者の正面にチェンバロが置かれた(C)平舘平

ソリストは威厳ある声で農夫シモンを歌うタレク・ナズミ、透明感のある声でハンネを歌うクリスティーナ・ランツハーマー、ルーカスは瑞々しさのある声を持つマウロ・ペーター。ペーターは第2部:夏で暑さに苦しむ様子を切々と歌う繊細な表現からランツハーマーとの愛の二重唱で見せた細やかな愛情表現が印象的。ランツハーマーも間抜けな貴族の話を合唱団も巻き込んで楽しそうに語るシーンなどで役者ぶりを発揮した。60名の合唱は響きが柔らかく随所に出てくるフーガも明瞭でソリスト、オーケストラと見事に調和していた。

ルーカス役のマウロ・ペーター(左)とハンネ役のクリスティーナ・ランツハーマー(右)(C)池上直哉
ルーカス役のマウロ・ペーター(左)とハンネ役のクリスティーナ・ランツハーマー(右)(C)池上直哉

終盤で農夫(シモン)が人生の冬と自分を重ねるタレク・ナズミの味わい深い歌唱に、人、自然、神を愛するハイドンの温かな音楽が輝かしい光となってステージ上で鳴り響く。この上ない多幸感に包まれて大曲の幕は閉じた。

(毬沙琳)

味わい深い歌唱を聴かせたシモン役のタレク・ナズミ(C)池上直哉
味わい深い歌唱を聴かせたシモン役のタレク・ナズミ(C)池上直哉
多幸感に包まれる中、大曲の幕が閉じられた(C)池上直哉
多幸感に包まれる中、大曲の幕が閉じられた(C)池上直哉

公演データ

東京・春・音楽祭2026
東京春祭 合唱の芸術シリーズ vol.14 ハイドン「四季」

4月12日(日)14:00東京文化会館 大ホール

指揮:イアン・ペイジ
シモン:タレク・ナズミ
ハンネ:クリスティーナ・ランツハーマー
ルーカス:マウロ・ペーター
合唱:東京オペラシンガーズ
合唱指揮:西口彰浩
管弦楽:東京都交響楽団
コンサートマスター:水谷 晃

プログラム
ハイドン:オラトリオ「四季」Hob.XXI:3

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毬沙 琳

まるしゃ・りん

大手メディア企業勤務の傍ら、音楽ジャーナリストとしてクラシック音楽やオペラ公演などの取材活動を行う。近年はドイツ・バイロイト音楽祭を頻繁に訪れるなどし、ワーグナーを中心とした海外オペラ上演の最先端を取材。在京のオーケストラ事情にも精通している。

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