ルイージの気迫とN響の上手さが際立ったブルックナー交響曲第9番
N響の26年度の幕開けは首席指揮者ファビオ・ルイージが指揮台に立ち、ハイドン、ブルックナーを取り上げた。
1曲目はドイツのチェリスト、ヤン・フォーグラーを独奏に、ハイドンのチェロ協奏曲第1番。フォーグラーは音楽の骨格を堅固に固めたソロを披露。ドレスデン州立歌劇場の首席奏者出身ということもあり、オケと親密な対話を作り出そうとの意識が感じられ、休符の間もオケのチェロ・パートの方を向いてリズムに合わせて体を揺らすような仕草も見せた。一点気になったのは高音域の速いパッセージで音程が若干不確かだったこと。とはいえ、それを補って余りあるいぶし銀のような音色は魅力的ではあった。こうしたソロをルイージとN響は温かみを感じさせるサウンドで柔軟に支えていた。
メインはブルックナーの交響曲第9番。金管楽器が並ぶ山台3段目は下手からホルン&ワーグナー・テューバ→バス・テューバ→バス・トロンボーン→トロンボーン2・1番→トランペット1・2・3の配置で、ルイージがブラスの和声バランスを重視していることが窺(うかが)えた。現に金管に限らずオケ全体の音量バランスは絶妙に調整されており、全曲にわたって力感にあふれながらも美しい響きがホールにこだました。
第1楽章〝原始霧〟とも称される弦楽器のトレモロによる導入から細心の注意が払われた弱音が際立つ。次第に力を増し、第1主題のトゥッティで金管が強奏しても弦楽器がかき消されることなく壮麗な響きが構築された。97小節目からの第2主題では旋律を深く歌い込んだチェロ・パートの演奏が秀逸。この日の首席は辻󠄀本玲で、全身を使った熱演でパート全体をリードしていた。
第2楽章、気迫のこもったルイージの指揮に導かれてD(レ)の強奏は鬼気迫るような激しさで聴き手に迫った。弦楽器はオール・ダウンボウ。トリオに入ると一転、透明な響きで軽やかに音楽が進む。この対照も鮮やかであった。
第3楽章もバランスを維持しながら重厚壮麗なハーモニーを構築。特にこの日のブラス・セクションは目立ったミスはなくほぼ完璧に近い出来。その立役者は今月から首席客演奏者として復帰したホルンの福川伸陽だろう。確かな音程と表情豊かな演奏は金管セクションに絶対的な安定感をもたらしていた。コーダに入ると福川はしばし天を仰ぎ見てからしばらく目を閉じた後、目を見開いて荘厳なエンディングへ至る旋律を吹き始めた姿は印象的だった。終演後、ルイージは真っ先に彼を立たせて好演を讃(たた)え、客席からも盛大な喝采とブラボーの歓声があがった。
ルイージの気迫に応えたN響の上手さが光った26年度の幕開けに相応しい秀演であった。
(宮嶋 極)
公演データ
NHK交響楽団 第2060回 定期公演Aプログラム
4月11日(土)18:00 NHKホール
指揮:ファビオ・ルイージ
チェロ:ヤン・フォーグラー
管弦楽:NHK交響楽団
コンサートマスター:長原 幸太
プログラム
ハイドン:チェロ協奏曲第1番ハ長調Hob.VIIb–1
ブルックナー:交響曲第9番ニ短調
ソリスト・アンコール
バッハ:無伴奏チェロ組曲第3番ハ長調BWV1009「サラバンド」
他日公演
4月12日(日)14:00 NHKホール
みやじま・きわみ
放送番組・映像制作会社である毎日映画社に勤務する傍ら音楽ジャーナリストとしても活動。オーケストラ、ドイツ・オペラの分野を重点に取材を展開。中でもワーグナー作品上演の総本山といわれるドイツ・バイロイト音楽祭には2000年代以降、ほぼ毎年訪れるなどして公演のみならずバックステージの情報収集にも力を入れている。










