東京・春・音楽祭2026 トレヴァー・ピノック指揮 紀尾井ホール室内管弦楽団

新たな装いで響くバッハ エーラー編パルティータ

トレヴァー・ピノックは近年、バッハの鍵盤作品を管弦楽に編曲する試みに積極的である。昨年の東京春祭では、紀尾井ホール室内管弦楽団(KCO)を指揮して、「ゴルトベルク変奏曲」室内管弦楽版(ヨゼフ・コフレル編曲)の日本初演を成功させたことも記憶に新しい。今回の公演では、トーマス・エーラー編曲によるパルティータ第1番・第5番(いずれも日本初演)が取り上げられた。

トレヴァー・ピノック率いる紀尾井ホール室内管弦楽団が、日本初演作品を含む充実のプログラムを披露した(C)平舘平
トレヴァー・ピノック率いる紀尾井ホール室内管弦楽団が、日本初演作品を含む充実のプログラムを披露した(C)平舘平

鍵盤一台の音楽は、ピノックが述べるように「二声部のテクスチュアは異なる楽器に分けられ、広がりのある響きに包まれる」。またエーラーも、「管弦楽の色彩やテクスチュアの幅広さは、編曲者の恣意ではなく、原譜そのものから導かれている」と語っている。

KCOは4-4-3-3-1の弦編成。コンサートマスターはベルギー国立管弦楽団のコンサートマスターでもある赤間美沙子。最初にバッハ「管弦楽組曲第1番」が演奏された。ピノックはチェンバロを弾きながら指揮。オーボエとファゴットの活躍と軽快な弦により、明快な対位法が浮かび上がる生き生きとした演奏であった。

ピノックはチェンバロを弾きながら指揮した(C)平舘平
ピノックはチェンバロを弾きながら指揮した(C)平舘平

続いて、エーラー編曲のパルティータ第1番。フルートが加わり、オーボエの2番奏者はイングリッシュ・ホルンに持ち替える。多彩な音色の混じり合いが作品に新たな側面を加えた。サラバンドでは、オーボエとイングリッシュ・ホルンの間、さらにファゴットへと受け渡される旋律が、鍵盤にはない音色の変化を生む。KCOの名手たちの演奏も相まって、見事な仕上がりであった。終楽章ジーグで全楽器が多彩にミックスされる音色も印象的である。

多彩な音色が混じり合い、作品に新たな側面を加える(C)平舘平
多彩な音色が混じり合い、作品に新たな側面を加える(C)平舘平

後半1曲目はマックス・レーガー編曲のコラール前奏曲「おお人よ、汝の罪の大いなるを嘆け」。オルガン曲が弦楽合奏に編曲され、静かな祈りの雰囲気に包まれた。

パルティータ第5番は、軽快なコレンテでの爽やかな弦と対位旋律を奏でるファゴットとの交差が興味深く、サラバンドではヴァイオリン、ヴィオラ、チェロの室内楽的な対話から弦全体へと広がっていく構成も変化に富む。終楽章ジーグでは、三声のフーガを各楽器が入れ替わり立ち替わり展開していくさまが、多彩な音色の入り混じる響きを生み、交響的なスケールへと拡張された印象を受けた。

サラバンドではヴァイオリン、ヴィオラ、チェロの室内楽的な対話から弦全体へと広がっていく構成も変化に富んだ(C)平舘平
サラバンドではヴァイオリン、ヴィオラ、チェロの室内楽的な対話から弦全体へと広がっていく構成も変化に富んだ(C)平舘平

アンコールにはパルティータ第1番の終楽章ジーグが再び演奏され、華やかに終えた。

(長谷川京介)

公演データ

東京・春・音楽祭2026
トレヴァー・ピノック指揮 紀尾井ホール室内管弦楽団

3月29日(日)15:00東京文化会館 小ホール

指揮/チェンバロ:トレヴァー・ピノック
管弦楽:紀尾井ホール室内管弦楽団
コンサートマスター:赤間美沙子

プログラム
J.S.バッハ:管弦楽組曲 第1番 ハ長調 BWV1066
J.S.バッハ(T.エーラー編):パルティータ 第1番 変ロ長調 BWV825 (編曲版日本初演)
J.S.バッハ(レーガー編):コラール前奏曲「おお人よ、汝の罪の大いなるを嘆け」BWV622
J.S.バッハ(T.エーラー編):パルティータ 第5番 ト長調 BWV829(編曲版日本初演)

アンコール
J.S.バッハ(T.エーラー編):パルティータ 第1番 変ロ長調 BWV825 より VI.ジーグ

 

 

Picture of 長谷川京介
長谷川京介

はせがわ・きょうすけ

ソニー・ミュージックのプロデューサーとして、クラシックを中心に多ジャンルにわたるCDの企画・編成を担当。退職後は音楽評論家として、雑誌「音楽の友」「ぶらあぼ」などにコンサート評や記事を書くとともに、プログラムやCDの解説を執筆。ブログ「ベイのコンサート日記」でも知られる。

連載記事 

新着記事