神戸にこの楽団あり――鈴木秀美=神戸室内管、会心のシューベルト
2021年に鈴木秀美を音楽監督に迎えて以来、音楽的評価を高めてきた神戸市室内管弦楽団が、今シーズン最後を飾る定期演奏会で、会心というべき充実した演奏を聴かせた。
シューベルトの歌劇「サラマンカの友人たち」序曲と交響曲第8番「ザ・グレート」のあいだに、ベートーヴェンのピアノ協奏曲第1番を配し、すべてハ長調の作品で統一したプログラムは、才人・鈴木秀美ならではの発想。
第1ヴァイオリン9、第2ヴァイオリン8、ヴィオラ6、チェロ4、コントラバス3という小編成ながら、中低音は充実してふくよかに鳴り、大ホールでも音量の不足を全く感じさせない。バルブのない金管楽器、古楽器のティンパニ、さらに弦楽器奏者の一部がガット弦を用いることで、神戸室内管ならではの唯一無二の響きが定着した。
楽団の充実ぶりを感じさせる明朗快活なシューベルトの序曲に続き、人気と実力を兼ね備えた務川慧悟をソリストに迎えたベートーヴェン「ピアノ協奏曲第1番」では、舞台上のピアノの位置に驚かされる。屋根を外したグランドピアノが、弦楽器に取り囲まれるように舞台中央に置かれ、ソリストは指揮者と真正面から向き合う形でピアノを弾くのだ。
この試みは大成功だった。務川はソロが始まる前の序奏部から、通奏低音のようにピアノを弾いていたが、オーケストラとピアノの響きが溶け合い、得も言われぬ味わいを生んでいた。ソロに入るとその印象はいっそう強まり、粒立ちのよいタッチから生まれるきらめく響きが、管弦楽のあいだから立ちのぼってくる。
アンサンブルの一員としてそれぞれの楽器と対話することで、務川の音色の幅はさらに広がったように感じられた。神秘的な第2楽章から光彩陸離たる第3楽章を駆け抜け、大喝采を浴びた務川は、ベートーヴェン「悲愴」の第2楽章をアンコールで演奏した。
「ザ・グレート」は、珍しく暗譜で指揮した鈴木の音楽的意思が隅々まで行きわたり、古楽的アプローチを取り入れた精緻なアンサンブルによって、大オーケストラでは味わえない世界が立ち現れた。冒頭のホルンと、それに続くチェロのくすんだ音色は、私たちを一気にシューベルトの生きた時代へと誘う。すべての繰り返しを行い、60分近くに及んだ音楽の中に身を置くと、この作品で一つの大きな山の頂に登ろうとしたシューベルトの決意が、胸に迫ってくるようだった。
神戸にこの楽団あり――そんな心意気を示した名演であり、さらなる展開に期待したい。
(岩野裕一)
公演データ
神戸市室内管弦楽団 第171回定期演奏会「大いなる旅立ち」
3月7日(土)15:00神戸文化ホール 大ホール
指揮:鈴木秀美
ピアノ:務川慧悟
管弦楽:神戸市室内管弦楽団
コンサートマスター:高木和弘
プログラム
シューベルト:歌劇「サラマンカの友人たち」D326 – 序曲
ベートーヴェン:ピアノ協奏曲 第1番 ハ長調 Op.15
シューベルト:交響曲 第8番 ハ長調 D944「ザ・グレート」
ソリスト・アンコール
ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第8番ハ短調「悲愴」Op.13より第2楽章
他日公演
3月8日(日)15:00倉敷市芸文館ホール
いわの・ゆういち
音楽評論家。株式会社実業之日本社代表取締役社長のかたわら、日本のオーケストラを主なテーマに執筆活動を続けている。主な著書に『王道楽土の交響楽 満洲――知られざる音楽史』(第10回出光音楽賞)など。公益社団法人日本オーケストラ連盟理事。しらかわホール副館長。










