平崎真弓と「アカムス」による新たなバッハの魅力
通称AKAMUS=アカムスこと、ベルリン古楽アカデミーが平崎真弓とともに7年振りに来日。平崎は長年コンチェルト・ケルンのコンサートマスターを務めているが、実は2年前にアカムスのコンサートマスターに就任。今回就任後初めての来日公演となる(ちなみに現在もコンチェルト・ケルンのHPのメンバーリストに彼女の名がクレジットされている)。TOPPANホールにおける2公演の初日、「Pure Bach」と題し、バッハの名曲の原曲復元版や編曲版を盛り込んだたいへん興味深いプログラムである。
一曲目の管弦楽組曲第2番も通常のフルート版ではなく、ヴァイオリンがソロを受け持つ初稿。平崎のリズムには生き生きとした生命力と独特なスウィング感があり、序曲から身体をいっぱいに使ってソロを奏でアンサンブルをリード。中間部は軽やかな音色と快速テンポで技巧的なパッセージも鮮やか。ロンドーは柔らかな音色としなやかなフレージングが美しい。他の曲にも言えるが、総じて平崎に対するメンバーの共感と信頼が認められ、直線的で強い推進力と比較的硬質な子音という、これまでの同団の特質に新たな魅力が加わったように思える。その後の舞曲楽章ではダンスの性格が明確に示され、とりわけポロネーズは特有のリズムを際立たせて厳かな雰囲気を醸し出し、ドゥーブルでは平崎のソロが冴える。
続いてチェンバロ協奏曲BWV1055の原曲と考えられているオーボエ・ダモーレ協奏曲。レフラーのダモーレは人声のアルトを思わせるまろやかな音色と質朴とした〝歌〟が快く、本来のラルゲットに代えて演奏された「復活祭オラトリオ」のアダージョでは見事なソノリテとデュナーミクの制御力を示し、楽曲に色濃い陰影を与えていく。ヴァイオリン協奏曲第1番も平崎のヴァイオリンの魅力が全開。両端楽章は躍動感に満ち、緩徐楽章は任意な即興的パッセージが霊感に富む。
休憩後のオーボエ協奏曲BWV1056Rはチェンバロ協奏曲(第5番)の原曲。ここでもレフラーはオーボエの豊かなサウンドと息の長い人間的なフレージングを聴かせ、平崎は濃やかな気配りでアンサンブルを纏(まと)め上げつつソロを引き立て、終楽章はソロと弦のやり取りが楽しい。続くブランデンブルク協奏曲第4番のチェンバロ協奏曲版ではアルパーマンが流麗なソロを披露(楽器は2段鍵盤ジャーマン・ミートケの複製)。
音色の揃った2本のリコーダー、ファゴットを加えた通奏低音とともにピリオド楽器のオーケストラならではのカラフルなサウンドを堪能。最後の2つのヴァイオリンのための協奏曲も平崎らソリストや各楽器が密度の高いアンサンブルを展開、温かくカラフルなサウンドもガット弦ならでは。アンコールの「エア」のとろけるような柔らかな音色と繊細に造形されたフレーズが心に沁みた。
(那須田務)
公演データ
ベルリン古楽アカデミー I―Pure Bach
3月4日(水)19:00 TOPPANホール
ヴァイオリン(コンサートマスター):平崎真弓
オーボエ:クセニア・レフラー
チェンバロ:ラファエル・アルパーマン
管弦楽:ベルリン古楽アカデミー
プログラム
J.S.バッハ
:管弦楽組曲第2番 イ短調 BWV1067(ソロ・ヴァイオリン付き第1稿)
:オーボエ・ダモーレ協奏曲 イ長調 BWV1055R
(第2楽章:「復活祭オラトリオ」BWV249より アダージョ)
:ヴァイオリン協奏曲第1番 イ短調 BWV1041
:オーボエ協奏曲 ト短調 BWV1056R
:チェンバロと2本のリコーダーのための協奏曲 ヘ長調 BWV1057
(ブランデンブルク協奏曲第4番 ト長調 BWV1049に基づく作曲家自身による編曲)
:2つのヴァイオリンのための協奏曲 ニ短調 BWV1043
アンコール
J.S.バッハ:管弦楽組曲第3番BWV1068より第2曲「エア」
他日公演
ベルリン古楽アカデミー II ―Bach&Beyond
3月5日(木)19:00 TOPPANホール
※プログラム等の詳細は、公式サイトをご参照ください。
https://www.toppanhall.com/concert/detail/202603051900.html
なすだ・つとむ
音楽評論家。ドイツ・ケルン大学修士(M.A.)。89年から執筆活動を始める。現在『音楽の友』の演奏会批評を担当。ジャンルは古楽を始めとしてクラシック全般。近著に「古楽夜話」(音楽之友社)、「教会暦で楽しむバッハの教会カンタータ」(春秋社)等。ミュージック・ペンクラブ・ジャパン理事。










