ゲルゲイ・マダラシュ指揮 NHK交響楽団 第2058回 定期公演 Cプログラム

近衛版「展覧会の絵」のユニークな魅力を存分に体験

N響の100年特別企画として「邦人作曲家シリーズ」が始まった。今月の Cプログラムでは後半のメーン作品で、近衛秀麿(1898~1973)が編曲したムソルグスキーの組曲「展覧会の絵」が取り上げられた。指揮はハンガリー出身の実力者、ゲルゲイ・マダラシュ。前半はお国物のコダーイなどを交え、バラエティ豊かなプログラムとなった。

ハンガリー出身の指揮者、ゲルゲイ・マダラシュが登場 写真提供:NHK交響楽団
ハンガリー出身の指揮者、ゲルゲイ・マダラシュが登場 写真提供:NHK交響楽団

近衛はN響の前身である新交響楽団を1926年に設立し、国内オーケストラ界の黎明期を担った大家。スコアに手を入れた編曲版を多く残している。
「展覧会の絵」も原曲はピアノ作品だが、多彩な曲想や高い演奏効果に魅せられた音楽家による様々な管弦楽版がある。最も有名なのはモーリス・ラヴェルによる編曲で、日ごろよく耳にする。近衛版は、ラヴェル版を下敷きにしたバージョン。日本の近現代作曲史に詳しい片山杜秀氏のプログラム解説を参照すると、出版まもないラヴェル版を近衛が1931年にモスクワで振ったところ、ロシアらしさが足りないとの評価を得たという。そこでこの版をさらにアレンジして、「ロシア色」を強めたのが近衛版(1934年初演)、となる。

当日の演奏を耳にしてみると、ラヴェルのまばゆい色彩感を抑えて落ち着いたしつらえを志向し、響きの重心を低くした手厚いサウンドが特徴的だった。冒頭のプロムナードからして弦と木管で温厚な色合いを強調して始まり、明朗なトランペットは後段で加わる。他の曲でも、旋律を高らかに歌うソロ楽器を途中で下ろして渋めの弦楽合奏に差し替えたり、打楽器などを加えて音の重みを増やしたりと、さまざまな工夫がなされている。

ムソルグスキー(近衛秀麿編)の組曲「展覧会の絵」は、ラヴェルのまばゆい色彩感を抑えて落ち着いたしつらえだった 写真提供:NHK交響楽団
ムソルグスキー(近衛秀麿編)の組曲「展覧会の絵」は、ラヴェルのまばゆい色彩感を抑えて落ち着いたしつらえだった 写真提供:NHK交響楽団

指揮のマダラシュはそんな差異を率直に引き出し、聴き手の意識が自然とラヴェル版との違いに向くよう気を配った。N響の水際立った合奏能力もあって、近衛版のユニークな魅力を存分に体験する絶好のチャンスとなった。特別企画ならではの選曲だ。

プログラム前半の冒頭はコダーイの「ハンガリー民謡〝くじゃく〟による変奏曲」。さすがお国物だけに、マダラシュは民俗的なイディオムを丁寧に扱って、原色の濃厚な彩りや土の香りを提示していく。音色にくすんだ野趣を残し、都会的になりすぎないあたり、オーケストラの的確なコントロールを思わせた。

続くフンメルのトランペット協奏曲ホ長調では、N響首席奏者の菊本和昭が輝かしい音色とシュアな技巧を駆使して、折り目正しいソロを披露した。マダラシュは12型に刈り込んだ小ぶりな編成から、趣味の良い典雅な風情を醸し出した。
(深瀬満)

フンメルのトランペット協奏曲ホ長調で、N響首席奏者の菊本和昭が折り目正しいソロを披露 写真提供:NHK交響楽団
フンメルのトランペット協奏曲ホ長調で、N響首席奏者の菊本和昭が折り目正しいソロを披露 写真提供:NHK交響楽団
N響100年のロゴ入り、近衛秀麿版ムソルグスキーの組曲「展覧会の絵」のスコアを掲げるマダラシュ 写真提供:NHK交響楽団
N響100年のロゴ入り、近衛秀麿版ムソルグスキーの組曲「展覧会の絵」のスコアを掲げるマダラシュ 写真提供:NHK交響楽団

公演データ

NHK交響楽団 第2058回 定期公演 Cプログラム

2月13日(金)19:00 NHKホール

指揮:ゲルゲイ・マダラシュ
トランペット:菊本和昭
管弦楽:NHK交響楽団
コンサートマスター:郷古 廉

プログラム
[N響100年特別企画「邦人作曲家シリーズ」]
コダーイ:ハンガリー民謡「くじゃく」による変奏曲
フンメル:トランペット協奏曲 ホ長調
ムソルグスキー(近衛秀麿編):組曲「展覧会の絵」

他日公演
2月14日(土)14:00 NHKホール

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深瀬 満

ふかせ・みちる

音楽ジャーナリスト。早大卒。一般紙の音楽担当記者を経て、広く書き手として活動。音楽界やアーティストの動向を追いかける。専門誌やウェブ・メディア、CDのライナーノート等に寄稿。ディスク評やオーディオ評論も手がける。

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