音楽祭ならではの新鮮な響きで堪能したスピリチュアルな音楽の旅
2012年にスタートした国際音楽祭NIPPONも今年で9回目を迎えた。世界的なヴァイオリニストとして活躍する諏訪内晶子が「音楽家として得た経験を次世代に伝え、日本の音楽界に音返しを」という意思のもと、自ら芸術監督として国内外の演奏家たちと育ててきた音楽祭だ。前回の24年から共演している指揮のサッシャ・ゲッツェル率いるフェスティバル・オーケストラによる公演2日目(横浜みなとみらいホール)を聴いた。
このフェスティバル・オケはコンマス白井圭、ヴィオラ柳瀬省太、チェロ辻󠄀本玲、ファゴット長哲也といったオーケストラ経験豊富なトッププレーヤーと音楽祭のマスタークラス受講経験者である若い奏者が同じステージで演奏する。常設オケとは異なる音楽祭ならではの新鮮な響きに出会えるのも楽しみの一つだ。
今回はハイドンとモーツァルトのト短調の交響曲を両端に、ハイドンのヴァイオリン協奏曲第3番とペルトのフラトレスを諏訪内のソロで聴くというプログラム。これについて第2部の冒頭、ゲッツェルが「ト短調という人間の宿命を意図する調を通してスピリチュアルな音楽の旅をしてほしい」という趣旨を、諏訪内はペルトの作品に込められた「祈り」について語ってくれた。
ハイドンの交響曲第39番は対抗配置の総勢23名の弦楽器(第1ヴァイオリンから7、6、5、3、2)とホルン、オーボエのアンサンブルがみなとみらいホールの残響とぴったりでゲッツェルの活き活きとして、細部まで行き届いた音作りに魅せられた。続く協奏曲は諏訪内とオケとの一体感と各楽章でのカデンツァなど聴かせどころ満載、特に2楽章の優艶(ゆうえん)な歌い方が印象的だった。
ペルトのフラトレスはチェロ以外の弦楽奏者は立奏に変わり、研ぎ澄まされた透明感のある静謐な作品が、演奏の中で温もりを増し生命力を感じさせる。打楽器の安江佐和子によるクラベスとバスドラムの音が「祈り」の先にあるものを暗示するように響いた。
最後のモーツァルトの交響曲第40番は細かい旋律まで良く聴こえ、光と陰のような楽想の変化も鮮やか、不協和音も美しい音色で磨き抜かれたハーモニーのようだ。フィナーレに出てくる全休符で冒頭のハイドンを思い起こさせ、まさに良い音楽の旅をしたと感じることのできる演奏会だった。
(毬沙琳)
公演データ
サッシャ・ゲッツェル指揮 国際音楽祭NIPPONフェスティヴァル・オーケストラ 諏訪内晶子(ヴァイオリン)
2月11日(水・祝)17:00横浜みなとみらいホール 大ホール
指揮:サッシャ・ゲッツェル
ヴァイオリン:諏訪内晶子
管弦楽:国際音楽祭NIPPONフェスティバル・オーケストラ
コンサートマスター:白井 圭
プログラム
ハイドン:交響曲 第39曲 ト短調 Hob.I:39
ハイドン:ヴァイオリン協奏曲 第3番「メルク協奏曲」 イ長調 Hob.VIIa:3(ヴァイオリン:諏訪内晶子)
アルヴォ・ペルト:フラトレス(ヴァイオリン:諏訪内晶子)
モーツァルト:交響曲第40番 ト短調 K.550
※国際音楽祭NIPPON2026で開催される他の公演日程やプログラムなどの詳細は、音楽祭の公式サイトをご参照ください。
https://imfn.japanarts.jp/index.html
まるしゃ・りん
大手メディア企業勤務の傍ら、音楽ジャーナリストとしてクラシック音楽やオペラ公演などの取材活動を行う。近年はドイツ・バイロイト音楽祭を頻繁に訪れるなどし、ワーグナーを中心とした海外オペラ上演の最先端を取材。在京のオーケストラ事情にも精通している。










