フランス音楽とロシア音楽との結びつきを感じる上質な演奏
トゥガン・ソヒエフは、2022年のロシアのウクライナ侵攻の直後、トゥールーズ・キャピトル国立管弦楽団とボリショイ劇場の音楽監督をともに辞任したが、トゥールーズ時代、彼は同地でフランスとロシアを結びつける音楽祭〝Les Musicales franco-russes〟を立ち上げていた。そんな彼が、今回のNHK交響楽団との演奏会で、フランスとロシア音楽からなるプログラムを披露した。この日は、トゥールーズ・キャピトル国立管の藤江扶紀が客演コンサートマスターに招かれ、その横には川崎洋介が座るという強力な布陣。
演奏会前半はフランス音楽。ドビュッシーの「牧神の午後への前奏曲」は色彩豊かな演奏。ハープの音を際立たせるなど、隅々まで目が行き届いている。ヴァイオリンの澄んだ美しさに感銘を受ける。
続いて、上野通明のチェロ独奏でデュティユーのチェロ協奏曲「遥かなる遠い国へ」。独奏チェロと2人の打楽器奏者とのコンタクトで始まる独創的な開始。上野のチェロは、重音などで技巧の秀逸さを示しながら、緩徐楽章では艶のある高音でたっぷりと歌う。ソヒエフのリードするオーケストラは、響きの美しさとともに、レベルの高い再現。独奏チェロとオーケストラがよく溶け合う。
上野は、ソロ・アンコールで、ロシア出身でパリでも活躍したチェレプニンのチェロ組曲Op.76の第2曲を演奏。民族舞曲風の音楽で楽器をシンプルに響かせ、デュティユー作品とは異なるチェロの魅力を聴かせてくれた。
演奏会後半はロシア音楽。リムスキー・コルサコフの組曲「サルタン皇帝の物語」は彼の同名のオペラから編まれたもの。ソヒエフは第1曲からオーケストラを愉(たの)しく開放的に鳴らす。第2曲はリムスキー・コルサコフらしい海の音楽。第3曲ではオーケストラがよく歌う。「シェエラザード」のように、管弦楽法の大家の作品でオーケストラの魅力を満喫した。
最後は、ストラヴィンスキーのバレエ組曲「火の鳥」(1919年版)。カラフルで洗練された演奏。ドラマティックに描かれていたが、決して粗野にはならない。「カッチェイ王の魔の踊り」も、人を驚かせるような凶暴な音楽ではなく、舞踊を思い起こさせる愉しさ。「王女たちの踊り」でのカンタービレも良かったが、「こもり歌」から「終曲」へのつなぎの部分での、ソヒエフのオーケストラの扱いにはまさに非凡なものを感じた。
ソヒエフ&N響の極めて上質な演奏によって、フランス音楽とロシア音楽との結びつき(ロシア音楽の洗練)を強く感じた。
(山田治生)
公演データ
NHK交響楽団 第2055回 定期公演 Cプログラム
1月24日(土)14:00NHKホール
指揮:トゥガン・ソヒエフ
チェロ:上野 通明
管弦楽:NHK交響楽団
コンサートマスター:藤江 扶紀
プログラム
ドビュッシー:牧神の午後への前奏曲
デュティユー:チェロ協奏曲 「遥かなる遠い国へ」
リムスキー・コルサコフ:組曲「サルタン皇帝の物語」 Op.57
ストラヴィンスキー:バレエ組曲「火の鳥」(1919年版)
ソリスト・アンコール
アレクサンドル・チェレプニン:チェロ組曲 Op.76 から 第2曲
やまだ・はるお
音楽評論家。1964年、京都市生まれ。87年、慶応義塾大学経済学部卒業。90年から音楽に関する執筆を行っている。著書に、小澤征爾の評伝である「音楽の旅人」「トスカニーニ」「いまどきのクラシック音楽の愉しみ方」、編著書に「オペラガイド130選」「戦後のオペラ」「バロック・オペラ」などがある。










