ダニエーレ・ルスティオーニ指揮 東京都交響楽団 第1034回定期演奏会Aシリーズ

輝かしく躍動したヴェルディとワーグナー

2日前の記者会見で別れ際、「ヴェルディ万歳! でも、ワーグナーもね」といったルスティオーニ。言葉通りのコンサートになった。

ダニエーレ・ルスティオーニが、ヴェルディとワーグナーの歌劇から管弦楽名曲集を披露した
ダニエーレ・ルスティオーニが、ヴェルディとワーグナーの歌劇から管弦楽名曲集を披露した

1曲目の「運命の力」序曲で期待感が煽(あお)られた。「運命のテーマ」の躍動的な弦のうねり、アルヴァーロとカルロの重唱のテーマでの哀愁を帯びた木管、レオノーラのテーマでの精妙なヴァイオリン……と、オペラの場面を明瞭に浮かび上がらせながら、大きな奔流を創ってまとめ上げる。自然と心が躍らされ、この先が、つまりオペラの本編が聴きたくなる。

「マクベス」第3幕、「オテッロ」(プログラムには「オテロ」と記載)第3幕、それぞれのバレエ音楽は、ともにパリ初演時に書き加えられたもので、実演では弛緩(しかん)しがちな箇所だが、ともに生命力が横溢(おういつ)した。感情のうねりを伴って表情が刻々と変化し、前者ではワルツに加わる切迫感が際立った。後者の色彩感もすばらしい。いずれも短いなかに凝縮したドラマの展開がある。

そして「シチリア島の晩鐘」(プログラムには「シチリア島の夕べの祈り」と記載)序曲。序章から音が集中し、アレグロ・アジタートで見事な厚みを表現し、続く叙情的な主題では弦の輝きが際立つ。その間につけられる濃淡が有機的で、「淡」の部分も音の集中力が途切れない。また、どの曲もそうだが緊張感を帯びて躍動し、それがルスティオーニの身振りと見事に一致している。

後半はワーグナー。「リエンツィ」序曲から、「自分はヴェルディ以上にワーグナーを振れるのだ」というルスティオーニの強い自負が感じられる。磨き抜かれた弦が官能的に輝き、行進曲風の主題は雄大で色彩に富んでいる。

弦の官能性は次の「タンホイザー」序曲で炸裂した。巡礼の合唱の調べから悔悟の動機までは、地から生成するような自然なうねりを聴かせ、それだけにヴェーヌスベルクの官能の響きとの対比が鮮やか。常に旋律が明瞭なのはよい意味でイタリア的で、鮮やかな輝きは解像度がすこぶる高い。一方、「ローエングリン」第1幕への前奏曲は、弦が徹底的に磨いて不純物を取り去ったように精妙で、まさに「透き通っている」。この透明感は、ドイツ的な空気感とは異なるかもしれないが、イタリアの環境を愛したワーグナーの音楽には、実はしっくりくるのではないだろうか。

最後は「ニュルンベルクのマイスタージンガー」第1幕への前奏曲。それぞれの動機が精密に組み立てられ、結果として生命力に満ちている。それを有機的かつ躍動的に並べ、短い前奏曲のなかに楽劇の世界を凝縮させる。これがこの晩の白眉だった。

「ニュルンベルクのマイスタージンガー」第1幕への前奏曲がこの晩の白眉だった
「ニュルンベルクのマイスタージンガー」第1幕への前奏曲がこの晩の白眉だった

ルスティオーニは最初の共演時から、コンサートマスターの矢部達哉に信頼を寄せ、それが都響への強い信頼につながった。この日も各楽器の高い集中度とバランスのよさは特筆すべき水準で、首席客演指揮者に就任する来シーズン以降への期待も、想像していた以上に膨らんだ。
(香原斗志)

公演データ

東京都交響楽団 第1034回定期演奏会Aシリーズ

1月23日(金)19:00東京文化会館 大ホール

指揮:ダニエーレ・ルスティオーニ
管弦楽:東京都交響楽団
コンサートマスター:矢部達哉

プログラム
ヴェルディ:歌劇「運命の力」序曲       
ヴェルディ:歌劇「マクベス」第3幕 バレエ音楽 
ヴェルディ:歌劇「オテロ」第3幕 第7場 バレエ音楽     
ヴェルディ:歌劇「シチリア島の夕べの祈り」序曲
ワーグナー:歌劇「リエンツィ」序曲     
ワーグナー:歌劇「タンホイザー」序曲   
ワーグナー:歌劇「ローエングリン」第1幕への前奏曲 
ワーグナー:楽劇「ニュルンベルクのマイスタージンガー」第1幕への前奏曲

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香原斗志

かはら・とし

音楽評論家、オペラ評論家。オペラなど声楽作品を中心に、クラシック音楽全般について執筆。歌唱の正確な分析に定評がある。著書に「イタリア・オペラを疑え!」「魅惑のオペラ歌手50:歌声のカタログ」(共にアルテスパブリッシング)など。「モーストリークラシック」誌に「知れば知るほどオペラの世界」を連載中。歴史評論家の顔も持ち、新刊に「教養としての日本の城」(平凡社新書)がある。

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