ウィーン・リング・アンサンブル ニューイヤー・コンサート2026

名手たちの和気あいあいとした合奏でウィーンならではの味わいを体現

ウィーン・フィルの新旧メンバー9人でつくるウィーン・リング・アンサンブルは、現地で開かれたニューイヤー・コンサートのエッセンスを各地に届けてきた。日本への来演は34回に及ぶ。1991年からの創設メンバーで、35年にわたり第1ヴァイオリン奏者を務めたライナー・キュッヒルが、今回を最後に同グループから身を引き、ひとつの節目を迎える。

ウィーン・リング・アンサンブル ©️Taichi Nishimaki
ウィーン・リング・アンサンブル ©️Taichi Nishimaki

ウィーンの旧市街を囲む環状道路=リングをグループ名に冠して、シュトラウス一家やランナー、ツィーラーらのワルツ、ポルカを編曲版で紹介するプロジェクトは、ウィーンならではの味わいを体現してきた。キュッヒルは「長年にわたってご支援いただき、たくさんの皆さまと交流できたのは、大変嬉しく光栄なこと」と、感謝のコメントを寄せた。

当日の会場はキュッヒル時代の終わりを惜しむファンで、例年以上に盛り上がった。9人のフォーメーションは、現楽団長のダニエル・フロシャウアー(ヴァイオリン)のほか、カール=ハインツ・シュッツ(フルート)やロナルド・ヤネシッツ(ホルン)のような現役の首席や若い奏者が加わり、世代交代が進んでいる。

会場にはライナー・キュッヒルの引退を惜しむファンが駆け付け、例年以上の盛り上がりをみせた ©️Taichi Nishimaki
会場にはライナー・キュッヒルの引退を惜しむファンが駆け付け、例年以上の盛り上がりをみせた ©️Taichi Nishimaki

冒頭のオペレッタ「ジプシー男爵」序曲(J.シュトラウス2世)から優雅でふくよかな響きが、ミニ・ウィーン・フィルのよう。流麗な歌ごころにあふれ、彼らが普段ウィーン国立歌劇場のピットでも演奏しているのを想起させる。ワルツやポルカを緩急ゆたかに並べ、飽きさせない工夫は、さすがに周到だ。中でも弦楽五重奏で弾いたランナーのワルツ「シェーンブルンの人々」は優美なウィーン情緒を濃厚にたたえ、大きな喝采を浴びた。

手の空いた奏者が簡易なパーカッションなどを分担し、アレンジに変化を付けるのも、このグループの妙味。しかも、そのアクセントがとても気が利いていて、曲のチャーミングな面を強調するのが心にくい。アンサンブルの固い結束をうかがわせる役割も果たす。

今回は木管の3人に役割が振られた。コンサート前半ではトライアングルやシンバルを鳴らす程度だったが、後半は大胆さを増した。フルートのシュッツは片手に楽器、逆側で小太鼓のスティックを握って同時に演奏する離れ業や、小型の鉄琴を携え奏者の後方を歩き回って弾く趣向を披露して、会場を沸かせた。

ワルツ「美しく青きドナウ」やラデツキー行進曲で定番のアンコールが終わると、鳴り止まない拍手にこたえてキュッヒルが単独で現れ、パガニーニのカプリース第13番をさらりと弾いてみせた。

名手たちの和気あいあいとした合奏に触れると、やはり「伝統芸」の強みには感服せざるを得ない。

(深瀬満)

公演データ

ウィーン・リング・アンサンブル  ニューイヤー・コンサート2026

1月8日(木) 19:00サントリーホール 大ホール

ウィーン・リング・アンサンブル
ヴァイオリン: ライナー・キュッヒル、ダニエル・フロシャウアー
ヴィオラ:ハインリヒ・コル
チェロ:シュテファン・ガルトマイヤー 
コントラバス:ミヒャエル・ブラデラー
フルート:カール=ハインツ・シュッツ 
クラリネット:アレックス・ラドシュテッター、ヨハン・ヒントラー
ホルン:ロナルド・ヤネシッツ

プログラム
J.シュトラウス2世:オペレッタ「ジプシー男爵」序曲
J.シュトラウス2世:ワルツ「芸術家の人生」
ヨーゼフ・シュトラウス:ポルカ・シュネル「おしゃべりなかわいい口」
J.シュトラウス2世:ワルツ「シトロンの花咲くところ」
J.シュトラウス2世:芸術家のカドリーユ
J.シュトラウス1世:リストの主題による狂乱のギャロップ
J.シュトラウス2世:オペレッタ「ヴェネツィアの一夜」ワルツ・メドレー
J.シュトラウス2世:ポルカ・シュネル「突進」
ツィーラー:ワルツ「ウィーン市民」
J.シュトラウス2世:新ピツィカート・ポルカ
J.ランナー:ワルツ「シェーンブルンの人々」
J.シュトラウス2世:ニコ・ポルカ
(編曲:ミヒャエル・ロート)

アンコール
J.シュトラウス2世:ポルカ・シュネル「狩り」
J.シュトラウス2世:ワルツ「美しく青きドナウ」
J.シュトラウス1世:ラデツキー行進曲

ソロ・アンコール(ライナー・キュッヒル) 
パガニーニ: 24のカプリースOp.1から第13番 変ロ長調

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深瀬 満

ふかせ・みちる

音楽ジャーナリスト。早大卒。一般紙の音楽担当記者を経て、広く書き手として活動。音楽界やアーティストの動向を追いかける。専門誌やウェブ・メディア、CDのライナーノート等に寄稿。ディスク評やオーディオ評論も手がける。

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