カーキ・ソロムニシヴィリ指揮 スロヴェニア・フィルハーモニー管弦楽団 阪田知樹 × ブラームス

際立つ阪田のソロ――〝ピアノが主体の協奏交響曲〟の趣を感じさせたブラームスの2つの協奏曲

起源が1701年という老舗スロヴェニア・フィルハーモニー管弦楽団の公演。率いるのは2024年から首席指揮者を務める1990年ジョージア(グルジア)生まれのカーキ・ソロムニシヴィリである。とはいえプログラムの中心はブラームスのピアノ協奏曲第1番&第2番。ならば当然、両曲でソロを弾く阪田知樹が主役となる。

スロヴェニア・フィルを率いるカーキ・ソロムニシヴィリと、ソリストの阪田知樹 ⒸTaira Tairadate
スロヴェニア・フィルを率いるカーキ・ソロムニシヴィリと、ソリストの阪田知樹 ⒸTaira Tairadate

最初にスロヴェニア出身の作曲家ミヘヴェツ(1805-82)のジングシュピール「妖精の子」序曲なる作品が披露される。曲はモーツァルトとイタリア初期ロマン派を混ぜたような溌剌(はつらつ)とした音楽。まずはオケの持ち味を生かしたジョブと言えようか。

スロヴェニア出身の作曲家ミヘヴェツの「妖精の子」ジングシュピール序曲で、まずはオケの持ち味を生かした演奏を聴かせた ⒸTaira Tairadate
スロヴェニア出身の作曲家ミヘヴェツの「妖精の子」ジングシュピール序曲で、まずはオケの持ち味を生かした演奏を聴かせた ⒸTaira Tairadate

そして阪田知樹が弾く協奏曲2つ。筆者は阪田を、いかなる楽曲も様式感を外さず、高度なテクニックを生かして正統的かつ雄弁に表現する真の名手と認識しているが、今回もまさにそう。彼は難儀な両曲を的確・明確に表出する。驚いたのは、第1番第1楽章から第2番第4楽章まで、終始パワーと目配りが維持されていた点。以前ラフマニノフの5つの協奏作品を1公演で聴かせているので、無類のスタミナは承知していたが、また違った重みを持つ両曲をダイナミックかつ緻密に表現しきったのには恐れ入った。もちろん美しさや強弱のメリハリも絶やさないが、第1番は曲本来の力感がストレートに伝えられ、第2番は優美な同曲の内にある男性的な強さを再認識させられた感がある。

ソリストの阪田知樹は終始パワーを維持し、驚異の演奏を聴かせた ⒸTaira Tairadate
ソリストの阪田知樹は終始パワーを維持し、驚異の演奏を聴かせた ⒸTaira Tairadate

それにしてもスロヴェニア・フィルは不思議な感触のオーケストラだ。モダンな機能性を旨とするのでも、東欧的ないぶし銀の渋さを特徴とするのでもない。あえて言えば、隣国イタリア寄りの明るさを湛(たた)えた折衷型であろうか。とはいえ、じっくりと音楽を運ぶソロムニシヴィリの指揮も相まって、第1番のくすんだ力強さも第2番の明朗さも過不足なく打ち出された。ただし、現地で阪田と共演済みの第1番の方が一体感はあったが、オケに合っていたのは第2番の方か。こちらは、冒頭のホルンや第3楽章のチェロのソロの豊麗な歌い口をはじめ、明るめの音色感が耳を楽しませた。

オケが持つ音楽性と、じっくりと音楽を運ぶソロムニシヴィリの指揮が相まって、1、2番それぞれの特色が過不足なく打ち出された ⒸTaira Tairadate
オケが持つ音楽性と、じっくりと音楽を運ぶソロムニシヴィリの指揮が相まって、1、2番それぞれの特色が過不足なく打ち出された ⒸTaira Tairadate

両曲は通常〝ピアノ付きの交響曲〟と呼ばれるが、今回の演奏は〝ピアノが主体の協奏交響曲〟の趣。それほど阪田のソロが際立った公演だった。
(柴田克彦)

公演データ

カーキ・ソロムニシヴィリ指揮 スロヴェニア・フィルハーモニー管弦楽団
阪田知樹 × ブラームス

11月28日(金)19:00 東京芸術劇場コンサートホール

指揮:カーキ・ソロムニシヴィリ
ピアノ:阪田知樹
管弦楽:スロヴェニア・フィルハーモニー管弦楽団

 プログラム
ユーリ・ミヘヴェツ:「妖精の子」ジングシュピール序曲
ブラームス: ピアノ協奏曲 第1番 ニ短調 Op.15 
ブラームス: ピアノ協奏曲 第2番 変ロ長調 Op.83

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柴田克彦

しばた・かつひこ

音楽マネジメント勤務を経て、フリーの音楽ライター、評論家、編集者となる。「ぶらあぼ」「ぴあクラシック」「音楽の友」「モーストリー・クラシック」等の雑誌、「毎日新聞クラシックナビ」等のWeb媒体、公演プログラム、CDブックレットへの寄稿、プログラムや冊子の編集、講演や講座など、クラシック音楽をフィールドに幅広く活動。アーティストへのインタビューも多数行っている。著書に「山本直純と小澤征爾」(朝日新書)。

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