ピエタリ・インキネン指揮 読売日本交響楽団 第653回定期演奏会

自然の情景や宇宙のひとこまを切り取った、シベリウスへの深いリスペクトから生まれる音楽

ピエタリ・インキネンが、来日不可能となったハンヌ・リントゥの代役で、読売日本交響楽団の定期演奏会に初登場した。フィンランド出身のインキネンは、2016年から2023年まで日本フィルハーモニー交響楽団で首席指揮者を務めていたので、日本の聴衆にもお馴染みである。日本フィルとはシベリウス交響曲全集の録音も行った。今回は、サーリアホの「冬の空」をシベリウスの「トゥオネラの白鳥」に変更した以外は、もともとのプログラムが演奏された。

ハンヌ・リントゥの代役で読響定期に初登場したピエタリ・インキネン ©読売日本交響楽団 撮影=藤本崇
ハンヌ・リントゥの代役で読響定期に初登場したピエタリ・インキネン ©読売日本交響楽団 撮影=藤本崇

まずは、シベリウスの交響的幻想曲「ポホヨラの娘」。チェロの語るようなソロで始まる。各楽器の音がよく溶け合い幻想曲にふさわしい。 翳(かげ)りのある落ち着いた音色。読響の緻密なアンサンブルが劇性を際立てた。

続いて、ピョートル・アンデルシェフスキの独奏で、バルトークのピアノ協奏曲第3番。ここでのアンデルシェフスキの演奏は、パーカッシヴ(打楽器的)であると同時にピアノの音色感を聴かせるところが魅力的である。第2楽章は、「レリジオーソ(宗教的に、厳粛に)」の指示があるが、むしろ人間的な温かさを感じた。ソロ・アンコールのブラームス「間奏曲」作品118-2でも優しく温かみのある音を聴かせてくれた。

バルトークのピアノ協奏曲第3番の独奏はピョートル・アンデルシェフスキ。人間的な温かさを感じる演奏だった ©読売日本交響楽団 撮影=藤本崇
バルトークのピアノ協奏曲第3番の独奏はピョートル・アンデルシェフスキ。人間的な温かさを感じる演奏だった ©読売日本交響楽団 撮影=藤本崇

後半の最初は「トゥオネラの白鳥」。インキネンは、粘ることなく、流れのよいテンポ。イングリッシュホルンも表情をつけ過ぎずにさらりと歌う。チェロのソロは渋く、大太鼓の最弱音でのトレモロ(降雪を表現しているのだろうか)は聴こえるというよりも振動を体感するかのよう。ヴァイオリンの音色も澄んでいる。人の感情というよりも自然の風景を思わせた。

最後はシベリウスの交響曲第7番。インキネンは、ここでも滞ることのない速めのテンポ。ひんやりとした澄んだ音で、楽曲をひたすら美しく再現する。トロンボーンのソロもオーケストラに溶け込んでいる。自己を過度に主張することなく自然の情景や宇宙のひとこまを切り取るような、ある意味、純音楽的でもある演奏に、インキネンのシベリウスへの深いリスペクトを感じた。

(山田治生)

シベリウスの交響曲第7番では、インキネンのシベリウスへの深いリスペクトを感じた ©読売日本交響楽団 撮影=藤本崇
シベリウスの交響曲第7番では、インキネンのシベリウスへの深いリスペクトを感じた ©読売日本交響楽団 撮影=藤本崇

公演データ

読売日本交響楽団 第653回定期演奏会

11月27日(木)19:00サントリーホール 大ホール

指揮:ピエタリ・インキネン
ピアノ:ピョートル・アンデルシェフスキ
管弦楽:読売日本交響楽団
コンサートマスター:林 悠介

プログラム
シベリウス:交響的幻想曲「ポホヨラの娘」Op.49
バルトーク:ピアノ協奏曲第3番 ホ長調
シベリウス:組曲「レンミンカイネン」Op.22から〝トゥオネラの白鳥〟
シベリウス:交響曲第7番 ハ長調 Op.105

ソリスト・アンコール
ブラームス:間奏曲 Op.118-2

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山田 治生

やまだ・はるお

音楽評論家。1964年、京都市生まれ。87年、慶応義塾大学経済学部卒業。90年から音楽に関する執筆を行っている。著書に、小澤征爾の評伝である「音楽の旅人」「トスカニーニ」「いまどきのクラシック音楽の愉しみ方」、編著書に「オペラガイド130選」「戦後のオペラ」「バロック・オペラ」などがある。

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