持てる技術を全て音楽に反映させ、内面のドラマを描く
ジャニーヌ・ヤンセン(ヴァイオリン)&デニス・コジュヒン(ピアノ)のデュオ・リサイタル。現代最高のヴァイオリニストの一人と称されるヤンセンだが、こうしたリサイタルを日本で行うのは9年ぶりだという。披露されたのは、シューマンのヴァイオリン・ソナタ第1番、ブラームスのヴァイオリン・ソナタ第2番、クララ・シューマンの3つのロマンス、ブラームスのヴァイオリン・ソナタ第3番が並んだ、シューマン夫妻とブラームスの関係を明確に示すプログラムである。
今回最も感じたのは、これ見よがしのパフォーマンスを排して、持てる技術を全て音楽に反映させるヤンセンの真摯な姿勢と、十分にテクニカルながらも、出過ぎず控えめ過ぎないスタンスでヤンセンと一体化していくコジュヒンの絶妙なバランス感覚だ。
1曲目のシューマンのソナタから極めて内向的な音楽が展開される。豊麗な音を駆使して幻想的な表現がなされてもいるのだが、シューマン晩年の鬱屈(うっくつ)したトーンが終始支配している。そしてこのトーンは本日全体にわたって消えることがなかった。
次のブラームスの2番は彼のソナタの中でも明るく優美な作品だが、これも同様。シューマンより華やかさが増しながらも、ブラームスの内なる寂しさが自然と浮き彫りにされる。
後半最初のクララ作品も豊潤でいながら内省的。ここはヤンセンと歩調を合わせるコジェヒンのピアノが特に光る。
最後のブラームスの3番は、この曲特有の迫真性と繊細さを共生させた、ドラマティックかつ細やかな演奏。アンコールの2曲もしっとりじっくりと奏される。
音よりも音楽表現に注力した内面のドラマのようなコンサート。ただしこれは2階正面で聴いた感触だ。以前も似たことを書いたが、東京オペラシティの2階正面席はステージの音が遠く、演奏全体がソフトなまとまりを持って届く。内向的でニュアンスに富んだ演奏だったのは確かだろうが、リアルに音が響く位置で聴いたらどう感じたのか? 些(いささ)か気になるところではある。
(柴田克彦)
公演データ
ジャニーヌ・ヤンセン&デニス・コジュヒン デュオ・リサイタル
11月13日(木) 19:00東京オペラシティ コンサートホール
ヴァイオリン:ジャニーヌ・ヤンセン
ピアノ:デニス・コジュヒン
プログラム
シューマン:ヴァイオリン・ソナタ第1番 イ短調 Op.105
ブラームス:ヴァイオリン・ソナタ第2番 イ長調 Op.100
クララ・シューマン:3つのロマンスOp.22
ブラームス:ヴァイオリン・ソナタ第3番 ニ短調 Op.108
アンコール
ドヴォルザーク:ヴァイオリンとピアノのためのソナチネ Op.100より 第2楽章
ブラームス:6つのリート Op.86より 第2曲「野の寂しさ」
しばた・かつひこ
音楽マネジメント勤務を経て、フリーの音楽ライター、評論家、編集者となる。「ぶらあぼ」「ぴあクラシック」「音楽の友」「モーストリー・クラシック」等の雑誌、「毎日新聞クラシックナビ」等のWeb媒体、公演プログラム、CDブックレットへの寄稿、プログラムや冊子の編集、講演や講座など、クラシック音楽をフィールドに幅広く活動。アーティストへのインタビューも多数行っている。著書に「山本直純と小澤征爾」(朝日新書)。










