熱っぽく、キレの良い指揮に小曽根ワールド全開の「ラプソディー・イン・ブルー」——白熱の演奏で聴衆を魅了
名誉音楽監督、チョン・ミョンフンが登壇し、バーンスタインの「ウエスト・サイド物語」よりシンフォニック・ダンス、ガーシュウィンの「ラプソディー・イン・ブルー」(ピアノ独奏:小曽根真)、プロコフィエフのバレエ音楽「ロメオとジュリエット」抜粋を指揮した。チョン&東京フィルは10月末から11月前半にかけてヨーロッパ・ツアーを行い、この日のプログラムは、ベルリン、ブダペスト、デュッセルドルフでも披露される。

この日は近藤薫がコンサートマスターを務めたが、三浦章宏、依田真宣も参加し、東京フィルのコンサートマスター陣3人が揃う強力な布陣。まず「ウエスト・サイド物語」。チョンの指揮は柔軟だが、ビートは明快。快適なテンポが採られ、ドラマティックで、ノリも良い。〝サムウェア〟でのヴィオラのソロ(須田祥子)が魅力的。〝マンボ〟はスピード感があり、楽団員の声(!)もよく出ていた。
続いて「ラプソディー・イン・ブルー」。チョンは振らずに、クラリネット(アレッサンドロ・ベヴェラリ)がソロを吹き始める。デフォルメもある濃厚な表現で曲の先行きが楽しみになる。小曽根のソロは、自由度が高く、即興に富み(ソロがかなり長大)、遊びも盛り込まれる。まさにオンリー・ワンな小曽根ワールドだった。チョンも楽しんで指揮。ソロ・アンコールでは小曽根自作の「Asian Dream」をしっとりと演奏。

プロコフィエフの「ロメオとジュリエット」からは10曲が取り上げられた。「モンタギュー家とキャピュレット家」では弦楽器の強靭さと木管楽器の柔らかな音のコントラストが素晴らしい。「ジュリエットの墓の前のロメオ」では痛切な音が胸に迫る。「ジュリエットの死」ではヴァイオリンの非常に高い音域での旋律が心にしみた。全体としては、色彩豊かで、首席奏者たちのソロが魅力的であり、効果的なアクセントやたっぷりとしたカンタービレも聴けた。チョン・ミョンフンの指揮のもと、東京フィルが一体となった名演であったが、まだ精度を上げる余地を残しているようにも感じられた。東京でもう1回同じプログラムの演奏会があり、ヨーロッパ・ツアーまでに時間もある。チョン&東京フィルの最良の演奏でヨーロッパの聴衆を魅了してほしいと願う。
アンコールに「ウエスト・サイド物語」から〝マンボ〟を再び。マエストロ・チョンの熱っぽく、激しく、キレの良い指揮は、とても70歳を越えているとは思えず、驚異的である。
(山田治生)

公演データ
東京フィルハーモニー交響楽団 第1025回サントリー定期シリーズ
10月16日(木)19:00サントリーホール 大ホール
指揮:チョン・ミョンフン(名誉音楽監督)
ピアノ:小曽根 真
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団
コンサートマスター:近藤 薫、三浦章宏、依田真宣
プログラム
バーンスタイン:「ウエスト・サイド物語」よりシンフォニック・ダンス
ガーシュウィン:ラプソディー・イン・ブルー
プロコフィエフ:バレエ音楽「ロメオとジュリエット」Op.64より
ソリスト・アンコール
小曽根 真:Asian Dream
アンコール
バーンスタイン:「ウエスト・サイド物語」より シンフォニック・ダンス 第4曲〝マンボ〟
これからの他日公演
10月20日(月)19:00東京オペラシティ コンサートホール

やまだ・はるお
音楽評論家。1964年、京都市生まれ。87年、慶応義塾大学経済学部卒業。90年から音楽に関する執筆を行っている。著書に、小澤征爾の評伝である「音楽の旅人」「トスカニーニ」「いまどきのクラシック音楽の愉しみ方」、編著書に「オペラガイド130選」「戦後のオペラ」「バロック・オペラ」などがある。