ARK Hills Music Week 2025 サントリーホール ARKクラシックス ARK オープニング・ナイト

豪華アーティストたちによる室内楽のショーケース

毎秋恒例の音楽祭「サントリーホールARKクラシックス2025」が始まった。10月7日までの5日間に計11回のコンサートが開かれる。初日の「オープニング・ナイト」は、アーティスティック・リーダーを務めるピアノの辻󠄀井伸行とヴァイオリンの三浦文彰を中心に、小ホールでのガラ・コンサートになった。曲目はベートーヴェンからチャイコフスキーまで、室内楽のショーケースのよう。音楽祭のダイジェスト的な役割も果たした。

アーティスティック・リーダーを務めるピアノの辻󠄀井伸行とヴァイオリンの三浦文彰 2025年10月3日サントリーホール ブルーローズ 撮影:堀田力丸
アーティスティック・リーダーを務めるピアノの辻󠄀井伸行とヴァイオリンの三浦文彰 2025年10月3日サントリーホール ブルーローズ 撮影:堀田力丸

まず単独で登場した辻󠄀井は、手慣れたタッチでベートーヴェンのピアノ・ソナタ第14番「月光」を弾き始めた。第3楽章プレスト・アジタートの硬質な疾走感に、辻󠄀井らしさが最もよく表れていた。

辻󠄀井によるベートーヴェンのピアノ・ソナタ第14番「月光」 2025年10月3日サントリーホール ブルーローズ 撮影:堀田力丸
辻󠄀井によるベートーヴェンのピアノ・ソナタ第14番「月光」 2025年10月3日サントリーホール ブルーローズ 撮影:堀田力丸

続いて三浦が加わって、ベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ第5番「春」を披露した。三浦はこのソナタ・チクルス(全曲演奏会)ではベテランの清水和音とコンビを組んだが、今回はふだんから共演を重ねる辻󠄀井が相手。より三浦の個性が明確になった。圧力の強いボウイングでたっぷり歌い、辻󠄀井ともどもエッジの効いたベートーヴェン像を提示した。

ここでさらに鈴木康浩(ヴィオラ)とヨナタン・ローゼマン(チェロ)を迎えた4人編成に広げ、ブラームスのピアノ四重奏曲第1番から第4楽章を演奏した。配布されたプログラムには第1楽章とあり、急な変更に面食らったが、辻󠄀井と三浦のキャラクターには民族色が濃い情熱的なフィナーレの方が合っており、精力的な勢いに圧倒された。室内楽の抑え役に長けた鈴木が急所を締め、アンサンブルを整えた。

後半は一転、高木綾子のフルートと吉野直子のハープで涼やかにスタート。まずサン=サーンス「ロマンス」をエレガントに歌い上げた。そこへ鈴木のヴィオラが入ったトリオ編成に拡大して、バックス「悲歌の三重奏曲」へ進んだ。ケルティックな色合いのある佳品で、ここでも鈴木の手厚く太い、柔軟な粘りある響きが雰囲気を盛り上げた。

高木綾子(フルート)と鈴木康浩(ヴィオラ)、吉野直子(ハープ)、によるバックス「悲歌の三重奏曲」 2025年10月3日サントリーホール ブルーローズ 撮影:堀田力丸
高木綾子(フルート)と鈴木康浩(ヴィオラ)、吉野直子(ハープ)、によるバックス「悲歌の三重奏曲」 2025年10月3日サントリーホール ブルーローズ 撮影:堀田力丸

締めくくりは、チャイコフスキーの弦楽六重奏曲「フィレンツェの思い出」。三浦、直江智沙子(ヴァイオリン) 鈴木、瀧本麻衣子(ヴィオラ) ユンソン、ローゼマン(チェロ)という顔ぶれがそろった。演奏全体の圧が終始、強大で生真面目、洒落(しゃれ)たイタリア情緒も吹き飛ぶ異様な迫力がずっと支配した。もう少し肩の力を抜いて、現地の車窓を愛でるように情景の移ろいへ眼を向け、変化に富んだ旅路も楽しんでみたくなった。

チャイコフスキーの弦楽六重奏曲「フィレンツェの思い出」 2025年10月3日サントリーホール ブルーローズ 撮影:堀田力丸
チャイコフスキーの弦楽六重奏曲「フィレンツェの思い出」 2025年10月3日サントリーホール ブルーローズ 撮影:堀田力丸

大ホールではこの後、レジデント・オーケストラ「ARKフィルハーモニック」のコンサートなどが予定されている。
(深瀬満)

公演データ

ARK Hills Music Week 2025
サントリーホール ARKクラシックス ARK オープニング・ナイト

10月3日(金) 19:00サントリーホール ブルーローズ

ピアノ:辻󠄀井伸行
ヴァイオリン:三浦文彰、直江智沙子
フルート:高木綾子
ハープ:吉野直子
チェロ:ユンソン、ヨナタン・ローゼマン
ヴィオラ:鈴木康浩、瀧本麻衣子

プログラム
ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第14番 嬰ハ短調 Op. 27-2「月光」
ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ第5番 ヘ長調 Op.24「春」
ブラームス:ピアノ四重奏曲第1番 ト短調 Op.25 第4楽章
サン=サーンス:ロマンス
バックス:悲歌の三重奏曲
チャイコフスキー:弦楽六重奏曲 Op.70「フィレンツェの思い出」

※サントリーホール ARKクラシックス他日公演の詳細は、公式サイトをご参照ください。https://avex.jp/classics/arkclassics2025/

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深瀬 満

ふかせ・みちる

音楽ジャーナリスト。早大卒。一般紙の音楽担当記者を経て、広く書き手として活動。音楽界やアーティストの動向を追いかける。専門誌やウェブ・メディア、CDのライナーノート等に寄稿。ディスク評やオーディオ評論も手がける。

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