沖澤のどか指揮 京都市交響楽団 東京公演

大家族の温かさと大胆な切り込みが一体に

2023年4月から京都市交響楽団第14代常任指揮者を務める沖澤のどかが本拠地、京都コンサートホールで9月19&20日に行った第704回定期演奏会と同じ曲目で国内6カ所のツアーに出た。目下絶好調のコンビとされ沖澤の任期は2029年3月まで延長。来年の楽団創立70周年には、プロコフィエフの交響曲全曲シリーズの開催も決まった。

京都市交響楽団第14代常任指揮者、沖澤のどかが指揮台に立った(c)京都市交響楽団
京都市交響楽団第14代常任指揮者、沖澤のどかが指揮台に立った(c)京都市交響楽団

前半は19世紀フランスの女性作曲家、ルイーズ・ファランク(1804―1875)の「交響曲第3番」(1847年)。同じ調性を持つモーツァルトの「交響曲第40番」(1788年)を意識したと思われる作品だが、後年のサン=サーンスへとつながるフランス系交響曲のパイオニア的な要素も多分に感じられる。「珍しい作品を東京以外にも届けたい」と願い、ツアーに組み入れた沖澤は楽曲を隅々まで手中に収め、京響の弦(12型=第1ヴァイオリン12人)の落ち着いた音色美を存分に引き出す。18世紀音楽の「ふとした哀しみ」のポーズがロマン派の時代にかけ、より直截な感情の発露に向かう途上のバランスを適確に再現、必要以上に重たくさせない配慮にも事欠かない。京響には管の首席奏者が後半のみ登板する慣例があるらしく、一部のソロの精彩を欠いたのは残念だった。

後半の「シェエラザード」は弦楽アンサンブル「石田組」の〝組長〟としても人気絶大の京響ソロコンサートマスター、石田泰尚がヴァイオリン独奏パートを担った。京響は今回のツアーに石田の隣でもう1人のソロコンサートマスターの会田莉凡、後ろでコンサートマスターの泉原隆志と実質「トロイカ体制」の強力なリード態勢を敷いている。

リムスキー=コルサコフ:交響組曲「シェエラザード」(c)京都市交響楽団
リムスキー=コルサコフ:交響組曲「シェエラザード」(c)京都市交響楽団

編成は14型に拡大。ふだんヴァイオリン群の脇に位置するハープをチェロ後方のテューバ手前に置き、ヴァイオリン・ソロとの掛け合いを際立たせた。石田のソロはスリムに透き通った美音で妖しい。沖澤は基本ゆっくり目の運びで旋律を大きく歌わせながら、フレージングの歯切れはどこまでも明快。全員一丸の熱演ではあるのだが、大家族を思わせる温かな雰囲気に包まれているので、闘争的とはならない。代わりに弱音までしっかりと芯が通り、強弱の対比もはっきりとつく。第3部では小谷口直子のクラリネット、上野博昭のフルートなど木管ソロの妙技が光った。大詰めの第4部は石田のソロが一段と情熱的になり、沖澤の「たたみかけ」は難破場面のクライマックスを見事に決めた。

ヴァイオリン独奏パートを担った石田泰尚は、スリムに透き通った美音を聴かせた(c)京都市交響楽団
ヴァイオリン独奏パートを担った石田泰尚は、スリムに透き通った美音を聴かせた(c)京都市交響楽団

アンコールはアンドレ・カプレ(1878―1925)が編曲したドビュッシーのピアノ曲集から〝月の光〟。沖澤はロシア音楽のリムスキー=コルサコフよりも濃厚な表情づけで意表をつき、最後の一瞬まで楽しめる演奏会を締めくくった。

(池田卓夫)

公演データ

京都市交響楽団 東京公演

9月23日(火・祝) 18:00サントリーホール 大ホール

指揮:沖澤 のどか(常任指揮者)
管弦楽:京都市交響楽団
コンサートマスター:石田泰尚

プログラム
ルイーズ・ファランク:交響曲第3番ト短調Op.36
リムスキー=コルサコフ:交響組曲「シェエラザード」Op.35

アンコール
ドビュッシー(カプレ編曲):月の光

これからの他日公演
9月24日(水)19:00 ハーモニーホールふくい 大ホール
9月25日(木)18:30 長野市芸術館
9月27日(土)13:30 SG GROUPホールはちのへ(八戸市公会堂)
9月28日(日)13:00 リンクステーションホール青森

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池田 卓夫

いけだ・たくお

2018年10月、37年6カ月の新聞社勤務を終え「いけたく本舗」の登録商標でフリーランスの音楽ジャーナリストに。1986年の「音楽の友」誌を皮切りに寄稿、解説執筆&MCなどを手がけ、近年はプロデュース、コンクール審査も行っている。

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