圧巻の弾き振り! 反田が隅々まで練り上げられたオーケストラと情熱的な演奏を繰り広げる
反田恭平率いるジャパン・ナショナル・オーケストラ(JNO)が9月5日から16日まで計8公演の国内ツアーを行い、その最後の演奏会である東京芸術劇場での特別公演を聴いた。

JNOは、年2回の国内ツアーと海外ツアーを実施し、室内楽シリーズの開催やアウトリーチ活動にも取り組んでいる。メンバーの多くは、国内外のオーケストラの主力奏者やソリストとして活躍。この日は東亮汰がコンサートマスターを務めた。弦楽器の編成は10、8、6、4、4。対向配置。
まずは、プロコフィエフの交響曲第1番「古典」。反田は指揮棒を持たずに指揮。第1楽章冒頭、しっかりと重みのある音で始まる。各パートが十分に音を出し、軽快さはあるが軽すぎることはない。第2楽章はアクセントが面白い。第3楽章では大きなテンポの変化で擬ガボットを表現。モダンなハーモニーが美しい。第4楽章は、オーケストラを信頼した快速テンポ。オーケストラの技術の高さが強調されるところも。全体として、この日演奏されるモーツァルトやベートーヴェンという真の古典と比較して、この作品の古典のパロディーとしての性格が強調されているように思われた。

続いて、反田の弾き振りでモーツァルトのピアノ協奏曲第23番。反田のピアノは、粒立ちが美しく、エレガントで優しい。演奏は力むことなく、自然。各楽器と直接コミュニケートし、気持ちよく木管楽器のソロの伴奏にまわったりもする。静かに沈潜していった第2楽章が印象的。ほぼ続けて快活な第3楽章に入り、コントラストを際立たせる。快速でオーケストラのメンバーたちといたずらっぽく演奏を楽しむところはまさにモーツァルト。今夏、ザルツブルク・モーツァルテウム管弦楽団に再度招かれ、ザルツブルク音楽祭にデビューした反田のモーツァルトが高く評価される理由がわかる。オーケストラも、クラリネットのアレッサンドロ・ベヴェラリら木管陣を中心に非常に美しい演奏。アンコールでは「トルコ行進曲」をチャーミングに弾いた。

演奏会後半は、ベートーヴェンの交響曲第7番。力強い和音で開始。オーケストラが隅々まで練り上げられていて、古典作品としての格調の高さやスケールの大きさが示される。第2ヴァイオリンやヴィオラが強力で音楽が立体的に聴こえるのも良い。4つの楽章はほぼつなげて演奏された。第4楽章は急ぎ過ぎることなく、しっかりとオーケストラが鳴らされ、情熱的に全曲が締め括られた。
(山田治生)
公演データ
反田恭平&ジャパン・ナショナル・オーケストラ コンサートツアー2025
9月16日(火)19:00東京芸術劇場 コンサートホール
指揮・ピアノ:反田恭平
管弦楽:ジャパン・ナショナル・オーケストラ
コンサートマスター:東 亮汰
プログラム
プロコフィエフ:交響曲第1番 二長調「古典」Op.25
モーツァルト:ピアノ協奏曲第23番 イ長調K.488
ベートーヴェン:交響曲第7番 イ長調Op.92
ソリスト・アンコール
モーツァルト:トルコ行進曲

やまだ・はるお
音楽評論家。1964年、京都市生まれ。87年、慶応義塾大学経済学部卒業。90年から音楽に関する執筆を行っている。著書に、小澤征爾の評伝である「音楽の旅人」「トスカニーニ」「いまどきのクラシック音楽の愉しみ方」、編著書に「オペラガイド130選」「戦後のオペラ」「バロック・オペラ」などがある。