セイジ・オザワ松本フェスティバル2025 オーケストラ コンサート Bプログラム─小澤征爾生誕90年を祝う─

小澤征爾生誕90年を記念して演奏されたエッシェンバッハ指揮、サイトウ・キネン・オケによるマーラー2番

今年のセイジ・オザワ松本フェスティバル(OMF)の掉尾を飾るオーケストラコンサート プログラムB初日を聴いた。演目は小澤征爾と親交が深かったクリストフ・エッシェンバッハの指揮でマーラーの交響曲第2番。小澤の生誕90年を記念したプログラムで開演前、ステージの両サイドに在りし日の小澤の映像が投影されていた。

オーケストラコンサートBプログラム。小澤征爾生誕90年記念としてマーラーの交響曲第2番が演奏された ©大窪道治/2025OMF
オーケストラコンサートBプログラム。小澤征爾生誕90年記念としてマーラーの交響曲第2番が演奏された ©大窪道治/2025OMF

結論から言うと国内外の名手がそろうサイトウ・キネン・オーケストラ(SKO)だけに随所で名人芸が披露され聴き応えのある演奏だった一方で、特に前半はいつものSKOのような統一感、ち密さに少し欠けていたように感じた。しかし、声楽が登場する後半からは尻上がりに調子を取り戻し、最後はSKOらしい圧倒的なフィナーレを築いて終演後は万雷の喝采を巻き起こしていた。

国内外の名手がそろうサイトウ・キネン・オーケストラだけに、随所で名人芸が披露された ©山田毅/2025OMF
国内外の名手がそろうサイトウ・キネン・オーケストラだけに、随所で名人芸が披露された ©山田毅/2025OMF

85歳のエッシェンバッハは足腰が弱っているようで、指揮台の昇降のために手すりのついた階段を設置し、いすに座っての指揮。そのいすに腰掛けた刹那(せつな)、間髪入れずに演奏が始まり、オケ・メンバーが集中を十分に高める前に曲が進んでいった印象を受けた。それでもセバスティアン・ジャコー(ベルリン・フィル前首席フルート)、リッカルド・モラレス(フィラデルフィア管首席クラリネット)、ラデク・バボラーク(ベルリン・フィル前首席ホルン)、ガボール・タルケヴィ(ベルリン・フィル前首席トランペット)らSKOではお馴染みの世界的名手たちの妙技はなかなかの聴き応えで、演奏水準は高い。しかしながら、いつものSKOのような驚異的なアンサンブルの均質性が影を潜めていたのも事実で、演奏を始める前にもう少し間を置いてオケ全体の集中を高めていれば、もっと違った印象を与えたのかもしれない。

いすに座って指揮をしたクリストフ・エッシェンバッハ ©山田毅/2025OMF
いすに座って指揮をしたクリストフ・エッシェンバッハ ©山田毅/2025OMF

筆者は2000年1月2日に東京文化会館で行われた小澤指揮SKOによる同曲の演奏を聴いているが、あの時のち密さと壮大なスケール感を兼ね備え、なおかつ小澤ならではのメリハリのきいた名演が今でも脳裏に焼き付いている。どうしてもあの時の名演と比べてしまうこともこうした印象を持ってしまう一因なのかもしれない。
とはいえ、曲が進むにつれてオケの調子は上がっていき、エッシェンバッハの目指すマーラー像が次第に明確になってきた。大編成のオケをたっぷり鳴らして分厚いハーモニーを構築するのではなく、重層的な旋律のひとつひとつを大切にし、各旋律の繋(つな)がりと対位法的な面白さに光を当てる音楽作りというのであろうか。それらを丹念に積み上げていき圧倒的なフィナーレに結び付けたのは見事であった。終演後、オケが退場しても拍手は鳴りやまず、エッシェンバッハはアレクサンドラ・ザモイスカ(ソプラノ)、藤村実穂子(メゾ・ソプラノ)のソリスト2人に支えられてステージに再登場し喝采に応えていた。
(宮嶋 極)

アレクサンドラ・ザモイスカ(右)、藤村実穂子(左)とともに拍手喝采に応えるエッシェンバッハ ©大窪道治/2025OMF
アレクサンドラ・ザモイスカ(右)、藤村実穂子(左)とともに拍手喝采に応えるエッシェンバッハ ©大窪道治/2025OMF

公演データ

セイジ・オザワ松本フェスティバル2025
オーケストラ コンサート Bプログラム─小澤征爾生誕90年を祝う─

8月30日(土)15:00 キッセイ文化ホール(長野県松本文化会館)

指揮:クリストフ・エッシェンバッハ
ソプラノ:アレクサンドラ・ザモイスカ
メゾ・ソプラノ:藤村 実穂子
合唱:OMF合唱団 東京オペラシンガーズ
合唱指揮:西口 彰浩
管弦楽:サイトウ・キネン・オーケストラ
コンサートマスター:豊嶋 泰嗣

プログラム
マーラー:交響曲 第2番 ハ短調「復活」

他日公演
8月31日(日)15:00 キッセイ文化ホール

Picture of 宮嶋 極
宮嶋 極

みやじま・きわみ

放送番組・映像制作会社である毎日映画社に勤務する傍ら音楽ジャーナリストとしても活動。オーケストラ、ドイツ・オペラの分野を重点に取材を展開。中でもワーグナー作品上演の総本山といわれるドイツ・バイロイト音楽祭には2000年代以降、ほぼ毎年訪れるなどして公演のみならずバックステージの情報収集にも力を入れている。

連載記事 

新着記事