周防亮介(ヴァイオリン)&イリヤ・ラシュコフスキー(ピアノ) デュオ・リサイタル

激しい気迫を込めたヴァイオリンに鋭く反応するピアノ――濃密な情熱が渦巻く演奏

若手ヴァイオリニスト屈指の実力・人気を誇る周防亮介は、優れた技巧と高い集中度に磨きを掛け、孤高の地位を確かにしてきた。念願のコンビを組んだピアニスト、イリヤ・ラシュコフスキーとは今年、ベートーヴェンのソナタ「春」「クロイツェル」を核にしたプログラムを聴かせ、今回はドイツ・ロマン派とロシアものに焦点を当てた。ピアノの小品→デュオの小品→メインのソナタという流れで対比し、相関性を計算したのも面白い。

周防亮介がイリヤ・ラシュコフスキーとドイツ・ロマン派&ロシアものに焦点を当てたプログラムを披露した 写真提供:フィリアホール(横浜市青葉区民文化センター)
周防亮介がイリヤ・ラシュコフスキーとドイツ・ロマン派&ロシアものに焦点を当てたプログラムを披露した 写真提供:フィリアホール(横浜市青葉区民文化センター)

ブラームス晩年の「4つの小品」作品119から〝間奏曲〟で始まった前半は、シューマンが構成の柱。ラシュコフスキーは人生の諦観より明快なドラマを志向し、メリハリの利いた歌い口で弾き進めた。

それがシューマンの発案で3人が合作した「F・A・Eソナタ」の、ブラームスによるスケルツォへつながっていく。激しい気迫をこめる周防にピアノが鋭く反応し、いきなり演奏の熱量が上昇。テンションが交差したままソナタに入った。

シューマン最晩年のヴァイオリン・ソナタ第2番ニ短調は、濃密な情熱が渦巻く一筋縄では行かない重要作。腕に覚えのある奏者は挑戦したがるが、表面をなでて終わる例が少なくない。その点、周防は、愛器ニコロ・アマティから中低音のうなる骨太で脂が乗った音色を繰り出し、暗い情念と奔放なロマンティシズムの深掘りに成功。ピアノとの手に汗握る火花が曲想を一層引き立て、この日の白眉となった。
第1楽章では献呈者フェルディナント・ダーフィトを示す「D-A-F-D」音型を意識的に刻み、全体にたたみ込む勢いが強い。コラール「深き淵より」の旋律による変奏曲の第3楽章では、冒頭で主題を奏でる繊細なピッツィカートと柔らかく包み込むピアノのニュアンスに、息をのんだ。フィナーレでは両者一体となったうねりが会場を圧倒した。

シューマンのヴァイオリン・ソナタ第2番で、会場を圧倒する演奏を聴かせた 写真提供:フィリアホール(横浜市青葉区民文化センター)
シューマンのヴァイオリン・ソナタ第2番で、会場を圧倒する演奏を聴かせた 写真提供:フィリアホール(横浜市青葉区民文化センター)

後半はがらりと趣を変え、ロシアものへ。ピアノ独奏によるグリンカ/バラキレフ「ひばり」は、ロシア出身のラシュコフスキーにとってお国もの。チャイコフスキー「懐かしい土地の思い出」ともども、ほのかな郷愁を漂わせつつ進んだ。

ラストはプロコフィエフのヴァイオリン・ソナタ第2番ニ長調。周防の求心的なアプローチは不変で、わき目も振らず曲の核心へ切り込んでいく。その研ぎ澄まされた凄(すご)みは聴き手にも緊張を強いるほどで、原曲はフルート・ソナタだった佳品のリリシズムや諧謔(かいぎゃく)味には、さほど重きをおかない行き方なのだろう。

そんな周防にとって、鋭く応えて共に燃え上がってくれるラシュコフスキーが得がたい共演者であることも、改めて分かった。
(深瀬満)

公演データ

周防亮介(ヴァイオリン)&イリヤ・ラシュコフスキー(ピアノ) デュオ・リサイタル

8月30日(土)14:00横浜市青葉区民文化センター フィリアホール

ヴァイオリン:周防亮介
ピアノ:イリヤ・ラシュコフスキー

プログラム
ブラームス:「4つの小品」Op.119より 第1番 間奏曲
ブラームス:「F.A.E.ソナタ」より 第3楽章スケルツォ ハ短調WoO.2
シューマン:ヴァイオリン・ソナタ 第2番 ニ短調Op.121
グリンカ/バラキレフ:ひばり
チャイコフスキー:懐かしい土地の思い出Op.42
プロコフィエフ:ヴァイオリン・ソナタ 第2番 ニ長調Op.94bis

アンコール
ラフマニノフ(クライスラー編):パガニーニの主題による狂詩曲 第18変奏
ショスタコーヴィチ:映画音楽「馬あぶ」より〝ロマンス〟

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深瀬 満

ふかせ・みちる

音楽ジャーナリスト。早大卒。一般紙の音楽担当記者を経て、広く書き手として活動。音楽界やアーティストの動向を追いかける。専門誌やウェブ・メディア、CDのライナーノート等に寄稿。ディスク評やオーディオ評論も手がける。

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