ヤン・ヴィレム・デ・フリーント指揮 京都市交響楽団 第703回定期演奏会

ヴァイオリン技巧曲と至上の時間芸術〝モツレク〟に魅了された一夜

2011年生まれ。まだ13歳だった今年3月のベルリン・フィル・デビューも記憶に新しいヴァイオリニストHIMARIの人気過熱で1回券が瞬間蒸発、京響の公式サイトに「転売禁止のお願い」まで出た定期演奏会。2曲のヴァイオリン独奏と管弦楽のための作品はソリスト側の希望で、これまた定期には異例の選曲だった。HIMARIは持ち前の美しく透明な音に太さが加わり、ドヴォルザークのノスタルジックな旋律をたっぷりと歌い上げた。美しい音楽をただただ美しいと信じ、ひたむきに弾き進める姿勢がいい。グノーの歌劇に基づくヴィエニャフスキは一段と難易度の高い技巧曲だけに、弓さばきに不足はないとしても、原曲アリアのキャラクターの描き分けや、「ここぞ」の場面で管弦楽の総奏(トゥッティ)と渡り合う音量にはまだ、いく分かの物足りなさを残した。

HIMARIが、ドヴォルザーク「ロマンス」とヴィエニャフスキ「ファウスト幻想曲」でソリストを務めた ©京都市交響楽団
HIMARIが、ドヴォルザーク「ロマンス」とヴィエニャフスキ「ファウスト幻想曲」でソリストを務めた ©京都市交響楽団

2024年4月から京響首席客演指揮者の任にあるオランダの指揮者、デ・フリーントの契約はこのほど、2028年まで2年延長された。ヴァイオリニスト出身で長くコンバッティメント・コンソート・アムステルダムのコンサートマスターを務め、モダン(現代)楽器によるピリオド(作曲当時の)奏法の可能性を究めた後、フル編成のオーケストラの指揮に転じた。京響にとって馴染みの薄いヴァイオリン技巧曲を手堅くまとめ、若いソリストをきめ細かくサポートする上でも、最良の指揮者といえる仕事ぶりだった。

近年のデ・フリーントはオペラ、宗教音楽など声楽作品を積極的に指揮しており、モーツァルトの「レクイエム」も極めて個性的なアプローチで魅了した。オーケストラは第1&第2ヴァイオリンを左右に分ける対向配置、前半は12型(第1ヴァイオリン12人)だったが、モーツァルトでは10型にかり込み、より透明度の高い響きを整えた。4人のソリストは客席から見て舞台下手(左側)際に女声2人、上手側に男声2人が控え、ソロや重唱の時だけ指揮者の近くにくる。受難曲の語り部たちにも似ていて、合唱と管弦楽の一体感が高まる利点があった。

モーツァルトの「レクイエム」は、極めて個性的なアプローチで魅了した ©京都市交響楽団
モーツァルトの「レクイエム」は、極めて個性的なアプローチで魅了した ©京都市交響楽団

デ・フリーントは京響コーラスの「アマチュアの良さ」も徹底的に活(い)かした。アンサンブルを必要以上に引き締めず、死に怖れおののく群衆の叫びが次第に熱い思いを抱き、最後は深い祈りへと深化するプロセスを至上の「時間芸術」として再現する。しかも、アーティキュレーションとフレージングは管弦楽にピタリと一致、全曲40分台前半の快速演奏で迫真の人間ドラマを描き切った。4人のソリストも宗教音楽の様式を適確におさえ、オペラ的な絶叫を慎んで絶えず美しいバランスを保っていた。
(池田卓夫)

公演データ

京都市交響楽団 第703回定期演奏会

8月29日(金)19:00京都コンサートホール 大ホール

指揮:ヤン・ヴィレム・デ・フリーント(首席客演指揮者)
ヴァイオリン:HIMARI
ソプラノ:石橋 栄実
メゾ・ソプラノ:中島 郁子
テノール:山本 康寛
バス・バリトン:平野 和
合唱:京響コーラス(合唱指揮:浅井 隆仁)
管弦楽:京都市交響楽団
コンサートマスター:泉原隆志

プログラム
ドヴォルザーク:ロマンス ヘ短調Op.11
ヴィエニャフスキ:ファウスト幻想曲Op.20
モーツァルト:レクイエム(死者のためのミサ曲)ニ短調K.626

ソリスト・アンコール
イザイ:無伴奏ヴァイオリン・ソナタ「第6番」

他日公演
8月30日(土)14:30京都コンサートホール 大ホール

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池田 卓夫

いけだ・たくお

2018年10月、37年6カ月の新聞社勤務を終え「いけたく本舗」の登録商標でフリーランスの音楽ジャーナリストに。1986年の「音楽の友」誌を皮切りに寄稿、解説執筆&MCなどを手がけ、近年はプロデュース、コンクール審査も行っている。

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