「悲劇的」というより「劇的」! 凄まじいエネルギーが放出されたマーラー「6番」
首席指揮者カーチュン・ウォンの登壇でマーラーの交響曲第6番「悲劇的」。カーチュン・ウォン&日本フィルのコンビは、マーラーの交響曲を継続的に取り上げていて、今回の第6番は、第5番(2021)、第4番(2022)、第3番(2023)、第9番(2024)、第2番(2025)に続く6曲目となる。来年6月の日本フィル創立70周年記念演奏会では、第8番を演奏することが決まっている。

第6番の第1楽章は、低弦楽器の慌てず重みのある歩みで始まった。カーチュン・ウォンは大きな身振り(指揮棒は使わない)で巨大なものを描いていく。オーケストラも力感溢(あふ)れる演奏。「アルマの主題」といわれる第2主題は、歌い込むというよりは、勢いをもって奏でられた。楽章の終わりも勢いのまま進んでいく。
第2楽章はスケルツォ。いきなりのティンパニの激しい強打に驚かされた。カーチュン・ウォンは、マーラーが書いた誇張気味の表現をはっきりと再現していく。

第3楽章はアンダンテ・モデラート。音楽の流れが良い。高揚での情熱的な表現が素晴らしい。ホルン(信末碩才)のソロも見事だった。ただし、もう少しじっくりと翳(かげ)りや深みのある表現をしてほしいところもあった。
第4楽章でもカーチュン・ウォンは、オーケストラを思い切り鳴らし、ドラマティックに長大な絵巻を描いていく。オーケストラから凄(すさ)まじいエネルギーが放出され、最後の一撃も衝撃的だった。金管楽器が好調。オーケストラ全体も、明るめのサウンドで、マーラーにふさわしい充実ぶり。全曲を通して、「悲劇的」というよりも「劇的」という印象を受けた大演奏であった。
(山田治生)

公演データ
日本フィルハーモニー交響楽団 第773回東京定期演奏会
9月12日(金)19:00サントリーホール 大ホール
指揮:カーチュン・ウォン(首席指揮者)
管弦楽:日本フィルハーモニー交響楽団
コンサートマスター:田野倉 雅秋
プログラム
マーラー:交響曲第6番「悲劇的」イ短調
他日公演
9月13日 (土)14:00 サントリーホール 大ホール

やまだ・はるお
音楽評論家。1964年、京都市生まれ。87年、慶応義塾大学経済学部卒業。90年から音楽に関する執筆を行っている。著書に、小澤征爾の評伝である「音楽の旅人」「トスカニーニ」「いまどきのクラシック音楽の愉しみ方」、編著書に「オペラガイド130選」「戦後のオペラ」「バロック・オペラ」などがある。