フェスタ サマーミューザ KAWASAKI 2025 太田弦指揮 九州交響楽団 熱狂のシンフォニックナイト

〝正攻法で生気を生み出す〟太田の持ち味を生かした雄弁な演奏

近年のフェスタサマーミューザKAWASAKIには地方オーケストラが1〜2団体招かれている。今年は九州交響楽団が、2024年4月から首席指揮者を務める太田弦と共に登場。九響は地方楽団の中でも首都圏での公演が少ないので、実演に接する貴重な機会となる。

九州交響楽団の首席指揮者を務める太田弦が登場 ©平舘平/ミューザ川崎シンフォニーホール
九州交響楽団の首席指揮者を務める太田弦が登場 ©平舘平/ミューザ川崎シンフォニーホール

幕開けは小出稚子の「博多ラプソディ」。九響の委嘱作で、20年7月に初演され、24年11月に太田の指揮で再演されたこの曲は、ご当地素材による民俗的作品ではあるのだが、ことのほかモダンで複雑な難曲だ。これを当コンビは立体的かつスリリングに聴かせ、モダンな側面を明示する。

九響の委嘱作、小出稚子の「博多ラプソディ」 ©平舘平/ミューザ川崎シンフォニーホール
九響の委嘱作、小出稚子の「博多ラプソディ」 ©平舘平/ミューザ川崎シンフォニーホール

おつぎはビゼーの歌劇「カルメン」から。第1幕への前奏曲、ハバネラ、セギディーリャ、アルカラの竜騎兵、ジプシーの歌が連なり、歌物にはソプラノの高野百合絵が加わる。ここは高野が力と艶のある歌唱を披露し、〝強いカルメン〟で魅了する。オケは引き締まった響きでリズミカルに対応。歌と合わせて同作の魅力をストレートに伝える。

ビゼーの歌劇「カルメン」より。高野百合絵が力と艶のある歌唱を披露した ©平舘平/ミューザ川崎シンフォニーホール
ビゼーの歌劇「カルメン」より。高野百合絵が力と艶のある歌唱を披露した ©平舘平/ミューザ川崎シンフォニーホール

後半はショスタコーヴィチの交響曲第5番。昨年5月の就任記念定期でも取り上げた太田の勝負曲である。第1楽章はシャープに始まり、抒情的に進んだ後、迫真的な盛り上がりをみせる。第2楽章は生き生きと弾み、第3楽章は静謐な空気の中で自然な起伏が形成される。第4楽章は、堂々と始まり、急加速して大迫力のクライマックスが築かれた後、やや遅めのテンポによる雄大な終結を迎える。最後は大きくリタルダンドする〝決め〟。最近は少ないパターンながら、これが意外なカタルシスをもたらす。

九響は全体に健闘。弦はやや薄めだが、金管の強靭さが光る。太田はオーソドックスな解釈で雄弁な音楽を展開。こうした〝正攻法で生気を生み出す〟のが彼の持ち味だろうし、以前より自信を増した感もある。九響とのコンビネーションの良さも明白な本公演を聴いて、今後の太田及び当コンビの成熟がより楽しみになった。

(柴田克彦)

太田はオーソドックスな解釈で雄弁な音楽を展開。九響とのコンビネーションの良さも感じた ©平舘平/ミューザ川崎シンフォニーホール
太田はオーソドックスな解釈で雄弁な音楽を展開。九響とのコンビネーションの良さも感じた ©平舘平/ミューザ川崎シンフォニーホール

公演データ

フェスタ サマーミューザ KAWASAKI 2025
九州交響楽団 熱狂のシンフォニックナイト

8月7日(木)19:00ミューザ川崎シンフォニーホール 

指揮:太田 弦(九州交響楽団 首席指揮者)
ソプラノ:高野百合絵
管弦楽:九州交響楽団
コンサートマスター:西本幸弘

プログラム
小出稚子:博多ラプソディ
ビゼー:歌劇「カルメン」から〝第1幕への前奏曲 〟〝 ハバネラ – セギディーリャ〟〝 第2幕への間奏曲(アルカラの竜騎兵)〟〝 ジプシーの歌〟
ショスタコーヴィチ:交響曲第5番 ニ短調 Op.47

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柴田克彦

しばた・かつひこ

音楽マネジメント勤務を経て、フリーの音楽ライター、評論家、編集者となる。「ぶらあぼ」「ぴあクラシック」「音楽の友」「モーストリー・クラシック」等の雑誌、「毎日新聞クラシックナビ」等のWeb媒体、公演プログラム、CDブックレットへの寄稿、プログラムや冊子の編集、講演や講座など、クラシック音楽をフィールドに幅広く活動。アーティストへのインタビューも多数行っている。著書に「山本直純と小澤征爾」(朝日新書)。

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