フェスタ サマーミューザKAWASAKI 2025 松本宗利音指揮 NHK交響楽団 今聴きたい! 宗利音&阪田のラプソディー・イン・ブルー

若き指揮者・ピアニストと名門オーケストラによる爽やかな共演

松本宗利音(しゅうりひと)の名は、20世紀の名指揮者カール・シューリヒトにちなんで、シューリヒト夫人によって命名された。両親が新婚旅行でスイスを訪れた際、夫人宅を訪ねたのをきっかけに交流が始まり、誕生の際に名付けをお願いしたという。
前日の〝N響ほっとコンサート〟に続き、今回がフルプログラムによる本格的なN響デビューとなった。平日昼公演だが、完売満席。

指揮台に立ったのは、松本宗利音。当公演が、松本の本格的なN響デビューとなった ©池上直哉/ミューザ川崎シンフォニーホール
指揮台に立ったのは、松本宗利音。当公演が、松本の本格的なN響デビューとなった ©池上直哉/ミューザ川崎シンフォニーホール

N響は近年、世代交代が進み、楽員の平均年齢も若返っている。指揮台に立つ松本に対し、同世代としての親近感と応援したいという空気が、コンサートマスター郷古廉をはじめ楽員に自然と芽生えていたのではないか。そうした気運が音楽にも反映されたのだろう、舞台上には酷暑を吹き飛ばすような清々しいエネルギーが満ちていた。

冒頭のチャイコフスキー「イタリア奇想曲」では、トランペットのファンファーレに続く弦が堂々と歌われ、民謡〝美しい娘さん〟も色彩豊か。第2部分の滑らかな弦の受け渡し、終盤の〝タランテラ〟の切迫感も見事で、盛大なブラヴォーが飛んだ。

舞台上には清々しいエネルギーが満ちていた ©池上直哉/ミューザ川崎シンフォニーホール
舞台上には清々しいエネルギーが満ちていた ©池上直哉/ミューザ川崎シンフォニーホール

続くガーシュウィン「ラプソディー・イン・ブルー」では、藝大同期の阪田知樹との気心知れた共演が印象的だった。速めのテンポにもN響は俊敏に応じ、クラリネットやミュート付き金管にジャズのフィーリングが息づく。阪田は完璧な技巧と、余裕に満ちた滑らかなカデンツァで魅了した。CMでおなじみの中間部では、阪田の丁寧な歌いぶりに対し、松本N響側にももうひと押しの盛り上げがあればなおよかった。終盤はピアノとオーケストラが一体となり、圧倒的な頂点を築いた。
阪田はアンコールの「魅惑のリズム」では、目にも止まらぬ技巧を軽々と決めて喝采を浴びた。

ガーシュウィン「ラプソディー・イン・ブルー」の終盤では、ソリストの阪田知樹とオーケストラが一体となり、圧倒的な頂点を築いた ©池上直哉/ミューザ川崎シンフォニーホール
ガーシュウィン「ラプソディー・イン・ブルー」の終盤では、ソリストの阪田知樹とオーケストラが一体となり、圧倒的な頂点を築いた ©池上直哉/ミューザ川崎シンフォニーホール

メンデルスゾーン交響曲第3番「スコットランド」をきちんと聴かせるのは難しく、旋律をいかに淀みなく、かつ陰影豊かに歌わせるかが重要な鍵となる。松本は、N響の好演にも支えられ、その難しさを見事に乗り越えてみせた。
第1楽章序奏はヴィオラと木管が哀しげに始まり、主部ではヴァイオリンがロマンティックに歌う。クラリネットの第2主題も抒情に満ち、提示部を繰り返して展開部へ。嵐のような場面でもN響の集中力は高く、松本の統率が光った。第2楽章では民謡風の旋律が爽やかに広がり、リズムも軽快。第3楽章アダージョではヴァイオリンが儚くも美しい旋律を紡ぎ、第2主題の厳かさと対照をなす。終楽章は力強いリズムから推進力をもって展開し、終結部では幻想が晴れるように明朗な音楽へと転じた。ここはもう一段の壮大さがあってもと思わせつつ、十分に感動的な締めくくりだった。

アンコールはグリーグ「ペール・ギュント」から〝朝〟。爽やかに始まったこのコンサートを、爽やかに締めくくった。

(長谷川京介)

メンデルスゾーンの「スコットランド」は感動的に、アンコールのグリーグ「ペール・ギュント」は爽やかに締め括られ、会場は万雷の拍手に包まれた ©池上直哉/ミューザ川崎シンフォニーホール
メンデルスゾーンの「スコットランド」は感動的に、アンコールのグリーグ「ペール・ギュント」は爽やかに締め括られ、会場は万雷の拍手に包まれた ©池上直哉/ミューザ川崎シンフォニーホール

公演データ

フェスタ サマーミューザKAWASAKI 2025
NHK交響楽団 今聴きたい! 宗利音&阪田のラプソディー・イン・ブルー

8月4日(月)15:00ミューザ川崎シンフォニーホール

指揮:松本宗利音
ピアノ:阪田知樹
管弦楽:NHK交響楽団
コンサートマスター:郷古 廉

プログラム
チャイコフスキー:イタリア奇想曲 Op.45
ガーシュウィン:ラプソディー・イン・ブルー
メンデルスゾーン:交響曲第3番イ短調 Op.56「スコットランド」

ソリスト・アンコール
ガーシュウィン(E.ワイルド編):「魅惑のリズム」

オーケストラ・アンコール
グリーグ:「ペール・ギュント」から〝朝〟

 

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長谷川京介

はせがわ・きょうすけ

ソニー・ミュージックのプロデューサーとして、クラシックを中心に多ジャンルにわたるCDの企画・編成を担当。退職後は音楽評論家として、雑誌「音楽の友」「ぶらあぼ」などにコンサート評や記事を書くとともに、プログラムやCDの解説を執筆。ブログ「ベイのコンサート日記」でも知られる。

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