国際教育音楽祭パシフィック・ミュージック・フェスティバル札幌2025 PMF GALAコンサート

ヤノフスキが若者のエネルギーを存分に引き出し、質実剛健たる音楽を聴かせる

20世紀後半を代表する指揮者で作曲家としても数多くの名作を残したレナード・バーンスタインの提唱で創設されたパシフィック・ミュージック・フェスティバル(PMF)。35回目となる今年は世界各国からオーディションで選抜された95人のアカデミー生と呼ばれる若手音楽家が世界の第一線で活躍する音楽家たちの指導を受けながら、札幌市を中心に北海道内各地で演奏活動を行い研さんを積んだ。その成果を披露するガラ・コンサートが27 日、札幌コンサートホールKitaraで行われた。

PMFアカデミー生たちの成果を披露するガラ・コンサートが札幌コンサートホールKitaraで行われた©PMF組織委員会
PMFアカデミー生たちの成果を披露するガラ・コンサートが札幌コンサートホールKitaraで行われた©PMF組織委員会

第1部は同ホールの専属オルガニスト、ファニー・クソーによるパイプオルガン演奏とPMF卒業生が結成した木管五重奏団パシフィック・クインテットがバーンスタインの「キャンディード」序曲の木管アレンジ版などを披露した。(曲目の詳細は公演データ参照)

第1部には、PMF卒業生で結成されたパシフィック・クインテットが登場©PMF組織委員会
第1部には、PMF卒業生で結成されたパシフィック・クインテットが登場©PMF組織委員会

第2部は86歳の巨匠、マレク・ヤノフスキの指揮でオール・ドイツ・プロ。ワーグナーの「ローエングリン」第1幕への前奏曲では冒頭の8声部に分かれたヴァイオリンの和音からヤノフスキらしい細部にまで神経が行き届いた美しいハーモニーが紡ぎ出され、聴衆を一気に引き込んでいく。スティーヴン・イッサーリスをソリストに迎えてのシューマンのチェロ協奏曲でもソロとオケの間で細密な対話が繰り広げられた。

スティーヴン・イッサーリスをソリストに迎えたシューマンのチェロ協奏曲©PMF組織委員会
スティーヴン・イッサーリスをソリストに迎えたシューマンのチェロ協奏曲©PMF組織委員会

第2部後半はシューマンの交響曲第3番「ライン」。音楽に対する妥協を許さぬ厳しい姿勢で知られるヤノフスキだけに、若い音楽家で編成されたPMFオケに対しても同じように臨んだことを窺わせる一部の隙も見せない緻密なアンサンブルを構築し、質実剛健たる音楽に仕上げていた。第1楽章、終楽章のコーダでの急加速を伴ったエンディングは若者のエネルギーを存分に引き出す力強さを感じさせるものであった。

ヤノフスキは、若い音楽家で編成されたPMFオケにも妥協を許さぬ姿勢で臨み、緻密なアンサンブルを構築した©PMF組織委員会
ヤノフスキは、若い音楽家で編成されたPMFオケにも妥協を許さぬ姿勢で臨み、緻密なアンサンブルを構築した©PMF組織委員会

圧巻はリヒャルト・シュトラウスの「死と変容」。この曲では会期後半、アカデミー生たちの指導にあたったヌリット・バー・ジョセフ(ワシントン・ナショナル響コンサートマスター)ら米国の名門オケの首席奏者たちが各パートのトップを務めて演奏を行った。ヤノフスキが求める音楽を具現化していく上で、名門オケで活躍する彼らが各パートをけん引する力は絶大で、アンサンブルの質感がランクアップしたかのよう。オケ全体がうねるような濃密な演奏はこの作品に相応しいもので、聴き応え満点であった。圧倒的な出来に終演後、滅多に笑顔を見せないヤノフスキが珍しく微笑んでいたことも印象的だった。

(宮嶋 極)

圧倒的な演奏を聴かせたヤノフスキとオーケストラのメンバーたちに、会場から拍手喝采が送られた©PMF組織委員会
圧倒的な演奏を聴かせたヤノフスキとオーケストラのメンバーたちに、会場から拍手喝采が送られた©PMF組織委員会

公演データ

国際教育音楽祭パシフィック・ミュージック・フェスティバル札幌2025
PMFガラ・コンサート

7月27日(日)15:00札幌コンサートホールKitara 大ホール

【第1部】
オルガン:ファニー・クソー(第25代札幌コンサートホール専属オルガニスト) 
木管五重奏団:パシフィック・クインテット
アリーア・ヴォドヴォゾーヴァ(フルート)
フェルナンド・ホセ・マルティネス・サヴァラ(オーボエ)
リアナ・レスマン(クラリネット)
長谷川花(ファゴット)
ヘリ・ユー(ホルン)

プログラム
◇ファニー・クソー
リヒャルト・シュトラウス(F.クソー編):「ツァラトゥストラはかく語りき」Op.30
ワーグナー(リスト編):歌劇「タンホイザー」から巡礼の合唱
◇パシフィック・クィンテット
バーンスタイン(D.スチュワート編):「キャンディード」序曲
モーツァルト(メイヤー編):アンダンテ ホ長調K.616
サリー・ビーミッシュ:ネーミング・オブ・バード
クルーグハルト:木管五重奏曲Op.79
ラヴェル(M.ジョーンズ編):クープランの墓

【第2部】
指揮:マレク・ヤノフスキ
チェロ:スティーヴン・イッサーリス
管弦楽:PMFアメリカ、PMFオーケストラ
コンサートマスター:
イェラセル・カミット(アカデミー生、ウィーン国立音大)
ヌリット・バー・ジョセフ(ワシントン・ナショナル交響楽団コンサートマスター)※

プログラム
ワーグナー:歌劇「ローエングリン」第1幕への前奏曲
シューマン:チェロ協奏曲イ短調Op.129
シューマン:交響曲第3番変ホ長調Op.97「ライン」
リヒャルト・シュトラウス:交響詩「死と変容」Op.24※

冒頭の追悼演奏
クバイドゥリーナ :フルートのためのソナチネ(フルート:アリーア・ヴォドヴォゾーヴァ)

アンコール
バーンスタイン:「ウエスト・サイド・ストーリー」から〝トゥナイト〟(木管五重奏団:パシフィック・クインテット)

ソリスト・アンコール
ツィンツァゼ:「チョングリ」(チェロ:スティーヴン・イッサーリス)

※他日公演
7月29日(火)19:00 サントリーホール 大ホール
第2部と同一演目

Picture of 宮嶋 極
宮嶋 極

みやじま・きわみ

放送番組・映像制作会社である毎日映画社に勤務する傍ら音楽ジャーナリストとしても活動。オーケストラ、ドイツ・オペラの分野を重点に取材を展開。中でもワーグナー作品上演の総本山といわれるドイツ・バイロイト音楽祭には2000年代以降、ほぼ毎年訪れるなどして公演のみならずバックステージの情報収集にも力を入れている。

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