チョン・ミン指揮 東京フィルハーモニー交響楽団 第1020回サントリー定期シリーズ

悲しみの〝情〟を中心に描いたエモーショナルな「悲愴」

東京フィルハーモニー交響楽団アソシエイト・コンダクターのチョン・ミンが登壇し、チャイコフスキー・プログラムを振った。

東京フィルのアソシエイト・コンダクター、チョン・ミンが指揮台に立った 撮影:上野隆文/提供=東京フィルハーモニー交響楽団
東京フィルのアソシエイト・コンダクター、チョン・ミンが指揮台に立った 撮影:上野隆文/提供=東京フィルハーモニー交響楽団

前半は、ヴァイオリン協奏曲。独奏は、2007年のチャイコフスキー国際コンクール優勝者である神尾真由子が務めた。第1楽章を神尾は艶のある音で始めた。彼女は、弓の圧力をかけて、濃厚に歌う。音の移動にはポルタメントを交えたりもする。第2楽章は幅の大きなヴィブラートでのたっぷりとしたカンタービレ。第3楽章も力演。全体的には、多少の力みも感じたが、楽器をたっぷりと鳴らして、ロマンティックに歌い込むような演奏が楽しめた。ソロ・アンコールでは、パガニーニの「24のカプリース」から第5番を鮮やかに弾き切った。チョン・ミンは伴奏に徹しているような指揮。もう少しソリストとコミュニケーションを取り、オーケストラを積極的に演奏させてもよかったと思う。

ソリストを務めた神尾真由子は、楽器をたっぷりと鳴らして、ロマンティックに歌い込むように演奏した 撮影:上野隆文/提供=東京フィルハーモニー交響楽団
ソリストを務めた神尾真由子は、楽器をたっぷりと鳴らして、ロマンティックに歌い込むように演奏した 撮影:上野隆文/提供=東京フィルハーモニー交響楽団

後半は、交響曲第6番「悲愴」。チョン・ミンの指揮がそれほど明晰とはいえず、それゆえにオーケストラが緻密さを欠くところもあったが、全体としては、悲しみの〝情〟を中心に描かれた、エモーショナルな演奏となった。第1楽章からテンポを伸縮させ(溜めを作ったり)、第2楽章もじっくりと描く。第3楽章は快速テンポとなったが、悲しみのベールにおおわれ、晴れがましく響くことはない。そして終楽章では中間部の哀切な表現やコーダでの弦楽器の悲哀を帯びた音色に心打たれた。チョン・ミンは、単に合わせることよりも情感の表出を主眼とし、東京フィルがその意図によく応えていた。

(山田治生)

東京フィルはミンの意図に応え、情感の表出を主眼とした演奏を披露した 撮影:上野隆文/提供=東京フィルハーモニー交響楽団
東京フィルはミンの意図に応え、情感の表出を主眼とした演奏を披露した 撮影:上野隆文/提供=東京フィルハーモニー交響楽団

公演データ

東京フィルハーモニー交響楽団 第1020回サントリー定期シリーズ 

7月17日(木)19:00サントリーホール 大ホール

指揮:チョン・ミン
ヴァイオリン:神尾真由子
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団
コンサートマスター:三浦章宏

プログラム
チャイコフスキー:ヴァイオリン協奏曲ニ長調Op.35
チャイコフスキー:交響曲第6番ロ短調Op.74「悲愴」

ソリスト・アンコール
パガニーニ:24のカプリースより第5番イ短調

※他日公演
7月18日(金)19:00東京オペラシティ コンサートホール
7月20日(日)15:00 Bunkamura オーチャードホール

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山田 治生

やまだ・はるお

音楽評論家。1964年、京都市生まれ。87年、慶応義塾大学経済学部卒業。90年から音楽に関する執筆を行っている。著書に、小澤征爾の評伝である「音楽の旅人」「トスカニーニ」「いまどきのクラシック音楽の愉しみ方」、編著書に「オペラガイド130選」「戦後のオペラ」「バロック・オペラ」などがある。

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