セバスティアン・ヴァイグレ指揮 読売日本交響楽団 第683回名曲シリーズ

世界最高峰のヴァイオリニスト、アウグスティン・ハーデリヒが読響に初登場!ヴァイグレと息のあった圧巻の演奏を聴かせる

ヴァイオリニストのハーデリヒは、昨年2月のN響定期でプロコフィエフのヴァイオリン協奏曲を聴き、その才能に驚愕しただけに、今回の読響との初共演には注目していた。

84年、ドイツ人両親のもとイタリアで生まれ、現在超一流の指揮者や楽団との共演を重ねるヴィルトォーゾが演奏したのはチャイコフスキーの協奏曲だ。
ハーデリヒの演奏はとにかく自然体で重力のまま弓を弦に置くだけで音が出ているのではと思うほど、力みや派手なアクションとは無縁だ。感情に流されることはなく、抑揚の付け方にも緻密な変化が感じられる。それが音楽の流れに沿って実に自然、そして美しい。

アウグスティン・ハーデリヒが読響に初登場。チャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲で美音を聴かせた©読売日本交響楽団 撮影=藤本崇
アウグスティン・ハーデリヒが読響に初登場。チャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲で美音を聴かせた©読売日本交響楽団 撮影=藤本崇

第1楽章の第2主題のように少し憂いを帯びた旋律の歌い方だけとっても、深く感情を揺さぶられる。それでいて楽章終わりのピウ・モッソではとてつもない速弾きを楽々と決める。この日はソリストのみならずオーケストラも情感たっぷりに歌い、2楽章冒頭の木管のアンサンブルの美しいこと。このカンツォネッタでは遠く過ぎ去った日々を思い返すような物憂げな気分をソリストとオーケストラが一体となって醸し出していた。
アタッカで入る3楽章直前の木管、ホルン、チェロ、コントラバスも秀逸でフィナーレの躍動感との対比が光る。ハーデリヒは緩急交えた舞曲を活き活きと表現し、ヴァイグレとも息のあった音楽で圧巻の演奏だった。

ハーデリヒはヴァイグレと息のあった音楽で圧巻の演奏を披露した©読売日本交響楽団 撮影=藤本崇
ハーデリヒはヴァイグレと息のあった音楽で圧巻の演奏を披露した©読売日本交響楽団 撮影=藤本崇

アンコールは自身の編曲によるフォレスター作曲「ワイルド・フィドラーズ・ラグ」、幅広いレパートリーを持つハーデリヒらしく楽しい食後酒のよう。彼のHPで楽譜も公開している。

オーケストラはコンチェルトの前にスメタナの「売られた花嫁」序曲、後半がドヴォルザークの交響曲第7番でいずれも民族色あふれるプログラム。スメタナでは疾走感あふれる細かい弦楽器の動きが気持ちよく、ドヴォルザークでは読響らしいパワー全開の演奏。第2楽章のホルンから木管群、弦に繋がる情感豊かなアダージョに巧さを見た。

ドヴォルザークは読響らしいパワー全開の演奏だった©読売日本交響楽団 撮影=藤本崇
ドヴォルザークは読響らしいパワー全開の演奏だった©読売日本交響楽団 撮影=藤本崇

完売となった客席では拍手が続き、楽団が去った後、ヴァイグレが1人でカーテンコールに応えていた。

(毬沙琳)

公演データ

読売日本交響楽団 第683回名曲シリーズ

6月24日(火)19:00サントリーホール 大ホール

指揮:セバスティアン・ヴァイグレ
ヴァイオリン:アウグスティン・ハーデリヒ
管弦楽:読売日本交響楽団
コンサートマスター:林 悠介

プログラム
スメタナ:歌劇「売られた花嫁」序曲
チャイコフスキー:ヴァイオリン協奏曲 二長調Op.35
ドヴォルザーク:交響曲第7番 ニ短調Op.70

ソリスト・アンコール
フォレスター(ハーデリヒ編):ワイルド・フィドラーズ・ラグ

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毬沙 琳

まるしゃ・りん

大手メディア企業勤務の傍ら、音楽ジャーナリストとしてクラシック音楽やオペラ公演などの取材活動を行う。近年はドイツ・バイロイト音楽祭を頻繁に訪れるなどし、ワーグナーを中心とした海外オペラ上演の最先端を取材。在京のオーケストラ事情にも精通している。

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