驚くほどの弱音を駆使したこだわりの音楽作りで聴衆を惹(ひ)きつけた25歳の俊英タルモ・ペルトコスキのN響との初共演
NHK交響楽団6月定期Cプロはフィンランド出身で、25歳の俊英タルモ・ペルトコスキが指揮台に立ち、こだわり満載の個性的な演奏が繰り広げられた。取材したのは21日、2日目の公演。

ペルトコスキはドイツ・カンマ―フィル、ロッテルダム・フィルの首席客演指揮者、トゥールーズ・キャピトル管の音楽監督を務めるなど、破竹の勢いをみせる俊英で、N響とは今回が初共演。1曲目、コルンゴルトのヴァイオリン協奏曲から彼のこだわりが前面に打ち出された。そのこだわりとは超弱音を駆使して独特のサウンドを醸成、弦楽器に埋もれがちな木管楽器などの内声部を浮き上がらせるなどして、アンサンブルの妙味に光を当てるというもの。第1楽章は24歳のソリスト、ダニエル・ロザコヴィッチの流麗なヴァイオリンに寄り添うようにバランスの取れた音作りであったが、第2楽章からオケに極限を超える弱音を要求。ロザコヴィッチも超弱音で応じて、しなやかなボウイングから紡ぎ出される美音、とりわけ高音域の音色は特筆すべきもので、オケの繊細な支えが、それを一層際立たせる効果をもたらしていた。

メインのマーラー1番では冒頭、ヴァイオリンのフラジオ(倍音を出す)奏法によるA(ラ)の長音から、聴こえる限界ギリギリの超々弱音に驚かされる。こうした超弱音は全曲にわたって現れ、その結果、最強音とのコントラストが鮮烈なものとなり、強弱緩急の峻烈(しゅんれつ)な変化が強く印象に残った。第3楽章、ティンパニのD(レ)A(ラ)の連奏に導かれて弾かれるコントラバスのソロも過去に例がないほどの弱音。この日の首席はゲストの幣隆太朗(SWRシュトゥットガルト放送響)で、表情豊かなソロを聴かせた。

第4楽章では叩き付けるような強烈なアクセントを利かせたフォルティシモも多用。コーダで7人のホルンが立って演奏する箇所ではホルン1、トランペット1、トロンボーン1を増強した上に譜面にないティンパニの音も加えて華々しいフィナーレを築いた。このように譜面を超越したケースがいくつかあり、現代では珍しいスタイルといえよう。指揮者の難しい要求に応えた今のN響の技術力も目を見張るものがあった。
(宮嶋 極)

公演データ
NHK交響楽団 第2041回定期公演Cプログラム(2日目)
6月21日(土)14:00 NHKホール
指揮:タルモ・ペルトコスキ
ヴァイオリン:ダニエル・ロザコヴィッチ
管弦楽:NHK交響楽団
コンサートマスター:郷古 廉
プログラム
コルンゴルト:ヴァイオリン協奏曲ニ長調Op.35
マーラー:交響曲第1番ニ長調「巨人」
ソリスト・アンコール
イザイ:無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第2番イ短調Op.27から第4楽章


みやじま・きわみ
放送番組・映像制作会社である毎日映画社に勤務する傍ら音楽ジャーナリストとしても活動。オーケストラ、ドイツ・オペラの分野を重点に取材を展開。中でもワーグナー作品上演の総本山といわれるドイツ・バイロイト音楽祭には2000年代以降、ほぼ毎年訪れるなどして公演のみならずバックステージの情報収集にも力を入れている。