ヨーロッパ公演の演奏曲を披露!繊細で美しい音楽で聴衆を魅了する
ファビオ・ルイージ&NHK交響楽団が5月のヨーロッパ公演に持っていく2曲を定期演奏会で披露した。

まずは、ベルクのヴァイオリン協奏曲。独奏は、ヨーロッパ公演にも参加する諏訪内晶子。彼女は、艶のあるしなやかな美音でよく歌う。ルイージもオーケストラをロマンティックに鳴らす。また、諏訪内とN響の弦楽器のソロ陣との絡みが濃密。第2楽章冒頭、諏訪内は激しく重音を鳴らすが、決して粗野にはならない。バッハのコラールの旋律ではヴィブラートを多めにかけ、たっぷりと歌い込む。再現された民謡の旋律も表情豊か。そして、ヴァイオリン群とのユニゾンの箇所では、諏訪内がヴァイオリン群の方を向き、まさに一体となる。そして、最後、独奏ヴァイオリンはオーケストラに美しく溶けていく。オーケストラとコミュニケートを取りながら独奏ヴァイオリンが次第にオーケストラに融合していく様は経験豊かな諏訪内ならではと思われた。

後半は、アムステルダム・コンセルトヘボウでのマーラー・フェスティバル(ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団のほか、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団やシカゴ交響楽団なども参加)でも演奏するマーラーの交響曲第4番。第1楽章から停滞しない快適なテンポ。冒頭、現実(=鈴の音)と夢の世界(=ヴァイオリンの旋律)を描き分ける。ルイージの指揮は、ときに烈(はげ)しく、ときに熱っぽくなる。第2楽章ではコンサートマスター郷古廉が秀逸なソロを披露。第3楽章も、音楽の流れは良いが、ときにテンポの伸縮もある。オーボエの音色が印象的。楽章後半でのチェロの旋律など、弱音表現が素晴らしく、終盤が極めて美しかった。第4楽章も弱音を基本として、オーケストラが十分にコントロールされ、独唱の森麻季が無理することなく澄んだ美声でじっくりと歌いあげた。(なお、ヨーロッパ公演ではイン・ファンが独唱を務める)。

ヨーロッパ公演では、この日のマーラーの交響曲第4番の後半で聴かせてくれたような繊細な美しさで欧州の聴衆を魅了してほしいと思う。
(山田治生)
公演データ
NHK交響楽団 第2037回 定期公演 Bプログラム
5月1日(木)19:00サントリーホール 大ホール
指揮:ファビオ・ルイージ
ヴァイオリン:諏訪内晶子
ソプラノ:森麻季
管弦楽:NHK交響楽団
コンサートマスター:郷古廉
プログラム
ベルク:ヴァイオリン協奏曲
マーラー:交響曲 第4番ト長調
他日公演
5月2日(金)19:00サントリーホール 大ホール

やまだ・はるお
音楽評論家。1964年、京都市生まれ。87年、慶応義塾大学経済学部卒業。90年から音楽に関する執筆を行っている。著書に、小澤征爾の評伝である「音楽の旅人」「トスカニーニ」「いまどきのクラシック音楽の愉しみ方」、編著書に「オペラガイド130選」「戦後のオペラ」「バロック・オペラ」などがある。