音色の変化で時空の対比を巧みに描き出す
オーケストラ・ビルダーという言葉はいま、高関健にこそふさわしい。東京シティ・フィル、群響、仙台フィル、そして静響でポストを持つ高関は、学究肌の緻密な解釈でオーケストラの可能性を引き出す術に長けている。その高関がシティ・フィルとのスメタナ「我が祖国」に続き、今度は仙台フィルの5年ぶりの全曲演奏に取り組んだ。

プログラムでは、チェコの伝説や風土など文字通りスメタナの〝我が祖国〟を謳(うた)ったこの作品を、前半は「ヴィシェフラド」から「シャールカ」まで、休憩後は以降終曲の「ブラニーク」へ至る各3曲で構成。時に柔らかさを前面に出しつつ、強音でも曇りのある前半の音色に対し、後半は1曲目のボヘミアの森の描写から音の輪郭がくっきりと明確になり、より現実味を帯びた響きへと変化がもたらされた。
この対比は讃美歌のリズム変奏やコラールを用いた「ターボル」、そのモティーフから有機的に導かれた「ブラニーク」など、後半の楽想がより明確な旋律運びへ変化するためだろうか。加えて、遠い伝説に重きを置いた前半に対し、19世紀の民族運動に繋(つな)がるフス教徒の旋律と、現在も佇(たたず)むブラニーク山にチェコの今を見ていたならば、その時空の対比が前後半の音色の変化と重ねられ、なんとも巧みだ。

対抗配置も今回は音色への大きな影響をもたらした。ヴルタヴァ川の流れやボヘミアの森における弦楽器の掛け合いでは、サラウンドな音響が描写に奥行きと広がりをもたらした。一方で惜しむらくは、濃密で細かい動きを伴うトゥッティになると、第1&2ヴァイオリンによるユニゾンが溶け合う前に中央の管楽器の響きに押され、他の内声部が際立ってしまう場面も。もっとも、これはこのステージ固有の響きにより起きた不運とも言えそうだが――。

ケルン・ギュルツェニヒ管やバイロイトでの経験もある山岸博(ホルン客演首席)の気品ある音色、若手で瑞々しいキレを持つ紺野駿人(トロンボーン首席)ら個々の妙技を経て、豪壮な響きで猛然と突き進んだコーダは間違いなく聴衆の心を掴(つか)んだようだ。飛び交うブラボーと度々ステージへと呼び戻す熱い拍手に、高関は最後「時間が……」といういつもの仕草で応え、ステージを後にした。
(正木裕美)
公演データ
仙台フィルハーモニー管弦楽団 第379回 定期演奏会
2月22日(土)15:00日立システムズホール仙台 コンサートホール
指揮:高関 健
管弦楽:仙台フィルハーモニー管弦楽団
プログラム
スメタナ:連作交響詩「我が祖国」
第1曲 ヴィシェフラド(高い城)
第2曲 ヴルタヴァ(モルダウ)
第3曲 シャールカ
第4曲 ボヘミアの森と草原から
第5曲 ターボル
第6曲 ブラニーク
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まさき・ひろみ
正木裕美(まさき・ひろみ) クラシック音楽の総合情報誌「音楽の友」編集部勤務を経て、現在、毎日クラシックナビ編集/音楽ジャーナリスト。日本演奏連盟「演奏年鑑」東北の音楽概況執筆担当。仙台市青年文化センター事業評価ほか、音楽助成や事業の評価に携わる。