ブリリアントな響きを持つ陽性のショスタコーヴィチでモダンなオーケストラ芸術を創出
12月の都響定期Bシリーズは、指揮者が大野和士からメキシコ系アメリカ人のロバート・トレヴィーノに変更され、演目=ハイドンのチェロ協奏曲第1番(独奏は首席奏者の伊東裕)とショスタコーヴィチの交響曲第8番はそのまま変わらずに行われた。
ハイドンは、伊東裕が典雅にして端正な安定感抜群のソロを聴かせた。彼の演奏は、葵トリオ等で接した際にいつも感心していたのだが、今回も極めて正確で抜群に音程(チェロの場合特に大事だ)がいい。豪放なタイプではないのでハイドンの選曲も適切だし、流麗で潤いのあるバックも強力援護。伊東にはソロ演奏をもっと望みたいと思う。
後半のショスタコーヴィチは、都響の機能性が存分に発揮された快演。トレヴィーノは、暗く重いイメージのある8番を、ブリリアントな響きを持つ陽性の音楽として聴かせた。第1楽章の高揚部分は十分に壮麗・壮大ながらも重過ぎず、第2、3楽章はサウンド的な魅力が全開、第4、5楽章も引き締まった色彩感を感じさせた。おどろおどろしさはまるでなく、「楽譜をそのまま音にすれば、深刻さやシリアスさや迫力は自ずと浮き彫りにされる」といった方向性。いわば〝モダンなオーケストラ芸術〟であり、これが一種の説得力と新鮮な感触をもたらした。それにしても都響の技量は素晴らしい。全パートが芳醇かつ雄弁で、弦の豊潤さや重層感は日本随一とさえ思えるし、各パートのソロも実に巧みだ。何より今回は、4番を頂点とするインバル時代のショスタコ・サウンドが蘇った感。マーラーの演奏伝統で知られる都響だが、ショスタコーヴィチの響きや語法もDNAの一部になっていることを実感させられた。
トレヴィーノは、オーケストラを存分に鳴らしながら、バランスよくまとめて、音の動きや綾を明確に伝える。この特徴は、先月の読響との「ローマ三部作」でも感じたが、ここでより一層明らかになったと言えるだろう。
(柴田克彦)
公演データ
東京都交響楽団第1012回定期演奏会Bシリーズ
12月4日(水)19:00サントリーホール
指揮:ロバート・トレヴィーノ
チェロ:伊東 裕(都響首席奏者)
管弦楽:東京都交響楽団
プログラム
ハイドン:チェロ協奏曲第1番ハ長調Hob.VIIb:1
ショスタコーヴィチ:交響曲第8番ハ短調Op.65
ソリスト・アンコール
(伊東 裕&都響チェロセクション)
パブロ・カザルス:鳥の歌
しばた・かつひこ
音楽マネジメント勤務を経て、フリーの音楽ライター、評論家、編集者となる。「ぶらあぼ」「ぴあクラシック」「音楽の友」「モーストリー・クラシック」等の雑誌、「毎日新聞クラシックナビ」等のWeb媒体、公演プログラム、CDブックレットへの寄稿、プログラムや冊子の編集、講演や講座など、クラシック音楽をフィールドに幅広く活動。アーティストへのインタビューも多数行っている。著書に「山本直純と小澤征爾」(朝日新書)。