鈴木雅明の尽きない情熱——メンデルスゾーン「賛歌」で聴かせた至福の響き
宗教改革記念日の10月31日、鈴木雅明&バッハ・コレギウム・ジャパンがメンデルスゾーンの交響曲第2番「賛歌」(主催者の表記では、賛歌「聖書の言葉に基づく交響曲カンタータ」)を取り上げた。プログラムの前半には、J.S.バッハが宗教改革記念日のために書いたカンタータ第80番「我らが神こそ、堅き砦」が並べられた。この組み合わせは、1844年の宗教改革記念日にライプツィヒのゲヴァントハウスで演奏されたプログラムと同じであるという。
J.S.バッハのカンタータ第80番は、彼の息子ヴィルヘルム・フリーデマン・バッハが書き加えたトランペット3本とティンパニのパートのほか、鈴木自身による付加も交えての上演。独唱は、ジョネ・マルティネス(ソプラノ)、青木洋也(アルト)、ベンヤミン・ブルンス(テノール)、小池優介(バス)。鈴木が指揮する合唱(独唱者も加わって17名程)の確信に満ちた表現に説得力があった。独唱者では小池の活躍が印象に残る。オーケストラも小振りな編成(第1ヴァイオリン4名)ながら充実。トランペット3本が加わり、祝祭感を増すとともに、終曲は壮麗かつ重量感のある音で締め括る。
メンデルスゾーンの「賛歌」では、合唱は26名程に、オーケストラも第1ヴァイオリン6名の編成に増員。鈴木は、全曲を推進力のある、快適なテンポですすめていく。第1曲シンフォニアのアダージョでは語りかけるような心のこもった歌が聴けた。オーケストラは、ピリオド楽器らしい、各楽器の個性が交ざり合った、素材感のある響き。とりわけ、トロンボーン、ホルンなど管楽器が見事であった。鈴木優人の奏でるオルガンも効果的。独唱では、マルティネスが清らかで澄んだ歌声を披露。ブルンスが世界最高水準の歌唱を聴かせてくれた。第2ソプラノの澤江衣里も美しい声。合唱は、バッハのときと比べて、力強さが際立つ。第8曲のアカペラの響きも素晴らしかった。そして、鈴木雅明の最後まで尽きない情熱に感銘を受けた。
(山田治生)
公演データ
バッハ・コレギウム・ジャパン
B→B バッハからメンデルスゾーン=バルトルディへ
10月31日(木)19:00東京オペラシティ コンサートホール
指揮:鈴木雅明
ソプラノ:ジョネ・マルティネス、澤江衣里
アルト:青木洋也
テノール:ベンヤミン・ブルンス
バス:小池優介
合唱・管弦楽:バッハ・コレギウム・ジャパン
プログラム
J.S.バッハ:カンタータ第80番「我らが神こそ、堅き砦」BWV80(W.F.バッハ版)
F.メンデルスゾーン=バルトルディ:交響曲第2番 変ロ長調「賛歌」Op.52
やまだ・はるお
音楽評論家。1964年、京都市生まれ。87年、慶応義塾大学経済学部卒業。90年から音楽に関する執筆を行っている。著書に、小澤征爾の評伝である「音楽の旅人」「トスカニーニ」「いまどきのクラシック音楽の愉しみ方」、編著書に「オペラガイド130選」「戦後のオペラ」「バロック・オペラ」などがある。