NHK音楽祭2024 シャルル・デュトワ指揮 NHK交響楽団演奏会

音の魔術師 シャルル・デュトワが7年ぶりにN響の指揮台に立ち、色彩豊かなデュトワ・サウンドを披露

N響名誉音楽監督のシャルル・デュトワが久しぶりに同オケを指揮し、音の魔術師の面目躍如たる色彩豊かなサウンドで、アンサンブルをち密に構築して終演後には万雷の喝采を巻き起こした。デュトワのN響への登場は2017年12月の定期とこれに続く12月17日の福島県いわきアリアスでの契約公演以来、7年ぶり。

シャルル・デュトワが7年ぶりにN響の指揮台に立った©NHK音楽祭
シャルル・デュトワが7年ぶりにN響の指揮台に立った©NHK音楽祭

この日はNHK音楽祭の公演として開催されたもので、1曲目はデュトワ得意のフランスものからラヴェルの「マ・メール・ロワ」。冒頭の〝眠れる森の美女のパヴァーヌ〟からデリケートで幽玄なハーモニーが響く。弦楽器は12型の小編成だが、各パートの音量バランスと音程の調整が徹底されているため、人数に比べて全体はよく鳴っている印象を受けた。これこそデュトワ・マジックである。

2曲目はニコライ・ルガンスキーをソリストにラフマニノフのピアノ協奏曲第2番。ルガンスキーは旋律をタップリと歌い込み、テンポを大きく揺らしながら情感あふれるソロを披露。変化に富んだピアノをデュトワは柔軟に支え、N響から濃密なサウンドを引き出しながら、要所で大きな高揚を作った。

ラフマニノフのピアノ協奏曲第2番でソリストを務めたニコライ・ルガンスキー©NHK音楽祭
ラフマニノフのピアノ協奏曲第2番でソリストを務めたニコライ・ルガンスキー©NHK音楽祭

メインの「春の祭典」はデュトワの十八番ともいえる作品のひとつで、N響との初共演となった1987年9月定期でも取り上げ、大評判を呼んだ。この時の成功が長く不在となっていたN響の常任指揮者(96~98)、音楽監督(98~03)に迎えられる大きな要因となった。
それだけにこの日のデュトワは並々ならぬ気迫で、時折、独特の唸り声をあげながら、すっかり若返ったN響メンバーを俊敏なタクトでコントロール。プリミティブな拍動の中にもカラフルな音色が立体的にきらめく、彼ならではのスタイリッシュな「春祭」を聴かせた。

並々ならぬ気迫のデュトワは、N響メンバーを俊敏なタクトでコントロールした©NHK音楽祭
並々ならぬ気迫のデュトワは、N響メンバーを俊敏なタクトでコントロールした©NHK音楽祭

この日のコンマスは郷古廉。サイドに座った川崎洋介とともに髪振り乱す熱演を繰り広げ、オケ全体を熱くリードし、デュトワのタクトに応えようとする姿に、N響の一時代を築いたマエストロと、新時代をけん引していく若きメンバーたちとの〝幸せな出会い〟を感じた。デュトワは現在、88歳だが音楽面はもちろん、外見も背筋がピンと伸び、キレのある棒さばきで、老いをまったく感じさせなかった。来年11月定期への来演も決まっており、N響との新たな関係の始まりへの期待が一層膨らむ、演奏会となった。(宮嶋 極)

花が飾られ、普段よりも華やかな雰囲気のロビー
マエストロの装いで音楽祭を盛り上げたどーもくん

公演データ

NHK音楽祭2024 シャルル・デュトワ指揮 NHK交響楽団演奏会

10月30日(水)19:00 NHKホール

指揮:シャルル・デュトワ
ピアノ:ニコライ・ルガンスキー
管弦楽:NHK交響楽団
コンサートマスター:郷古 廉

プログラム
ラヴェル:組曲「マ・メール・ロワ」
ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第2番ハ短調Op.18
ストラヴィンスキー:バレエ音楽「春の祭典」
ソリスト・アンコール
ラフマニノフ:「リラの花」Op.21-5

Picture of 宮嶋 極
宮嶋 極

みやじま・きわみ

放送番組・映像制作会社である毎日映画社に勤務する傍ら音楽ジャーナリストとしても活動。オーケストラ、ドイツ・オペラの分野を重点に取材を展開。中でもワーグナー作品上演の総本山といわれるドイツ・バイロイト音楽祭には2000年代以降、ほぼ毎年訪れるなどして公演のみならずバックステージの情報収集にも力を入れている。

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