出口大地指揮 東京フィルハーモニー交響楽団 第1006回サントリー定期シリーズ

迫真的な服部のソロが白眉の「ハーレムの千一夜」、出口の堅牢かつ生気に満ちた音楽づくりで聴かせた魅惑の民族音楽集

東京フィルの10月定期は、出口大地の指揮で、ハチャトゥリアンの「ヴァレンシアの寡婦」組曲から3曲、ファジル・サイのヴァイオリン協奏曲「ハーレムの千一夜」(独奏:服部百音)、コダーイの「ガランタ舞曲」と「ハンガリー民謡〝孔雀は飛んだ〟による変奏曲」が披露された。これすなわちアルメニア(+スペイン)、トルコ、ハンガリーの民族的な音楽集。東欧&西アジアに焦点を当てた創意にまずは拍手を送りたい。

東欧と西アジアに焦点を当てた独創的なプログラムを披露した指揮者の出口大地 撮影=平舘平/提供=東京フィルハーモニー交響楽団
東欧と西アジアに焦点を当てた独創的なプログラムを披露した指揮者の出口大地 撮影=平舘平/提供=東京フィルハーモニー交響楽団

ハチャトゥリアン国際コンクールで優勝し、2022年7月に東京フィル定期の同作曲家プロで日本デビューを飾った出口は、経歴ゆえの〝爆裂型〟にあらず。その後国内の相当数の楽団に招かれて、多様なレパートリーと堅牢かつ生気に満ちた音楽を聴かせている実力者だ。
従って、冒頭の「ヴァレンシアの寡婦」もダイナミズムとしなやかな歌とのバランスが良く、勢い任せに陥らない。

ファジル・サイ「ヴァイオリン協奏曲〝ハーレムの千一夜〟」では、指揮者の右横に民族打楽器が配置された 撮影=平舘平/提供=東京フィルハーモニー交響楽団
ファジル・サイ「ヴァイオリン協奏曲〝ハーレムの千一夜〟」では、指揮者の右横に民族打楽器が配置された 撮影=平舘平/提供=東京フィルハーモニー交響楽団

サイの協奏曲は、掌中の曲に気持ちを込めた服部百音のソロが出色。また、クラシックではレアな3種の民族打楽器を指揮者の右横に配置することによって、トルコの色彩と、ヴァイオリンとのコラボによる音色の妙が浮き彫りにされる。そして、暗譜で奏する服部の妖しくも迫真的なソロが終始耳を奪い、楽曲の〝ハーレム感〟(?)が強靭かつエキゾティックに表出された。これは本日の白眉。

服部百音のソロが白眉だった 撮影=平舘平/提供=東京フィルハーモニー交響楽団
服部百音のソロが白眉だった 撮影=平舘平/提供=東京フィルハーモニー交響楽団

後半のコダーイ2曲は、出口が「どちらも戦争に絡んだ作品」と述べているように、くすんで沈んだ音調が支配し、時には洗練味さえ漂う。「両曲は単なるショウピースではない」との思いは伝わる反面、迫力や精彩、フレーズの綾といった管弦楽曲としての面白さを捉え辛いこの演奏は、両曲─特に演奏時間が長い「孔雀~」─の弱点を表面化させた感もある。何れにせよ、こうした楽曲の本質を考えさせられたのは確か。なお、クラリネットをはじめとする各ソロには大いに魅せられた。

(柴田克彦)

公演データ

東京フィルハーモニー交響楽団 第1006回サントリー定期シリーズ 

指揮:出口大地
ヴァイオリン:服部百音
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団

プログラム
ハチャトゥリアン:「ヴァレンシアの寡婦」組曲より
ファジル・サイ:ヴァイオリン協奏曲「ハーレムの千一夜」
コダーイ:ガランタ舞曲
コダーイ:ハンガリー民謡「孔雀は飛んだ」による変奏曲

ソリスト・アンコール
パガニーニ:ヴェニスの謝肉祭

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柴田克彦

しばた・かつひこ

音楽マネジメント勤務を経て、フリーの音楽ライター、評論家、編集者となる。「ぶらあぼ」「ぴあクラシック」「音楽の友」「モーストリー・クラシック」等の雑誌、「毎日新聞クラシックナビ」等のWeb媒体、公演プログラム、CDブックレットへの寄稿、プログラムや冊子の編集、講演や講座など、クラシック音楽をフィールドに幅広く活動。アーティストへのインタビューも多数行っている。著書に「山本直純と小澤征爾」(朝日新書)。

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