ライアン・ウィグルスワース指揮 東京都交響楽団 第1009回定期演奏会Aシリーズ

大作曲家たちのメッセージをどこまでも美しく届けるマエストロ、ウィグルスワースが描いた壮大なドラマ

都響初登場のウィグルスワースは、作曲家、ピアニストでもある指揮者らしい明晰なタクトで綿密な意図のもと並んだ20世紀の作品を壮大なドラマとして描いてみせた。
シェーンベルクの「5つの管弦楽曲」は、片山杜秀氏のプログラム解説によると作曲家自身が直面した妻の不倫の後に書かれており、「予感」「過去」「急転」といった表題も腑に落ちる。ウィグルスワースは、紗幕がかかっているような追憶の響きや、シンプルな和音の音色の変化も冷静にコントロール、第5曲で各楽器の語りが連なるような無限旋律さえ抒情的で美しく聴かせた。

都響初登場のライアン・ウィグルスワース ©堀田力丸/東京都交響楽団提供
都響初登場のライアン・ウィグルスワース ©堀田力丸/東京都交響楽団提供

後半はシェーンベルクと共に生誕150年を迎えたホルストの「惑星」。前述の「5つの管弦楽曲」の世界初演(1912年)を聴いて着想を得たという。ウィグルスワースはここでもオーケストラの響きを際立たせ、管弦楽のうねりの中から聴こえるソロ楽器や、曲想の対比も明確、大音響でもその響きはクリアだ。「火星」や「木星」のような旋律そのものが映像的な曲では、頂点をしっかり定め名手揃いの都響を存分に歌わせる。「土星」のしっとりと和声を聴かせながら音色を変化させる巧さや「天王星」の魔法使いの息づかいが感じられる劇的な表現にも魅せられた。「海王星」では、女声合唱も舞台裏から管弦楽と溶け合う見事なバランスで神秘的だった。

武満徹「アステリズム」。ピアノ独奏は北村朋幹 ©堀田力丸/東京都交響楽団提供
武満徹「アステリズム」。ピアノ独奏は北村朋幹 ©堀田力丸/東京都交響楽団提供

星繋がりで前半2曲目に演奏された武満徹の「アステリズム」、2台のハープとチェレスタ、北村朋幹のピアノが指揮を囲むような配置で、オーケストラ後方の打楽器群とともに星の煌めきを発する。遠景では美しく見えるが実態は大爆発の連鎖である星群のように、音楽も大音響をもたらす。2分にもわたる長大なクレッシェンドは武満作品でも他でも聴いたことがない。そのカタストロフィのあと奏でるピアノの美しいこと。
今日のプログラムは、いずれもハープとチェレスタが活躍した。三者三様の楽器の使い方も興味深く、星となった大作曲家たちのメッセージをどこまでも美しく届けてくれたマエストロだった。

(毬沙琳)

公演データ

東京都交響楽団 第1009回定期演奏会Aシリーズ

10月7日(月)19:00東京文化会館

指揮:ライアン・ウィグルスワース
ピアノ:北村朋幹
女声合唱:栗友会合唱団
管弦楽:東京都交響楽団

プログラム
シェーンベルク:5つの管弦楽曲Op.16(1909年原典版[1922年改訂])
武満 徹:アステリズム(1968)
ホルスト:組曲「惑星」Op.32

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毬沙 琳

まるしゃ・りん

大手メディア企業勤務の傍ら、音楽ジャーナリストとしてクラシック音楽やオペラ公演などの取材活動を行う。近年はドイツ・バイロイト音楽祭を頻繁に訪れるなどし、ワーグナーを中心とした海外オペラ上演の最先端を取材。在京のオーケストラ事情にも精通している。

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