ジョナサン・ノット指揮 新日本フィルハーモニー交響楽団 フェスタサマーミューザKAWASAKI2024

ノット&新日本フィルの初コラボは白熱の快演

〝ラスト・サマーミューザ〟だった井上道義の病気降板で、ジョナサン・ノットが代役に立った新日本フィルの公演。演目はマーラーの交響曲第7番「夜の歌」のままだが、同曲はバンベルク響と録音し東響とも演奏したノットの掌中の作品でもある。なお、東響での通常時と同じ対抗配置での演奏。

井上道義の代役で急きょ指揮台に立つことになったジョナサン・ノット (C)平舘平
井上道義の代役で急きょ指揮台に立つことになったジョナサン・ノット (C)平舘平

注目されるのはむろんノット&新日本フィルの初コラボだ。これは白熱の快演として結実したと言っていい。ノットは細部まで光を当てた密度の濃い音楽を創造し、新日本フィルは高い集中力で即応しながら輝かしく生気に満ちた演奏を展開。ホルンやトランペットをはじめとする各楽器やテノールホルン(テナーテューバ、齋藤充)のソロも見事だった。ノットが東響の時より打点を明確に示したことが精度の高さをもたらし、結果的に新日本フィルの潜在能力を引き出したのも確か。彼がホールの特性を熟知している点、及び分解能がよくてリアルなホールの響きそのものも味方した(普段隠れがちな動きや、第4楽章のギターとマンドリンも明確に聴こえた)と言えるだろう。

表現自体は〝おどろおどろしくない〟陽性でシンフォニックな「夜の歌」。奇数楽章と偶数楽章の質感の差が少ない、首尾一貫したトーンによる演奏だった。ノットの目配りは細かく、意外なテンポで運ばれる場面等もあるが、音楽の流動性は終始維持されている。特に第1楽章は細やかさと濃厚さと雄大な流れが共生した名演。かの第5楽章も、喧騒感や情景の急変が強調されず、前4楽章との違和感がほとんどない。個人的には、楽章ごとの変化が激しく、終楽章で急な乱痴気騒ぎとなる演奏の方が好みではあるが、交響曲としての統一性の高いこの表現が一つの説得力を持っていたのは間違いない。

終演後は大喝采の嵐。楽員退場後のアンコールに、コンサートマスターの崔文洙がノットの手を引いて登場したのも印象的だった。本公演は思わぬ良き邂逅(かいこう)だったのかもしれない。

終演後、満席の会場から大喝采の嵐が沸き起こった (C)平舘平
終演後、満席の会場から大喝采の嵐が沸き起こった (C)平舘平
ノットとコンサートマスターの崔文洙が健闘を称え合った (C)平舘平
ノットとコンサートマスターの崔文洙が健闘を称え合った (C)平舘平


(柴田克彦)

公演データ

新日本フィルハーモニー交響楽団 フェスタサマーミューザKAWASAKI2024 

8月2日(金)15:00ミューザ川崎シンフォニーホール

指揮:ジョナサン・ノット
管弦楽:新日本フィルハーモニー交響楽団
コンサートマスター:崔文洙

プログラム
マーラー:交響曲第7番 ホ短調「夜の歌」

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柴田克彦

しばた・かつひこ

音楽マネジメント勤務を経て、フリーの音楽ライター、評論家、編集者となる。「ぶらあぼ」「ぴあクラシック」「音楽の友」「モーストリー・クラシック」等の雑誌、「毎日新聞クラシックナビ」等のWeb媒体、公演プログラム、CDブックレットへの寄稿、プログラムや冊子の編集、講演や講座など、クラシック音楽をフィールドに幅広く活動。アーティストへのインタビューも多数行っている。著書に「山本直純と小澤征爾」(朝日新書)。

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