繊細かつ豪快な沖澤のどか(指揮)と巨大なスケールの阪田知樹(ピアノ)が華麗な初共演
R.シュトラウスの交響詩「ドン・ファン」、交響詩の創設者リストのピアノ協奏曲第2番、サン=サーンスがリストに捧げた「オルガン付き」というリストを軸とする秀逸なプログラム。奇(く)しくも、7月31日はリストの命日(1886年没)でもあった。
沖澤のどかは読響とは3度目の共演。R.シュトラウス「交響詩〝ドン・ファン〟」は、冒頭のドン・ファンのテーマから勢いがあり素晴らしいスタート。女性との出会いを表すオーボエはゆったりと歌わせた。ドン・ファンの第2テーマのホルン斉奏は雄大。最後の頂点は金管が壮大で弦も輝きが増した。結尾のドン・ファンの悲劇的な死を示すピッツィカートの間が絶妙。
リスト「ピアノ協奏曲第2番」を弾く阪田知樹は沖澤とは初共演。阪田の演奏はまさしくヴィルトゥオーゾ(名人・巨匠)そのもの。超絶的な技巧と巨大なスケールの演奏を展開した。
特に第1部の5オクターブにわたる下降、第2部最後のオクターブの連続はすさまじい。第3部のチェロの遠藤真理との二重奏は美しく、最後のカデンツァも華麗。第4部のオクターブ連続も圧巻。沖澤読響は阪田に押され気味だったが、第5部から第6部は阪田と完全に一体となって華やかに演奏を終えた。
サン=サーンス「交響曲第3番〝オルガン付き〟」は、沖澤が第1楽章第1部から厚みのある弦の響きを読響から引き出す。オルガンに導かれる第2部ポーコ・アダージョはゆったりとしたテンポで細やかな表情があった。
第2楽章第1部アレグロ・モデラートは激しく攻め、プレストも活発。
第2部マエストーソは大木麻理がオルガンをスコア通りフォルテでバランスよく強奏。ピアノ連弾による分散和音にのせコラール風主題が弦で美しく奏でられ、オルガンと金管、シンバルが色彩豊かに加わる。なだらかな主題と行進曲風主題が交互に現れコーダに向かって盛り上がり、最後はオルガン、金管、打楽器が加わり壮大なコーダに突入、ティンパニの強打と共に豪快に決めた。
沖澤は秋に出産も控えており、しかもこの日は夏風邪をひき声が出ず、プレトークを阪田に任せるなど、体調は万全ではなかったと思う。無理のないようゆっくり静養してほしい。
(長谷川京介)
公演データ
読売日本交響楽団 フェスタサマーミューザKAWASAKI2024
7月31日(水)19:00 ミューザ川崎シンフォニーホール
指揮:沖澤のどか
ピアノ:阪田知樹
パイプオルガン:大木麻理
管弦楽:読売日本交響楽団
コンサートマスター:日下紗矢子
プログラム
R.シュトラウス:交響詩「ドン・ファン」Op. 20
リスト:ピアノ協奏曲第2番 イ長調 S125/R456
サン=サーンス:交響曲第3番 ハ短調 Op. 78「オルガン付き」
はせがわ・きょうすけ
ソニー・ミュージックのプロデューサーとして、クラシックを中心に多ジャンルにわたるCDの企画・編成を担当。退職後は音楽評論家として、雑誌「音楽の友」「ぶらあぼ」などにコンサート評や記事を書くとともに、プログラムやCDの解説を執筆。ブログ「ベイのコンサート日記」でも知られる。