多彩なアンサンブルによる新旧取り混ぜたミニマル系音楽を堪能
久石譲のMUSIC FUTURE VOL.11が紀尾井ホールで開催された。弦楽四重奏から室内オーケストラまで、大きめのアンサンブルのための作品によるプログラム。2日連続公演の初日だったが、満員の聴衆。客層の若さ、外国人の比率の高さにいささか驚く(さすが、世界のJoe Hisaishiである)。
まずは、フィリップ・グラス/久石譲の「2 Pages Recomposed」。久石譲の指揮のもと、弦楽器5、木管楽器4、金管楽器3、打楽器2、鍵盤楽器という編成で演奏された。原曲は、グラスが1960年代後半に書いた彼の初期のミニマル作品である「2Pages」。それを久石が2018年にリコンポーズしたのが、本作。もともと鍵盤楽器のための作品であるが、音型の繰り返し、拍子の変化などのオリジナルを残しつつ、楽器を加え、久石が50年の隔たりを丁寧につなぐ。
続いて、フィリップ・グラスの弦楽四重奏曲第5番が、郷古廉、小林壱成、中村洋乃理、中実穂によって演奏された。1991年に書かれたこのミニマル・ミュージックによる弦楽四重奏曲は、美しく、心和む音楽。アンサンブルをリードする郷古はヴィブラートを交えて常に美しく奏でる。ピッツィカートも優しい。ヴィオラの中村がアクセントをきかせ、チェロの中も温かい音色を奏でる。つまり、粗野なところはなく、無機的な感じもない。高い技巧による再現。安心して作品を楽しむことができた。
デヴィッド・ラングの「ブレスレス」は木管五重奏曲。柳原佑介、坪池泉美、マルコス・ペレス・ミランダ、向後崇雄、信末碩才によって演奏された。2003年の作品。弱音を基本に(最後に強音に至る)、細かい断片が積み重ねられていく。演奏は決して容易でないように思われたが、微妙な変化が繊細に美しく描かれていた。
マックス・リヒター/久石譲の「オン・ザ・ネイチャー・オブ・デイライト」は7人の管楽器奏者による演奏。原曲はリヒターの2004年の弦楽五重奏曲。それを今回久石が、金管楽器を中心とする静謐な音楽に編曲した。トロンボーンが支えとなり、ホルン(福川伸陽と信末碩才)が高音域で歌ったりもする。
高い水準で創造された久石譲「The Chamber Symphony No.3」(世界初演)
最後の久石譲の「The Chamber Symphony No.3(室内交響曲第3番)」は世界初演。久石の指揮のもと、弦楽器5、木管楽器4、金管楽器4、打楽器2、ピアノの計16名の奏者で演奏された。3つの楽章からなる22分ほどの作品。拍子やリズムが複雑だが、難解な感じはしない。楽器の用法や組み合わせが多彩かつ豊富(たとえば金管楽器も弦楽四重奏と同様に細かく動いたりする)。レガートな旋律やコラール風の管楽器の吹奏もあり、終楽章は力強く締め括られた。個々の奏者の献身的な演奏により、高い水準での再現・創造となった。
多彩なアンサンブルによる新旧取り混ぜたミニマル系音楽を満喫することができた一夜。
(山田治生)
公演データ
久石譲プレゼンツMUSIC FUTURE VOL.11
7月25日(木)19:00 紀尾井ホール
指揮:久石譲
管弦楽:ミュージックフューチャーバンド
プログラム
フィリップ・グラス/久石譲:2 Pages Recomposed
フィリップ・グラス:弦楽四重奏曲第5番
デヴィッド・ラング:ブレスレス
マックス・リヒター/久石譲:オン・ザ・ネイチャー・オブ・デイライト
久石譲:The Chamber Symphony No.3(世界初演)
やまだ・はるお
音楽評論家。1964年、京都市生まれ。87年、慶応義塾大学経済学部卒業。90年から音楽に関する執筆を行っている。著書に、小澤征爾の評伝である「音楽の旅人」「トスカニーニ」「いまどきのクラシック音楽の愉しみ方」、編著書に「オペラガイド130選」「戦後のオペラ」「バロック・オペラ」などがある。