2015年以来2度目のブルックナー「7番」でユニークな快演を聴かせる
ジョナサン・ノットが2026年3月で東響の音楽監督を退任するというニュースは、ファンを驚かせたことだろう。今回の定期演奏会でメーンとなったブルックナーの交響曲第7番は、音楽監督2年目の2015年6月に取り上げて以来、2度目の共演。残り任期2年を切ったタイミングでの再演には、総仕上げモード感が漂う。
前回(2015年)の定期前半はR・シュトラウスの「メタモルフォーゼン」だった。それに対し今回は、ラヴェルが第1次世界大戦で失った友人をしのんで書いた組曲「クープランの墓」。ワーグナー追悼の意がこもる後半の交響曲、そして20世紀前半という作曲年代を呼応させたプログラミングに、まずノット一流の鋭いセンスがみえる。
スイス・ロマンド管の音楽監督も兼任するノットにとって、フランスものは近しい存在。しかし今回はブルックナーとの連関を意識したのだろう、いつものようにエッジの効いた明晰(めいせき)な色彩感を繰り出すのではなく、穏健でノーブルな雰囲気が濃い。特に第3曲「メヌエット」までは遅めのテンポで擬古典風な色合いを柔らかく描き出し、ようやく終曲「リゴードン」に至ってラヴェルらしい華麗さを解放した。オーボエの荒木良太が好演。
随所のアクセントが効果的だったブルックナー「7番」
そして後半のブルックナーも、ノットならではのユニークな快演となった。全体を貫くのは、オルガンを意識した響きや音色の練り上げと、スムーズでまろやかなテクスチュアで、前半にも通じるジェントルな作り。各楽章の主要主題をレガートで丁寧に扱い、25分ほど掛かった入念な第2楽章が終わると、しばし会場全体が静寂に包まれた。
一方、曲の構造を的確に把握し、じっくり運んだ第1、2楽章と、快活なテンポの第3、4楽章を巧みに対比。第2楽章の頂点でノヴァーク版通り3種類の打楽器を使い、第1、3楽章でティンパニを強打させるなど、随所のアクセントが効果的だった。
当日の模様はライヴ録音され、貴重な記録となりそうだ。
(深瀬満)
公演データ
東京交響楽団第722回定期演奏会
7月20日(土)18:00 サントリーホール
指揮:ジョナサン・ノット
管弦楽:東京交響楽団
プログラム
ラヴェル:クープランの墓(管弦楽版)
ブルックナー:交響曲 第7番 ホ長調 WAB 107
ふかせ・みちる
音楽ジャーナリスト。早大卒。一般紙の音楽担当記者を経て、広く書き手として活動。音楽界やアーティストの動向を追いかける。専門誌やウェブ・メディア、CDのライナーノート等に寄稿。ディスク評やオーディオ評論も手がける。