7年ぶりの都響との共演で清新なブルックナーを聴かせ満員の聴衆を魅了したフルシャ
チェコ出身の指揮者、ヤクブ・フルシャとの7年ぶりの共演となる東京都交響楽団の定期演奏会。フルシャは2010~17年に都響の首席客演指揮者を務めていたが、その後、コロナ禍などで再共演が実現してこなかった。この間、彼はバルベルク響首席指揮者などの枢要なポストに就き、来年から英国ロイヤル・オペラの音楽監督就任が決まるなどの活躍を続けてきた。ひと回り大きくなって都響の指揮台に帰ってきたフルシャとの共演にファンの期待も大きくチケットは完売した。
前半は東京生まれで米国、カナダで研さんを積み、欧米で活動の場を広げている五明佳廉(ごみょうかれん)のソロでブルッフのヴァイオリン協奏曲。五明は音楽の軸を堅固に維持しながらスケールの大きな演奏を聴かせ満員の聴衆を圧倒。フルシャ&都響との相性も良かった。
後半のブルックナー4番は米国の音楽学者ベンジャミン・M・コーストヴェットが2018年に刊行した第2稿の最新校訂版を採用しての演奏。フルシャは21年にベルリン・フィルの定期でもこの版を使っている。全体としては木管やヴィオラなどの内声部が強調されており、指揮者の解釈かもしれないがテンポの変化がハース版(1936年)やノヴァーク版(1953年)に比べると顕著に聴こえるような印象。
フルシャは全体に速めのテンポで流麗に音楽を進めていく。音量の調整が細密になされ全曲にわたって絶妙なバランスで響きが構築されていた。例えば第1楽章展開部のコラール。金管セクション各パートの音量を均一化し、極端な強音を出さずに弦楽器との調和を保ちながらパイプ・オルガンのような響きを創出。そこにヴィオラによる対旋律を絡ませる。ヴィオラをヴァイオリンのトレモロに埋没させないようにコントロール。コラール終盤では均衡を破ってトランペットを突出させ収束させていくなどの工夫が随所に凝らされていた。
都響の厚く温かみのある弦セクションの響きも美しく、老練の巨匠指揮者とはひと味違った清新なブルックナー像が描き出されていた。第4楽章終盤の燃焼度は高く、終演後、オケが退場しても万雷の拍手が鳴りやまず、フルシャが舞台に再登場して歓呼に応えていた。
(宮嶋極)
公演データ
東京都交響楽団第1003回定期演奏会Bシリーズ
2024年7月4日(木)19:00 サントリーホール
指揮:ヤクブ・フルシャ
ヴァイオリン:五明 佳廉
コンサートマスター:矢部 達哉
管弦楽:東京都交響楽団
プログラム
ブルッフ:ヴァイオリン協奏曲第1番ト短調Op.26
ブルックナー:交響曲第4番変ホ長調WAB.104「ロマンティック」
(コーストヴェット1878/80年版)
ソリスト・アンコール
ピアソラ:タンゴ・エチュード第3番
みやじま・きわみ
放送番組・映像制作会社である毎日映画社に勤務する傍ら音楽ジャーナリストとしても活動。オーケストラ、ドイツ・オペラの分野を重点に取材を展開。中でもワーグナー作品上演の総本山といわれるドイツ・バイロイト音楽祭には2000年代以降、ほぼ毎年訪れるなどして公演のみならずバックステージの情報収集にも力を入れている。