ヤニック・ネゼ=セガン指揮 METオーケストラ来日公演2024

動的でドラマティック!最高峰のオーケストラと歌手たちの音楽性が結実した一夜

METオーケストラ(メトロポリタン歌劇場管弦楽団)が音楽監督ヤニック・ネゼ=セガンとともに来日し、オペラやオペラの一部分の音楽で構成されたプログラムで、アメリカ最高峰のオーケストラの実力を遺憾なく発揮した。

METオーケストラの音楽監督ヤニック・ネゼ=セガンが登場(C)Naoko Nagasawa
METオーケストラの音楽監督ヤニック・ネゼ=セガンが登場(C)Naoko Nagasawa

ワーグナーの歌劇「さまよえるオランダ人」序曲は、ショッキングなほどに目覚ましく始まった。おそらく、ピットでオペラの序曲として同曲を演奏するときよりも、オーケストラのテンションが高いに違いないと思われた(つまり最初から全力投球)。ネゼ=セガンは、決して杓子定規にはならず、常に微妙にテンポを変化させる。音楽が動的でドラマティックである。

 

ドビュッシーの歌劇「ペレアスとメリザンド」組曲は、エーリッヒ・ラインスドルフが同オペラからオーケストラだけの部分を中心に順番を変えずに巧みにつないだ30分弱の作品。ちなみにラインスドルフは1930年代にメトロポリタン歌劇場の指揮者であった。ネゼ=セガンは丁寧な音楽作り。オーケストラは繊細で温かみのある響き。音色も良い。メトロポリタン歌劇場では、ネゼ=セガンのほか、サイモン・ラトルも「ペレアスとメリザンド」を指揮している。そういう積み重ねも感じさせる演奏だった。

ガランチャ、ヴァン・ホーン、オーケストラ、3者による卓越した感情表現

クリスチャン・ヴァン・ホーン(左)エリーナ・ガランチャ(右)ともに十分な声量で、感情表現も見事だった(C)Naoko Nagasawa
クリスチャン・ヴァン・ホーン(左)エリーナ・ガランチャ(右)ともに十分な声量で、感情表現も見事だった(C)Naoko Nagasawa

バルトークの歌劇「青ひげ公の城」では、エリーナ・ガランチャとクリスチャン・ヴァン・ホーンが独唱を務めた。演奏会形式だが、目線や体の向きでわずかな演技が入る。青ひげ役のヴァン・ホーンは十分な声量で威厳もある。ユディット役のガランチャがとりわけ素晴らしかった。オーケストラに負けない声量はもちろんのこと、思い詰めながらも毅然とした佇まいが役柄にぴったりで、低音から高音まで声による多彩な表現、こまやかな表情が見事であった。ネゼ=セガンの指揮は、劇的であるが、その一方で声とのバランスにも配慮していることが演奏会形式でなおさらよくわかった。オルガンと2階客席の左右に分かれて金管楽器のバンダが入った第5の扉の音楽も、野放図に鳴らされることはなく、ホールにちょうどよく響き渡るほどの最強音であった。最後の第7の扉あたりの心理劇というべき、青ひげ、ユディット、オーケストラ、3者の感情表現が素晴らしかった。弦楽器は洗練され、管楽器は個々が上手く、特に金管楽器は強音だけでなく弱音も見事であった。

(山田治生)

※取材は6月25日(火)の公演

公演データ

METオーケストラ来日公演2024

2024年6月25日(火)、27日(木)19:00サントリーホール大ホール

指揮:ヤニック・ネゼ=セガン
メゾソプラノ:エリーナ・ガランチャ
バスバリトン:クリスチャン・ヴァン・ホーン
管弦楽:MET オーケストラ

プログラム
ワーグナー:歌劇「さまよえるオランダ人」序曲
ドビュッシー:歌劇「ペレアスとメリザンド」組曲(ラインスドルフ編)
バルトーク:歌劇「青ひげ公の城」(演奏会形式・日本語字幕付)

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山田 治生

やまだ・はるお

音楽評論家。1964年、京都市生まれ。87年、慶応義塾大学経済学部卒業。90年から音楽に関する執筆を行っている。著書に、小澤征爾の評伝である「音楽の旅人」「トスカニーニ」「いまどきのクラシック音楽の愉しみ方」、編著書に「オペラガイド130選」「戦後のオペラ」「バロック・オペラ」などがある。

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