メシアンの世界へ引き込む極彩色のサウンド――チョンと東京フィルが生んだ最良の果実
名匠チョン・ミョンフンと作曲家メシアンの深い縁は、よく知られるところ。特に「トゥランガリーラ交響曲」は、作曲者のお墨付きを得た録音(ドイツ・グラモフォン)が有名だ。名誉音楽監督を務める東京フィルの記念すべき定期演奏会1000回目に、この華麗でモダンな大作は実にふさわしい。
3回連続公演の中日、1001回目のサントリー定期シリーズも、作品を自家薬籠中の物にしたチョンの共感と自信あふれる解釈と、オーケストラの献身的な熱演が相まった、活気に満ちたステージとなった。
チョンが本作を東京フィルで振るのは2007年以来、17年ぶりという。第1楽章「序奏」冒頭に現れる「彫像の主題」から、極彩色のサウンドが押し出しよく広がり、メシアンの世界へぐんぐん引き込まれる。チョンは10楽章に及ぶ作品のシンメトリカルな構造を念頭に置きつつ、各楽章の性格を丹念に描出。複数の主題が縦横無尽に発展する面白さを解き明かし、色彩のるつぼに飲み込まれるような快感を味わわせた。
ことに艶やかなエロスの噴出をとらえたドラマティックな語り口はチョンの独壇場。急速な楽章での颯爽としたリード、緩徐楽章の神秘的な色合いの対比が鮮やかだった。
ソリストの充実ぶりも華を添えた。ピアノの務川慧悟は、直前にストラヴィンスキーの3大バレエを2台ピアノで取り上げ、明晰でスムーズな快演を聴かせたばかり。ここでもデリケートな色彩感覚を発揮して、据わりの良い独奏を披露。バランスのとれた率直なスタイルで管弦楽と渡りあった。オンド・マルトノの大家、原田節は余裕あるアプローチをみせた。
何度もクライマックスに到達する、はじけた高揚感は、オペラで鍛えられた東京フィルの劇的表出力に負った部分も大きい。チョンとのコンビで生んだ最良の果実の一つとして、長く聴衆の記憶に残ることだろう。
(深瀬満)
※取材は6月24日の公演
公演データ
東京フィルハーモニー交響楽団 第1001回サントリー定期シリーズ
2024年6月23日(日)15:00Bunkamuraオーチャードホール、24日(月)19:00サントリーホール、26日(水)19:00東京オペラシティ コンサートホール
指揮:チョン・ミョンフン
ピアノ:務川慧悟
オンド・マルトノ:原田 節
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団
プログラム
メシアン:トゥランガリーラ交響曲
ふかせ・みちる
音楽ジャーナリスト。早大卒。一般紙の音楽担当記者を経て、広く書き手として活動。音楽界やアーティストの動向を追いかける。専門誌やウェブ・メディア、CDのライナーノート等に寄稿。ディスク評やオーディオ評論も手がける。