巨匠デュトワ健在! 豪壮華麗な快演
シャルル・デュトワが新日本フィルハーモニー交響楽団の定期に登場した。彼はインバルと同じく1936年の生まれ、今年10月には88歳になるはずだが、とてもそのような年齢とは信じられぬほどの精力的な舞台姿だ。颯爽と歩を進め、椅子も使わず、終始立ったままで、昔と全く同じような身振りで指揮をする。オーケストラを鮮やかに制御し、豪華絢爛たる色彩感にあふれた音楽を引き出す。そして、その彼のもと、新日本フィルが水を得た魚のように躍動し、緻密かつ壮麗な響きでステージを彩っていたのも喜ばしい。
冒頭のハイドンの「ロンドン交響曲」からして堂々たる風格の演奏で、弦12型(注)編成による分厚い響きがこの作品を極めて大きなスケール感で満たす。彼の最後のこの交響曲は、そうしたアプローチの演奏にも相応しいだろう。
デュトワの真骨頂で、新日本フィルから見事なアンサンブルを引き出す
だが、デュトワの真骨頂は、予想通り次のストラヴィンスキーの「ペトルーシュカ」(1911年原典版)と、続くラヴェルの「ダフニスとクロエ」第2組曲とで全開する。前者での新日本フィルの、万華鏡のように多彩に変化する音色、華麗でありながら緻密なアンサンブルの見事さは、この楽団からは久しぶりに聴くものであった(阪田知樹のピアノ・ソロがそれに花を添えたことは言うまでもない)。
この曲で今夜の演奏のクライマックス――といってもいいほどの素晴らしさだったのに、デュトワはさらにそのあと、この曲に勝るとも劣らぬカラフルで豪壮な「ダフニスとクロエ」第2組曲を指揮しはじめる。首席フルート奏者の野津雄太の雄弁で美しい有名なソロをはじめ、新日本フィルの各パートも「ペトルーシュカ」での演奏と同様に映えて、豪快な頂点を形づくった。この2曲は、もちろん弦16型の大編成である。
熱気充分の演奏会だった。なにより、デュトワの健在ぶりがうれしい。が、このような超重量級プログラムを指揮して、彼もさすがに疲れたのだろう、聴衆のいつ果てるともなく続く拍手にもかかわらず、ソロ・カーテンコールにはついに現れなかった。
(東条碩夫)
※取材は6月11日(火)の公演
(注)弦12型:第1ヴァイオリン12人を基準とし、以下第2ヴァイオリン10、ヴィオラ8、チェロ6、コントラバス4という編成になる。「16型」もこれに準じる。
公演データ
新日本フィルハーモニー交響楽団 第657回定期演奏会(サントリーホール・シリーズ)
2024年6月11日(火)19:00サントリーホール
指揮:シャルル・デュトワ
ピアノ:阪田知樹
管弦楽:新日本フィルハーモニー交響楽団
プログラム
ハイドン:交響曲第104番 ニ長調 Hob.I:104「ロンドン」
ストラヴィンスキー:バレエ音楽「ペトルーシュカ」(1911年原典版)
ラヴェル:「ダフニスとクロエ」第2組曲
とうじょう・ひろお
早稲田大学卒。1963年FM東海(のちのFM東京)に入社、「TDKオリジナル・コンサート」「新日フィル・コンサート」など同社のクラシック番組の制作を手掛ける。1975年度文化庁芸術祭ラジオ音楽部門大賞受賞番組(武満徹作曲「カトレーン」)制作。現在はフリーの評論家として新聞・雑誌等に寄稿している。著書・共著に「朝比奈隆ベートーヴェンの交響曲を語る」(中公新書)、「伝説のクラシック・ライヴ」(TOKYO FM出版)他。ブログ「東条碩夫のコンサート日記」 公開中。