明るく生気に満ちた充実のメンデルスゾーン
メンデルスゾーンの交響曲第5番を生演奏で聴いたのはいつ以来であろうか。日本のオケの公演では演目が多様化した一方で20~30年くらい前までは頻繁に取り上げられたメンデルスゾーン、シューマン、シューベルト、モーツァルト、ハイドンらの作品が少なくなったと感じているのは筆者だけであろうか。この日も含めルイージによる公演予定を通覧してみると、そうした点にもしっかりと光を当てていこうとの意図が窺える。
さて、かつてメンデルスゾーンが活躍したライプツィヒのMDR交響楽団の芸術監督を10年以上にわたって務めたルイージだけに、この作曲家の演奏経験も豊富で、作品の〝キモ〟を熟知していることが伝わってくる組み立てによって、瑞々しい生命感にあふれた演奏に仕上げていた。
「夏の夜の夢」序曲、最初のフォルティシモからオケ全体がよく鳴っていることに思わずハッとさせられる。前半は有名な結婚行進曲によって締めくくられたが、ワーグナー初期の作品に通じていく和声が感じ取れたのが興味深かった。
後のワーグナーやブルックナーにも伝承されていくスタイルという意味では後半の交響曲第5番でより顕著に表現されていた。「パルジファル」でも知られるドレスデン・アーメンが主要モティーフとして採用されているが、これまでこの曲を聴いてワーグナーとの共通項を感じ取れることは多くはなかった。ルイージはドイツ音楽の重要な要素である教会旋法を出発点とした和声進行とそれをベースに繰り広げられる対位法の妙(特に第4楽章)を鮮やかに描き出し、作品の奥深さと後の作曲家に受け継がれていく手法の萌芽を浮き彫りにしてみせた。
こうした解釈に管楽器各トップはち密で美しいソロで応え、そして何よりも第1コンマス郷古廉の熱いリードでオケ全体が躍動する秀演となった。派手さには欠ける演目ながら終演後にオケが退場しても拍手が鳴り止まず、ルイージと郷古が舞台に再登場する盛り上がりになったことにもこの日の演奏レベルの高さが表れていた。
(宮嶋 極)
公演データ
NHK交響楽団第2011回定期公演 Cプログラム
2024年5月18日(土)14:00 NHKホール
指揮:ファビオ・ルイージ
プログラム
メンデルスゾーン:「夏の夜の夢」の音楽から〝序曲〟〝夜想曲〟〝スケルツォ〟〝結婚行進曲〟
メンデルスゾーン:交響曲第5番ニ短調Op.107 「宗教改革」
みやじま・きわみ
放送番組・映像制作会社である毎日映画社に勤務する傍ら音楽ジャーナリストとしても活動。オーケストラ、ドイツ・オペラの分野を重点に取材を展開。中でもワーグナー作品上演の総本山といわれるドイツ・バイロイト音楽祭には2000年代以降、ほぼ毎年訪れるなどして公演のみならずバックステージの情報収集にも力を入れている。