ジョナサン・ノット指揮 東京交響楽団第720回定期演奏会

作品同士が共鳴するノット東響の秀逸なプログラム

ベルクの間接的な影響も指摘される武満徹、ベルクが心酔したマーラーで構成されたプログラムは実に秀逸で、作品同士が共鳴するようだ。常に新しいことに挑戦するノットの狙いが伝わってくる。

秀逸なプログラムを披露した音楽監督で指揮者のジョナサン・ノット©N.Ikegami/TSO
秀逸なプログラムを披露した音楽監督で指揮者のジョナサン・ノット©N.Ikegami/TSO

「鳥は星形の庭に降りる」は武満徹が見た、黒い鳥に率いられた白い鳥たちが五角形の庭に降りる夢を描いた作品。オーボエの鳥の主題に始まり、不吉な不協和音が高まり、庭を表す柔らかな弦が浮かび上がる。ノット東響の演奏はダイナミックで色彩が豊か。虹が消えていくような終結は、マーラー「大地の歌」の最後にも通じる。

 

「演奏会用アリア〝ぶどう酒〟」は、ベルクがウィーンのソプラノ歌手ヘルリンガーから依頼され、ゲオルゲによるドイツ語訳のボードレールの詩集『悪の華』の3編に曲を付けたもの。第2曲「愛する者たちのぶどう酒」には、不倫関係にあった人妻ハンナ・フックスのイニシャルの調性を忍ばせた。ソプラノ髙橋絵里の歌唱は声量もあり伸びやかだが、ドイツ語の発音がやや不明瞭でベルクの秘めた意図が伝わってこない点が残念。

 

マーラー「大地の歌」は、ブダペスト生まれでウィーン国立音楽大学に学んだメゾソプラノのドロティア・ラングとハノーファー生まれのテノール、ベンヤミン・ブルンスがソリスト。2人のドイツ語は明瞭。ブルンスは張りのある美声の持ち主で、第1曲「酒興の歌、地上の苦しみについて」は大管弦楽に負けることなく、声が前に出ていた。

張りのある美声を聴かせたベンヤミン・ブルンス©N.Ikegami/TSO
張りのある美声を聴かせたベンヤミン・ブルンス©N.Ikegami/TSO

全体の約半分を占める第6曲「別れ」は「大地の歌」最大の聴かせどころ。ラングは透明感のある引き締まった声で歌う。特に素晴らしかったのは中間部の別れを告げるため友を待つ場面。相澤政宏の心打つフルートをバックに感動的に歌い上げた。

 

ノット東響の演奏は荒々しく迫力があり、各奏者のソロも見事だったが、いつもの緻密さが足りないようにも感じられた。2026年3月でノットの音楽監督としての任期満了という発表がもし演奏に影響しているとすれば心配だ。今後も自分たちが打ち立てた輝かしい金字塔の更に上を目指し、進んで行ってほしい。

(長谷川京介)

公演データ

東京交響楽団第720回定期演奏会

2024年5月12日(日)14時サントリーホール

指揮:ジョナサン・ノット
ソプラノ:髙橋絵理
メゾソプラノ:ドロティア・ラング
テノール:ベンヤミン・ブルンス
管弦楽:東京交響楽団

プログラム
武満徹:鳥は星形の庭に降りる
ベルク:演奏会用アリア「ぶどう酒」
マーラー:大地の歌

 

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長谷川京介

はせがわ・きょうすけ

ソニー・ミュージックのプロデューサーとして、クラシックを中心に多ジャンルにわたるCDの企画・編成を担当。退職後は音楽評論家として、雑誌「音楽の友」「ぶらあぼ」などにコンサート評や記事を書くとともに、プログラムやCDの解説を執筆。ブログ「ベイのコンサート日記」でも知られる。

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