山田和樹指揮 読売日本交響楽団第670回名曲シリーズ

確信に満ちた山田の指揮ぶりは圧巻!読響サウンドを生かした快演

山田和樹が振る読響の2月3プログラム最後の名曲シリーズ。R.シュトラウスの交響詩「ドン・ファン」、ブルッフのヴァイオリン協奏曲第1番(独奏はシモーネ・ラムスマ)、フランクの交響曲ニ短調という演目は、一見オーソドックスだが、同じ1888年作のドイツの物語風音楽とフランス系の絶対音楽を対置させた構成に、周到さがうかがえる。

山田が読響の首席客演指揮者という立場で共演する最後の名曲シリーズ (c)読売日本交響楽団 撮影=藤本崇
山田が読響の首席客演指揮者という立場で共演する最後の名曲シリーズ (c)読売日本交響楽団 撮影=藤本崇

「ドン・ファン」は、決然たる出だしから鮮烈で引き締まった音楽が続く。交代するメイン・フレーズが明確に示され、複雑な曲が見事に整理されていく。これは読響のゴージャスなサウンドも映えた快演で、感銘度は本日一番。

ブルッフのソロを弾いたラムスマは、豊麗で艶やかだが、音とフレーズの揺れ幅(ブレ)が大きい。それを、ロマンティックで表情豊かととるか、些(いささ)か不安定ととるか……筆者は後者。ただし第2楽章後半の静謐(せいひつ)な部分には耳を奪われた。

ブルッフ「ヴァイオリン協奏曲第1番」ではラムスマの豊麗で艶やかな音が響いた (c)読売日本交響楽団 撮影=藤本崇
ブルッフ「ヴァイオリン協奏曲第1番」ではラムスマの豊麗で艶やかな音が響いた (c)読売日本交響楽団 撮影=藤本崇

フランクの第1楽章はじっくりと細やかに進行。緩徐部分と快速部分を対照させるよりも、冒頭のトーンを終始維持した雄大な表現がなされる。第2楽章も甘美に過ぎず、第1楽章のトーンをキープ。いつになく重層的な第3楽章も同様だ。循環形式を重視したアプローチで、散漫になりがちな曲を1つの建造物としてまとめた稀有(けう)の演奏に感心しきり。

海外で経験を重ねた山田の指揮ぶりは、一段と確信に満ちており、スケールも大きくなったように感じる。小澤の後を継ぐのはやはり彼だと思わせる公演でもあった。

(柴田克彦)

公演データ

読売日本交響楽団 第670回名曲シリーズ

2024年2月13日(火)19:00サントリーホール

指揮:山田和樹
ヴァイオリン:シモーネ・ラムスマ

プログラム
R.シュトラウス:交響詩「ドン・ファン」 Op.20
ブルッフ:ヴァイオリン協奏曲第1番 ト短調 Op.26
フランク:交響曲 ニ短調

ソリストアンコール
イザイ:無伴奏ヴァイオリン・ソナタ 第2番より第4楽章

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柴田克彦

しばた・かつひこ

音楽マネジメント勤務を経て、フリーの音楽ライター、評論家、編集者となる。「ぶらあぼ」「ぴあクラシック」「音楽の友」「モーストリー・クラシック」等の雑誌、「毎日新聞クラシックナビ」等のWeb媒体、公演プログラム、CDブックレットへの寄稿、プログラムや冊子の編集、講演や講座など、クラシック音楽をフィールドに幅広く活動。アーティストへのインタビューも多数行っている。著書に「山本直純と小澤征爾」(朝日新書)。

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